213 / 262
第四章
[ 207 ] 新しい冒険者
しおりを挟む
ギルドに入ってきたその姿に、僕らは少しギョッとした。
身長はハリルベルほどだが、全身黒い洋服に僕と同じ銀髪。そして顔を覆うほどの大きな黒いマスクをつけていた。
「なんだ、あの仮面……」
「ちょ、ハリルベル。失礼だよ」
僕が仮面よりも驚いたのは、背中に背負った身の丈ほどもある巨大な剣。あの腕であれを振り回せるほどの筋力があるとは思えない。
「ゼクト様、いらっしゃいませ」
メイドのキキは仮面の人物と顔見知りらしい。僕らが来た時のように丁寧にお辞儀をすると、慣れた手付きでカウンターへ案内した。
「依頼は入っているか?」
少し高いトーンの女性の声……。仮面で顔はわからないがどうやら女性のようだ。
「あ、ゼクトさん。ちょうど良かった」
僕らとソファーに座っていたクルトさんが声をかけると、ゼクトと呼ばれた仮面の女性はこちらへ視線を向けた。
その黒い仮面は目の部分に赤いラインが引かれており、隙間から覗く瞳は……僕らのことを見た瞬間、見開かれた気がした。
「ん? なんか俺らのこと見てないか? ロイエの知り合いか?」
「いや知らないけど……」
僕と目が合うと、ふいっとゼクトは視線を切った。
「えっとですね。こないだの依頼ですが、やっと報酬が届きまして……」
クルトさんはゼクトとカウンターへ向かい、なにやら手続きをしはじめた。あの視線……気になる。
「どうしたロイエ?」
「ううん。なんでもないよ」
「それよりロイエが魔法使えないとなると、万が一のためにレッドポーション欲しいよな」
「あの、ハリルベル……」
「あ、わり」
魔法が使えないことは秘密にしようと言ったばかりなのに……。ゼクトとクルトさんはカウンターで何やら話し込んでるから、聞こえてはいないと思うけど、用心することに越したことはない。
「……では、ブラオヴォルフの討伐依頼ですね。お願いします」
「……わかった」
仮面の女は、そのまま依頼を受けるとギルドから出て行ってしまった。
「あの……クルトさん今の人は?」
「あぁ、ゼクトさん? 先週くらいからナッシュに来た王都の冒険者だよ」
「王都の? なぜこんな田舎に……」
「オレも聞いたんだけど、探し物があるとしか言わなくて……。あの様子だろ?依頼はちゃんとこなすし早いんだけど、やや寡黙で」
探し物……? なんだろうか。それよりもあの仮面をつけたままでは、依頼主にギルドカードの提示する際に受理を断られないのだろうか。
「あの人、ランクは?」
「あんまり個人の事を勝手に言っちゃダメなんだけど……。彼女の場合、有名だからいいか……ランクSだよ」
「S……?! ミアさんと同じレベルってことですか?」
「ああ、仮面のゼクトといえば、王都でも有名な冒険者らしい」
「らしい……?」
疑問ばかり浮かぶゼクトの話題について話していると、ギルドのドアを豪快に開けて、女の子が飛び込んできた。
「ウッスー!」
「テトラ様、いらっしゃいませ」
オレンジ色の髪にピンクのフードを被ったその子は、身長が低く見た目がまるで子供だが、腰に巻かれた剣が子供っぽさと相反していた。
「クルちゃんいるー?!」
「はぁ……なんですか?」
「おいおいー! 女の子相手にそんな嫌な顔するなよー! 傷付くでしょー!」
「はぁ……」
どことなくレオラに似ているけど、破天荒ぶりはさらに上を行きそうなオーラを感じる。きっと増えたという冒険者の一人だろう。
「ほい! 依頼終わったよ!どう?!えらい?!」
「もうですか?! 早いですね……」
「だっろー?」
「本当にやりました?」
「ひっどー! 冒険者の暗黙のルールでしょ? 疑わないのはー!」
「いつも早すぎるんだもん……。わかりました。依頼主に連絡します」
「うんうん! よろしくね! じゃあね!」
息継ぎ無しでずっと喋っていたテトラは、帰り際に僕らに気付いた。
「よっ! 新しい子? 三人も? いいねいいね! 困った事があったらお姉さんに聞いてね! じゃね!」
身長が僕より小さい癖にお姉さんぶって、出て行ってしまった。元気の塊みたいな人だな。
「まるで台風ですね……」
「う、うん。いい子なんだけどね。ちょっと人の話を聞かないところがあって……」
ちょっとならいいけど、全然聞かなそうだ……。ゼクトとテトラ。この二人が新たにこの街に来てくれた冒険者らしい。どちらも癖が強そうで、クルトさんの手腕が試される。
「彼女もこの街に新しく来た方ですか?」
「うん、彼女も王都から来たみたいで、ゼクトさんの事は彼女に聞いたんだよ」
「なるほど……」
「オレも元々他の冒険者のことは詳しく知らないし、前任者は引き継ぎなく辞めちゃっから」
確かに、アテル……前ギルドマスターは騎士団相手に暴れたのが原因で辞めさせられてしまったから、まともな引き継ぎをしてないのか。
マスターが戻ってきてる今だけでも、フォローしてもらえないだろうか。マスターに相談してみよう。
身長はハリルベルほどだが、全身黒い洋服に僕と同じ銀髪。そして顔を覆うほどの大きな黒いマスクをつけていた。
「なんだ、あの仮面……」
「ちょ、ハリルベル。失礼だよ」
僕が仮面よりも驚いたのは、背中に背負った身の丈ほどもある巨大な剣。あの腕であれを振り回せるほどの筋力があるとは思えない。
「ゼクト様、いらっしゃいませ」
メイドのキキは仮面の人物と顔見知りらしい。僕らが来た時のように丁寧にお辞儀をすると、慣れた手付きでカウンターへ案内した。
「依頼は入っているか?」
少し高いトーンの女性の声……。仮面で顔はわからないがどうやら女性のようだ。
「あ、ゼクトさん。ちょうど良かった」
僕らとソファーに座っていたクルトさんが声をかけると、ゼクトと呼ばれた仮面の女性はこちらへ視線を向けた。
その黒い仮面は目の部分に赤いラインが引かれており、隙間から覗く瞳は……僕らのことを見た瞬間、見開かれた気がした。
「ん? なんか俺らのこと見てないか? ロイエの知り合いか?」
「いや知らないけど……」
僕と目が合うと、ふいっとゼクトは視線を切った。
「えっとですね。こないだの依頼ですが、やっと報酬が届きまして……」
クルトさんはゼクトとカウンターへ向かい、なにやら手続きをしはじめた。あの視線……気になる。
「どうしたロイエ?」
「ううん。なんでもないよ」
「それよりロイエが魔法使えないとなると、万が一のためにレッドポーション欲しいよな」
「あの、ハリルベル……」
「あ、わり」
魔法が使えないことは秘密にしようと言ったばかりなのに……。ゼクトとクルトさんはカウンターで何やら話し込んでるから、聞こえてはいないと思うけど、用心することに越したことはない。
「……では、ブラオヴォルフの討伐依頼ですね。お願いします」
「……わかった」
仮面の女は、そのまま依頼を受けるとギルドから出て行ってしまった。
「あの……クルトさん今の人は?」
「あぁ、ゼクトさん? 先週くらいからナッシュに来た王都の冒険者だよ」
「王都の? なぜこんな田舎に……」
「オレも聞いたんだけど、探し物があるとしか言わなくて……。あの様子だろ?依頼はちゃんとこなすし早いんだけど、やや寡黙で」
探し物……? なんだろうか。それよりもあの仮面をつけたままでは、依頼主にギルドカードの提示する際に受理を断られないのだろうか。
「あの人、ランクは?」
「あんまり個人の事を勝手に言っちゃダメなんだけど……。彼女の場合、有名だからいいか……ランクSだよ」
「S……?! ミアさんと同じレベルってことですか?」
「ああ、仮面のゼクトといえば、王都でも有名な冒険者らしい」
「らしい……?」
疑問ばかり浮かぶゼクトの話題について話していると、ギルドのドアを豪快に開けて、女の子が飛び込んできた。
「ウッスー!」
「テトラ様、いらっしゃいませ」
オレンジ色の髪にピンクのフードを被ったその子は、身長が低く見た目がまるで子供だが、腰に巻かれた剣が子供っぽさと相反していた。
「クルちゃんいるー?!」
「はぁ……なんですか?」
「おいおいー! 女の子相手にそんな嫌な顔するなよー! 傷付くでしょー!」
「はぁ……」
どことなくレオラに似ているけど、破天荒ぶりはさらに上を行きそうなオーラを感じる。きっと増えたという冒険者の一人だろう。
「ほい! 依頼終わったよ!どう?!えらい?!」
「もうですか?! 早いですね……」
「だっろー?」
「本当にやりました?」
「ひっどー! 冒険者の暗黙のルールでしょ? 疑わないのはー!」
「いつも早すぎるんだもん……。わかりました。依頼主に連絡します」
「うんうん! よろしくね! じゃあね!」
息継ぎ無しでずっと喋っていたテトラは、帰り際に僕らに気付いた。
「よっ! 新しい子? 三人も? いいねいいね! 困った事があったらお姉さんに聞いてね! じゃね!」
身長が僕より小さい癖にお姉さんぶって、出て行ってしまった。元気の塊みたいな人だな。
「まるで台風ですね……」
「う、うん。いい子なんだけどね。ちょっと人の話を聞かないところがあって……」
ちょっとならいいけど、全然聞かなそうだ……。ゼクトとテトラ。この二人が新たにこの街に来てくれた冒険者らしい。どちらも癖が強そうで、クルトさんの手腕が試される。
「彼女もこの街に新しく来た方ですか?」
「うん、彼女も王都から来たみたいで、ゼクトさんの事は彼女に聞いたんだよ」
「なるほど……」
「オレも元々他の冒険者のことは詳しく知らないし、前任者は引き継ぎなく辞めちゃっから」
確かに、アテル……前ギルドマスターは騎士団相手に暴れたのが原因で辞めさせられてしまったから、まともな引き継ぎをしてないのか。
マスターが戻ってきてる今だけでも、フォローしてもらえないだろうか。マスターに相談してみよう。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
魔法属性が遺伝する異世界で、人間なのに、何故か魔族のみ保有する闇属性だったので魔王サイドに付きたいと思います
町島航太
ファンタジー
異常なお人好しである高校生雨宮良太は、見ず知らずの少女を通り魔から守り、死んでしまう。
善行と幸運がまるで釣り合っていない事を哀れんだ転生の女神ダネスは、彼を丁度平和な魔法の世界へと転生させる。
しかし、転生したと同時に魔王軍が復活。更に、良太自身も転生した家系的にも、人間的にもあり得ない闇の魔法属性を持って生まれてしまうのだった。
存在を疎んだ父に地下牢に入れられ、虐げられる毎日。そんな日常を壊してくれたのは、まさかの新魔王の幹部だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる