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慟哭
しおりを挟む急いで身支度を済ませ、心配そうなステラを横目に広場へと駆け出す。
物見塔の警鐘は何か緊急時、主に村への襲撃時に鳴らされるものである。近年は平穏が続いていたのでこの音を聞くのは久しぶりだった。警鐘が鳴った時は直ちに広場へ集合するのが村の準騎士達の掟であった。
広場へと到着すると既にディルクがいる。
「何があった?襲撃か?」
少し息を切らしながらディルクに尋ねた。
「いや、まだ確かなことは分からないらしいが、隣村で火の手が上がってる。アルバによると剣戟の音が聴こえるらしい。」
物見塔の常駐には視力や聴力に優れた者が選ばれる。アルバは村一番の耳を持っており、常人では聞き取れない隣村の鶏の鳴声も聞き取ることが出来た。
「総員、整列っ!!」
この村の準騎士団を束ねるアッシュの声が響き渡った。カチャカチャと忙しない音を立てながら、皆が隊ごとに纏まり横隊に並んだ。所属する準騎士のほぼ全員が集合している。
一隊につき約十人、計四隊が白兵戦の戦力で残り数名が弓隊となっている。
ゼノは二番隊、ディルクは三番隊に属している。暫く平穏な村にあってはまだこのような有事を経験したことが無い若い騎士もおり、何も語らずとも緊張がひしひしと伝わってくる。
各隊が点呼を済ませると、団長であるアッシュに人数を報告した。アッシュは人数の報告を聞くたび静かに頷く。報告が終わると神妙な面持ちで口を開いた。
「今、西のトトス村で火の手が上がっている。剣戟の音が聴こえるという報告から、賊の襲撃である可能性もある。この村に危害が及ぶ危険性もある為、これより村の西側に防衛の陣を敷く!」
アッシュはよく通る声でさらに続ける。
「一から三番隊は村の西側門外に等間隔で陣を敷け!四番隊は挟撃に備えて東側にて待機、弓隊は弓櫓で警戒にあたれ!以上、配置に付け!」
アッシュの指示が終わるやいなや、一斉に皆が走り出した。
ゼノとディルクはお互いに目線を交わし、小さく頷き各々の持ち場へと駆けた。
ゼノの隊は、ゼノを含む4人が実戦経験ほぼ無しという状況だった。
―もし本当に賊が襲ってきたら…
そんな不安を誰もが抱えている。
配置に着き隊列を整えると、隊を率いるトールがくるりと隊に向きを変えて発言した。
「お前たちは強い。俺が補償する。」
それだけ述べるとまたくるりと向き直り、前を静かに見据えた。
トールは傭兵として各地を点々としてきた猛者で、ひとしきり暴れたとの理由から生まれ故郷のこの村に戻ってきた。団長のアッシュとの立ち合いも何度か稽古で行われているが、押しも押されぬ剣捌きでどちらが強いのか判別出来ない程だった。
その屈強な隊長に言葉を掛けられただけで、身体に力が漲るようだ。
日が昇り始めると、少し風が吹いてきた。風上は火の手が上がるトトス村である。この隊からは丁度藪と重なって村は良く見えなかったが、焦げた匂いが鼻を突き緊張が高まる。
襲われている村に助っ人に向いたい気持ちを持つものも多少なりともいたが、もしこちらが手薄になった隙を突かれれば被害はより大きくなる。
近隣ではどの村もどんどんと人口が減っている。人手が足りないのは深刻な問題だった。
今は隣村が襲われているのを、ただ見ることしかできないのだ。そしてこの村へ賊の足が向わないことを祈るのみである。
暫くただ見守るだけの時間が過ぎた。このまま何も起きず終わるかも知れないという空気が流れ出した。痺れを切らした若い隊員たちが身体を動かし始め、カチャカチャと軽鎧の音がなる。
「シッ!」
じっと前を見据えていたトールが口に指を当て、静かにするように合図する。良く耳を済ますと馬の足音が地鳴りとなって微かに響いてきた。
一気に隊の空気が張り詰めた。
トールの剣は形状は皆が持つやや湾曲した片刃の剣と変わりなかったが、身長よりも長いものであった。
その剣を肩に担ぐようにして構えると、やや腰を落とし頭上でスーっと抜き放つ。
他の隊士達も、続々と剣を抜き放った。
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