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第1章 転生

アポロンの実

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そう言えば、私、いやもうぼくと名乗ろうかな。3歳になって今世にも少しずつ慣れてきたことだし。

ぼくには、幼馴染がいる。我が家の執事さんの子供でシルヴァという男の子だ。ぼくより3歳年上で、最近やたらと兄貴ヅラしてくるのだが、どこからともなく現れる我が家の執事さんにしばかれて撃沈するのを繰り返している哀れな奴だ。

「おい、レオ!今日は厨房に行くぞ!」
「ちゅうぼう?」

さすがに三歳になれば言葉も喋りやすくなったな。

「昨日、料理長のおっさんが街に買い物に行った時、珍しいアポロンの実を買ってきたらしいんだよ!奥様に出すなら、俺は食べられないからこっそり盗みに行くぞ!」
「!!!いく!」
「おっ、珍しく乗り気だな。よし行くぞ!」

まあ、母の食卓に出るならぼくも普通に食べれるんだろうけど。でも厨房は前から見てみたかった!料理長怖そうだから今まで近寄れなかったけど、シルヴァがいるなら身代わりになってるくれるかも。

あくどいことを考えながら、ぼくはシルヴァの後を追ってこっそりと厨房付近へと向かった。



厨房は昼ごはんの片付けの真っ最中だった。下働きの少年が一生懸命鍋の焦げを落とそうとしている。

「よし!おっかない料理長は居ないな!今のうちに行くぞ!」

シルヴァは身をかがめて少年の後ろを通り過ぎて、奥にある貯蔵庫に入っていった。
ぼくは、下働きの少年に声をかけた。

「それ、オニのかわとみずをいれて、ふっとうさせるととれやすくなるよ」
「うわあ!!!」

急に声をかけたせいか、少年はシンクに鍋を落っことしてしまったようだ。ガシャーンと大きな音がした。料理長、こういうの怒りそうだなー。

「れ、れれ、レオ様!?」
「びっくりした?ごめんね」

ぺこりと頭を下げると、少年は慌てて頭をあげてください!と叫んだ。しばらく慌てる少年を眺めていると、シルヴァが入ったはずの貯蔵庫から、料理服に身を包んだ熊のような大柄な男性がやってきた。左手に猫のように摘んだシルヴァを持ってきながら。

「ノエル、何やっとる」
「ひっ!!りょ、料理長!!!」
「道具は大事にしろとあれほど言っとるだろうが!!!」
「すいませんすいませんすいません!!!」

ノエルと呼ばれた下働きの少年は、土下座でもしそうな勢いで頭を下げ続けている。シルヴァはぶらーんとぶら下がったまま動かない。あ、白目向いてる。手を合わせておこう。ちーん。

ノエルを一通り怒り終わったのか、料理長がこっちをジロッとみた。今の身長からだと、ほんと巨人みたいだ。料理長はしばらくぼくを見つめていた後、ゆっくりと腰を落とした。

「レオ坊ちゃん、こうしてきちんと話をするのは初めてだな。俺はアドラス。料理を作ってる」
「あどらすりょうりちょう。レオだよ。いつもおいしいごはんをありがとう」

料理長の肉料理はほんと柔らかくておいしい。一度ねだって母のやつを食べたことがあるから違いに気がついたんだけど、ぼくのやつは特別丁寧に処理してあるのかとても噛みやすいし筋もないのだ。そして次の日には母のお肉をもらったのを知ってたのか、ちょっと量が増えていた。見た目は豪快な人だけど、繊細なところによく気がつく人だ。

お礼を言うと、アドラス料理長はニヤッと笑って、ぼくの頭をがしがしと撫でた。大きい手がちょっと気持ちいい。笑った料理長をみて天変地異が起こったみたいな顔してる二人(シルヴァは復活してた)はバレたらまじで怒られると思うよ。

「それで、今日はなんでここに来たんだ?あと、次から来たら声かけてくれ。なるべく汚れを落とさんとな」
「うん、ごめんなさい。あのね、あぽろんのみをみにきたの」
「知っていたのか。実は俺の知り合いが行商のついでに持って来てくれてな。今年は随分豊作だったようだ」

そう言うと、料理長は貯蔵庫に入っていき、四角いケースの中に入った実を持って来た。見た目は完全にいちごだ。赤くてツヤツヤしている。ぼくたち三人はいちごの近くに顔を寄せて歓声をあげた。

「すげー!アポロンの実がこんなにたくさんあるぜ!」
「足が早くて高価だから、こんなところで見られるとは思いませんでした!」
「このはこ、ふつうのとちがう?」

ぼくが聞くと、料理長は頷いた。

「魔道具だからな。今回はアポロン含め、たんまり請求された」
「「魔道具!!!」」

魔道具は、前世でいう家電製品みたいなものだけど、まだまだこの世界じゃ高価で庶民じゃ絶対手が出せない。動力源は、魔物から取れる魔石という、魔力の塊だ。この魔道具は、中に入れたものを長時間冷やしてくれるようだ。

「奥様が許可をくださったんだ。これと、備蓄のための保冷機もある」

おお、母太っ腹!そうだ、保冷機があるならちょっと何か作りたいな!

「りょうりちょう、これででざーとつくろ?」
「デザートだと?」
「うん。アイスつくろう」

ぼくの頭の中には、レシピが浮かんでいた。
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