暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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湯殿にて

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「っえ、ちょ……きゃあっ」

 白い煙の立ち込める中に放り込まれ、咄嗟とっさに丸めた体に湯がぶつかる。盛大に飛沫しぶきが飛び散ったが、そのおかげで衝撃はほとんど緩衝され、痛い思いをすることはなかった。
 纏わりつく衣服に苦戦しながらなんとか上体を起こす。あと少しでも深かったら溺れていたところだ。
 文句の一つも言ってやろうと思ったのに、それより前に彰久が幸菜の体を捕らえた。
 飛沫を浴びたのだろう、水気を帯びた髪が艶を増して、彼の顔に張り付いている。それを煩わしそうに搔き上げると、彰久は硬直する幸菜のおとがいを掴んだ。
 はっと幸菜が我に帰る。距離を取ろうと身を引くと、彼は「いいのか」と低く問うた。這うような声音に身が強張る。それを助長するように彼は続けた。

「逆らえばどうなるか……分かっていよう?」

 幸菜の脳裏に、別れた村人たちの姿が浮かんだ。
 怒りを露わにめ上げるが、彼は悠然と見下ろし受け止める。

「約束を違えるつもり?」

 幸菜の詰問に、彰久は平然としたままだ。
 どれだけ幸菜が強がろうと、結局彼が優位だということは変わらない。
 悔しさに唇を噛み締める。それを咎めるように、彰久が指を強引に差し入れた。
 不機嫌に眉をひそめた顔に血の気が引いた。

「傷を作るな」

 忌々しげに命じる。
 これ以上機嫌を損ねるわけにはいかず、幸菜は恐る恐る頷いた。
 つう、と指の腹が幸菜の唇をなぞる。傷ができていないか確かめるような触れ方だった。

「え?」

 何度も唇を行き来した指先が、やがてするりと首筋に降りてきた。
 全身が粟立つ。心臓が早鐘を打つ。頭の中で、けたたましい音が響いている。
 嘘だ。どうか、思い違いであってほしい。

「っひ!」

 幸菜の希望を打ち砕くように、彰久の手が幸菜に触れた。引きつった声にも関わらず多少機嫌を直した彼は、そのまま布越しに指を這わせていく。
 背骨をなぞるように指が滑った。弓なりになったところに彰久が顔を寄せる。
 きつく吸われて、幸菜の白い肌に赤い痕が残った。二つ、三つと屈辱の証が増やされて、突き飛ばしそうになるのを必死にこらえる。

「声くらい上げたらどうだ」

 つまらんと文句を言う彼に、絶対に上げるものかと歯を食い縛った。

「強情なやつだ」

 ならば。
 彰久が幸菜の耳をんだ。触られ慣れていない場所への刺激に、幸菜の体が大きく跳ねる。
 だが、彰久の責め苦はこれだけでは終わらなかった。
 耳をもてあそんだまま、彼は至る所に指を滑らせた。皮膚の薄いところを入念に刺激し、必死に声を堪える幸菜を「見ものだ」と挑発する。
 彰久が幸菜の胸を揉みしだいた。触れるだけで指が沈む感触を楽しむようにしていた。
 ふと、何を思ったのか彰久がそれに吸いついた。熱く湿ったものが胸の頂に触れる。ねるように、押しつぶすようにざらついた舌が敏感なそれを刺激された。

「っ!?」

 尖り始めたそれに、歯が掠めた。途端、電流のようなものが体を走り抜けた。
 声を漏らさなかったことは奇跡だった。
 彰久はつまらなさそうに鼻を鳴らしたが、すぐにまた胸に吸い付き愛撫を再開した。
 幸菜の体が火照りを増していく。
 堪らず身を捩ると、幾つかの水滴が湯面を揺らした。
 悔しい。こんな男にいいようにされていることも、それに自分が感じてしまっていることも。悔しくて堪らない。
 けれどなにより、翻弄されるばかりの自分が惨めで、情けなかった。
 ここが風呂場で良かった。幸菜は初めてそう思った。こんな姿まで見られたらと思うと気が気ではなかった。

 そんな甘い考えが、いつまでも続くはずはないのに。
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