暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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ささやかな我儘

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 座敷にいたくなくて、縁側に腰掛けて仔猫と戯れる。
 時折亜希ではないが女中が話し相手になってくれたが、目を合わせてくれない彼女たちは少し怖かった。
 彼女たちが特別幸菜を蔑視したというわけではない。女中たちはみなかしずいて幸菜を主人として扱った。

 何もしなくとも美味しい食事もお菓子も食べられる。湯の風呂にも浸かれるし、綺麗な着物も着せてもらえる。村にいた頃とは雲泥の差だ。
 玉の輿、と世間一般では言うのだろう。そんなお綺麗なものとはかけ離れているけれど。

 早めの夕餉ゆうげを済ませ、隅々まで磨かれた体に纏うのは、夜着と外套がいとうが一枚だけ。座敷にはまだ日も暮れていないというのに床の用意が為されている。

「幸菜様」

 呼んだのは亜希だった。仔猫を預かりに来たのだろう。その通り両手を差し出してくる彼女と、膝で丸まる仔猫を見比べる。
 まだ、離れたくない。こんなところでひとりになるのは嫌だ。

「もう少しだけ……駄目ですか?」

 首を傾げ、甘えた口調で見上げる。お願い、と訴えるように見つめていると、亜希は困ったように表情を崩した。
 幸菜の不安は、彼女にもわからないではない。一人で待たなければならないというのも、年若い身では苦痛でしかないはずだ。

「本当に、少しだけですよ」

 ほんの僅かでも彼女の緊張を解きほぐせるなら、と容認して亜希も縁側に腰を下ろした。
 幸菜は嬉しそうに顔を綻ばせる。

「何か気の紛れるものをお持ちしましゃうか」
「ううん。でも、しばらくこうして一緒にいてほしいです」

 立場がどうであれ、彼女にとって亜希は安心材料だった。
 幸菜の望むように、亜希は優しい微笑でそれを受け入れた。

「寒くはございませんか」
「平気です。この仔がいるから、暖かいくらい」

 幸菜はそう言うけれど、当の仔猫は鼻を隠すようにして寝こけている。日も傾いてきたから、空気が冷えたのだろう。正反対な様子は思わず笑いを誘った。はしたなく大口を開けて笑うことはないけれど、意識すればするほどその衝動は増して非常に辛い。
 ふるふるとなんとか失態を堪えていると、酒の膳が運ばれてきた。
 思ったより早かったが、もう時間らしい。辞去の挨拶をと亜希が居住まいを正した。
 幸菜は運ばれてきた膳を不思議そうに見ている。ついつい、と突いて興味深そうにする姿は子供のようだ。

「間も無く殿が参られるようですので、わたくしは失礼いたします」

 仔猫を抱き上げると、幸菜は寂しそうに眉を下げた。
 だが、これ以上は先延ばしにできない。また明日連れてくるからと言い含め、亜希はなかば無理やりその場を辞した。
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