19 / 81
酩酊
しおりを挟む
入れ替わるように、静かに障子が開けられた。
彰久も夜着に着替えていた。袷から覗く厚い胸板が男らしさを感じさせる。風呂上がりなのか濡れた黒髪は艶めいて色気を醸し出していた。
雰囲気に呑まれて見つめ返してしまったことを恥じて、逸る胸を押さえた。
無慈悲に体を嬲られた悔しさは、ちゃんとこの中に残っている。忘れてなどいない。
浅くなった呼吸を整えようとしている間に、彰久は幸菜の隣に腰を下ろした。膳から盃を取り上げて、彼女の前に突き出す。
これは、酌をしろということだろうか。そろりと彼を伺うと、顎で徳利を示された。幸菜の推測は当たっていたらしい。
徳利と盃とを何度も見比べる。酌の仕方なんて知らない。どうすればいいのかわからなかった。
困惑する幸菜を、彰久は憮然とした面持ちで見る。
「あの……私、お酌の作法とか、知らなくて……」
「そんなものどうでもいい。注げ」
素直に白状すると、彼は心なしか和らいだ面持ちで催促してきた。
仕方なく、言われた通りに徳利を手に取る。こぼさない様にと慎重に傾けるも、用量の小さなそれはすぐに溢れてしまった。
「ご、ごめんなさいっ!」
着物を濡らす前にと慌てて拭くものを探すが、そう都合のいいことがあるはずもない。立ち上がりかけた幸菜の手を彰久がとらえた。
「いらん。座れ」
「でも服が…」
幸菜が言い切るより早く、彰久が腕を伝う滴に唇を寄せた。赤い舌が這う艶かしい動きを見せつけられて思わず赤面する。
それを横目に見られたと思ったら、彼はとらえていた手を引き幸菜を抱き寄せた。驚きに開かれた口の中に自らの指を差し入れる。
喉に灼けるような感覚がはしった。
幸菜は酒が飲めない。飲み会に参加してもいつもソフトドリンクで過ごしていた。ジュースと誤ってカクテルを飲んでしまったことは数回あったが、どれも一口で酔ってしまって、楽しむどころではなかったのだ。
今、幸菜はカクテルよりよほど強い酒を摂取してしまった。僅か数滴程とはいえ、酔うには十分な量だった。
ぐらぐらと世界が揺らぐ。かくりと力の抜けた幸菜を、彰久が咄嗟に抱きかかえた。僅かに焦りの滲む表情をする彼に、退かなければと思うのにうまく動けない。
「ご、め……らさ……」
せめてと口にした謝罪は、回らない呂律のせいでふにゃふにゃしたものになってしまった。
酒にやられて潤んだ目で見上げると、彼は困惑しきりに幸菜を見下ろしていた。この人でもこんな顔をするのかと、ぼんやりする頭の冷静な部分が感想を抱く。
「弱いのか」
幸菜はなんとか頷いた。はぁ、と熱のこもった吐息が漏れる。
体がひどく火照る。頭がくらくらして、逆上せた時のようだ。
「あつい……」
幸菜の一言に彰久が息をのんだ。大きく舌打ちをしたかと思うと、次の瞬間には視界いっぱいを彰久が埋め尽くしていた。
自分を見下ろす一対の目。ぎらぎらと欲に塗れた獣の目。
それに恐怖を感じる間もなく、唇を塞がれ、熱いものが口の中を侵略した。
𓆛𓆜𓆝𓆞𓆟𓆛𓆜𓆝𓆞𓆟
いつもお付き合いくださりありがとうございます。
昨日はコメントもなく落ちてすみません。
仕事の疲れ具合でたまに寝落ちします。
彰久も夜着に着替えていた。袷から覗く厚い胸板が男らしさを感じさせる。風呂上がりなのか濡れた黒髪は艶めいて色気を醸し出していた。
雰囲気に呑まれて見つめ返してしまったことを恥じて、逸る胸を押さえた。
無慈悲に体を嬲られた悔しさは、ちゃんとこの中に残っている。忘れてなどいない。
浅くなった呼吸を整えようとしている間に、彰久は幸菜の隣に腰を下ろした。膳から盃を取り上げて、彼女の前に突き出す。
これは、酌をしろということだろうか。そろりと彼を伺うと、顎で徳利を示された。幸菜の推測は当たっていたらしい。
徳利と盃とを何度も見比べる。酌の仕方なんて知らない。どうすればいいのかわからなかった。
困惑する幸菜を、彰久は憮然とした面持ちで見る。
「あの……私、お酌の作法とか、知らなくて……」
「そんなものどうでもいい。注げ」
素直に白状すると、彼は心なしか和らいだ面持ちで催促してきた。
仕方なく、言われた通りに徳利を手に取る。こぼさない様にと慎重に傾けるも、用量の小さなそれはすぐに溢れてしまった。
「ご、ごめんなさいっ!」
着物を濡らす前にと慌てて拭くものを探すが、そう都合のいいことがあるはずもない。立ち上がりかけた幸菜の手を彰久がとらえた。
「いらん。座れ」
「でも服が…」
幸菜が言い切るより早く、彰久が腕を伝う滴に唇を寄せた。赤い舌が這う艶かしい動きを見せつけられて思わず赤面する。
それを横目に見られたと思ったら、彼はとらえていた手を引き幸菜を抱き寄せた。驚きに開かれた口の中に自らの指を差し入れる。
喉に灼けるような感覚がはしった。
幸菜は酒が飲めない。飲み会に参加してもいつもソフトドリンクで過ごしていた。ジュースと誤ってカクテルを飲んでしまったことは数回あったが、どれも一口で酔ってしまって、楽しむどころではなかったのだ。
今、幸菜はカクテルよりよほど強い酒を摂取してしまった。僅か数滴程とはいえ、酔うには十分な量だった。
ぐらぐらと世界が揺らぐ。かくりと力の抜けた幸菜を、彰久が咄嗟に抱きかかえた。僅かに焦りの滲む表情をする彼に、退かなければと思うのにうまく動けない。
「ご、め……らさ……」
せめてと口にした謝罪は、回らない呂律のせいでふにゃふにゃしたものになってしまった。
酒にやられて潤んだ目で見上げると、彼は困惑しきりに幸菜を見下ろしていた。この人でもこんな顔をするのかと、ぼんやりする頭の冷静な部分が感想を抱く。
「弱いのか」
幸菜はなんとか頷いた。はぁ、と熱のこもった吐息が漏れる。
体がひどく火照る。頭がくらくらして、逆上せた時のようだ。
「あつい……」
幸菜の一言に彰久が息をのんだ。大きく舌打ちをしたかと思うと、次の瞬間には視界いっぱいを彰久が埋め尽くしていた。
自分を見下ろす一対の目。ぎらぎらと欲に塗れた獣の目。
それに恐怖を感じる間もなく、唇を塞がれ、熱いものが口の中を侵略した。
𓆛𓆜𓆝𓆞𓆟𓆛𓆜𓆝𓆞𓆟
いつもお付き合いくださりありがとうございます。
昨日はコメントもなく落ちてすみません。
仕事の疲れ具合でたまに寝落ちします。
0
あなたにおすすめの小説
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のない、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる