暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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甘露

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「は…っゃ、ん……」

 くぐもった声が零れる。
 熱に浮かされていながらも逃げようとする体は、虚しく宙を掻くことしかできなかった。
 性急に求めてくる彰久を泣き出しそうな表情で見上げる。彼は小さな子供をあやす手つきで撫でながら、整った顔を近づけてきた。 
 触れる手は優しいのに、人が悪そうな笑み。いったいどちらが本性なのだろう。 
 艶かしい吐息が耳を撫でる。それだけでも体は過剰に反応してしまう。拒もうと彼の胸板を押す手は絡め取られ、布団に縫い付けられた。

「随分とおとなしいな。酒のせい……いや、『おかげ』か」 

 耳に直接吹き込まれる声の響きは、妻や恋人に愛を語るように甘く優しいものだった。
 自分はどちらでもないのに、どうしてそんな風に囁くのだろう。
 幸菜の濡れた瞳に、彰久の顔が映った。艶を含んだ漆黒の瞳と、傲慢ごうまんなほど美しい微笑。
 幸菜を見下ろして魅惑的に笑ってみせる彼は悪魔のようだった。

 彰久は音を立てて耳朶みみたぶを口に含み、思わせぶりに舌を這わせ始める。零れ出る吐息よりも熱い熱と、聴覚そのものが濡れていくような感触に鳥肌が立った。
 嫌がって顔を背けると、今度は首筋を刺激される。晒け出した喉に吸い付かれ、ちくりとした痛みとともに紅い花が鮮やかに咲いた。
 骨ばった指が邪魔な布を掻き分けて肌に食い込む。
 ひゅっ、と幸菜が喉を鳴らすと、彰久は首元から顔を離し、涙の伝う目尻に唇を寄せた。その熱さに怯えるように目を固く瞑る。

「や、ぇ、あ……ん、はぁ……ぅ」

 意思を訴えるように、ろくに力の入らない体で必死に首を横に振った。汗とも涙ともつかない透明な雫が宙で砕ける。
 幸菜の願いは届かなかった。
 彰久が幸菜の胸に触れた。頂を押し潰すように舐められる。ざらりと擦れる舌に、触れられてもいない腰が跳ねた。
 彰久が満足そうに目元を和らげた。

「何度触れても悪くない肌触りだ。滑らかで瑞々しくて……なにより甘い」
「ぁっ!」

 口を突いて出た嬌声きょうせいに幸菜は瞠目した。
 甘えるような、強請るような声。そんなものが自分の口が出たことが信じられなかった。
 強張った肩をやんわりとした動きで撫でられた。剥き出しになった脇腹からゆるりと撫でまわされ、下肢の方へ伸びていく。

「っ……!」

 熱い吐息が耳に吹きかかり、幸菜は堪らず身を震わせた。
 太股の内側を擽るように撫でていた手が、やがて付け根まで這い上がってきた。
 中に入り込もうとした指に腰が逃げる。
 彰久は一瞬苛立ちを見せたが、それさえも楽しむように幸菜へ微弱な刺激を与え続けた。
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