暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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気づくこと

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 可愛らしくさえずる小鳥とは裏腹に、幸菜の目覚めは良好とは言えなかった。
 目を開ければ、視界いっぱいに彰久の顔があった。眉間に薄っすらと皺を刻んで、けれどうなされている様子はない。
 もうこれは癖なのだろうと、大して興味も抱く前に違和感に気がついた。
 喉がひどく渇いているし、ひりひりする。頭も疼くように痛むし、胃が重くて不快だ。
 この感覚には覚えがあった。間違えて酒を飲んでしまった翌朝は、いつもこんな不調だった。わかっていたはずなのにまたも同じ轍を踏んで、溜息を禁じ得ない。

 水を求めて体を起こした途端、腰に鈍痛が響いた。慌てて口を閉ざすも、小さな悲鳴が零れてしまった。
 恐る恐ると視線を彰久に動かすと、どうやら彼はまだ眠りの中らしい。
 今度こそ注意深くゆっくり立ち上がりかけた時、腕を強く引かれて幸菜は布団に倒れこんだ。
 柔らかな衝撃が後頭部と背面に響く。痛みからか頭がぐわんと揺れた。胃も揺れたようで、不快感が強くなる。

「どこへ行くつもりだ」

 頭上から響く声の主をきつく睨みつける。不快感を拭いきれない青白んだ顔色は微々たれど迫力があった。
 だが、そんな威嚇いかくも長くは続かない。呻き声とともに顔ごと逸らすと、布団に押し付けられていた拘束が緩んだ。

「み、ず……」

 酒に焼けた喉を震わせる。その痛みにまた眉間の皺を濃くすれば、彰久は納得して幸菜の上から退いた。
 彼はすんなりと起き上がり、しっかりとした足取りで障子戸までを歩いていく。開けたところに、控えているのだろう女中に水を申しつけた。
 その一連の動作がやけに手慣れているように思われて、幸菜はまた眉間を寄せる。
 彰久はどこか楽しげで、うずくまる彼女の体を抱き上げ、あぐらの上におろした。幸菜が小柄なこともあり、体格のいい彼の膝にすっぽりと収まった。
 抵抗する気力も湧かず身を預けるままでいると、布越しに彼の心音が聞こえてきた。幸菜より少し早く力強い響きは、不思議と体の強張りを溶かしていく。

(こんな人でも、心臓の音は優しいんだ……)

 誰かの音を聞くのは、どれくらいだろうか。いつ、誰のものを聞いたのかも曖昧だ。
 うとうとと睡魔が尾を引いている最中、障子の滑る音にふっと意識が戻る。亜希は幸菜が起きたことに気づいて申し訳なさそうにしながら、傍らの盆を手に距離を詰めてきた。
 重だるい腕を持ち上げて、湯のみへ手を伸ばす。あと少しというところで、目当てのものは彰久に攫われた。
 むっと唇を突き出すと、そこに飲み口が押し当てられる。それはゆっくりと傾けられて液体が口内に流れ込んできた。体温より少し冷たい水は飲みやすく、馴染みやすい。
 一杯を飲み終える頃には、喉の渇きはすっかりなくなっていた。
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