暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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胸臆

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 運ばれてきた雑炊は滋味に富んだものだったけれど、小ぶりの茶碗だというのに半分以上も残してしまった。
 亜希が心配そうにして「もう少しだけでも……」と勧めてくれたけれど、どうしてもそれ以上は入らなかった。
 連れてこられた仔猫も食事を終えたばかりなのか、昨夜見た姿よりやや腹がふくれていた。痩せ気味だったから、今くらいがちょうどいい。
 開け放たれた障子の向こうでは麗らかな日差しの中を小鳥が無邪気に戯れている。気まぐれに縁側へ降りてきたりもするのだが、膝元で丸まる仔猫は動く素振りも見せやしない。
 大人しすぎて、野生に帰れるのかと不安になるほどだ。
 仔猫を愛でつつ真剣に悩む幸菜を、亜希は微笑ましく見守っていた。

「これは幸菜様のお傍でお慰めすることが仕事ですから。このくらい暢気のんきな方が良いでしょう」
「仕事って……猫の、それも子供ですよ?」

 満足げにする亜希と違って幸菜は苦笑を禁じ得ない。
 傍にいてほしいと願ったのは確かに自分だけれど、仔猫が今ここにいるのは願いを聞き入れてくれたからではないのだから。
 幸菜にとって、猫は自由な生き物だ。好きな時、好きな場所に勝手に出入りして、日当たりのいい所で昼寝して。のんびりしてるかと思いきや、隠し持った鋭い爪で獲物を狩る。
 そんな生き物に人間の理屈で仕事だ何だと言い聞かせても、それは無理なことだろう。

「それに、仔猫ですら仕事をするなら、ここへ来てからの私なんて仕事どころか寝るか食べるかですよ?」

 今日だって、よりにもよって二日酔いで迷惑をかけてしまっている。ただでさえ心苦しいというのに追い打ちをかけないでほしい。
 そう言うと、亜希はびっくりまなこで何度もかぶりを振った。

「何をおっしゃいます。幸菜様は何よりも大切なお務めを果たしていらっしゃるではありませんか」
「え?」

 何のことかと思ったが、聞き返すより早く彼女は「失礼しました」と口元を押さえてしまった。それにますますわからなくなったが、その後に続いた「日も高いうちから……」と自責する一言で、幸菜はやっと理解した。
 お務め。確かに、そういえないこともないのかもしれない。
 側室は愛人。自分は、「取引」の質。
 心の中だけで呟く。口に出してしまえば、心優しい彼女にまた悲しい顔をさせてしまう。
 笑えなくなってしまったのを誤魔化すように、視線を庭へ滑らせた。
 ふわりと快い風が吹き込んで、ぴくりと仔猫が耳を揺らした。

「……縁側」
「は…、」
「お庭、もっと近くで見たくて。また縁側まで出てもいいですか」

 昨日とは違う幸菜からの申し出に亜希は虚をつかれた顔をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべて何度も頷いた。
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