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揺らぐ
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昨日は厄日だった。
その程度の認識しかないのに、目が覚めてからというもの、周囲は幸菜から目を離さなくなった。
あくび一つすれば昼日中であろうと瞬く間に布団が用意される。ちょっと肌寒い素振りを見せるだけで医師を呼ばれそうになった。
体調が悪いわけでもないのに、無闇矢鱈に気を遣われてしまう。
事情を知っているはずの亜希も彼女達を止めるどころか過保護の筆頭となってあれやこれやと世話を焼いてきて、これでは本当に疲労困憊してしまうと幸菜は目眩がした。
「幸菜様、八つ時ですし、団子はいかがですか?」
「水菓子もございますよ、是非」
次から次へと持ち寄られる甘いものは確かに好きなのだけれど、こうも集まると気も向かない。かといって断れば彼女達を悲しませてしまうこともわかっていた。
「殿様。殿様からも言ってください」
「何故?」
「何故って……。私はお姫様とかじゃないんですよ。こんなご機嫌取りは要らないはずです」
つらつらと列挙される幸菜の悩みに、彰久ははてと目を瞬かせた。
女中達のように働くわけでもないのに衣食住どれも十分すぎるものを与えられている。亜希はあんなことを言っていたけれど、自分の立場は仮初めのもの。今こそ言うときだろう。
身寄りも何もない幸菜と、大勢に傅かれ国を治める彰久の間には、天と地ほどの差があるのだ。
この不自然な関係は、あくまでも期間限定のもの。 いずれ呆気なく終わりが訪れる。
仮に、二人がごくごく普通の出会いを果たしていたとしても、あの男が自分を心から妻なり妾なりにしたいと望むことはないとわかりきっていた。
(別に…そんなこと望んで欲しいわけじゃ……ない、けど)
幸菜はふるりと首を振った。とにかく一刻も早くここから出る時を待ち、無理やり自分を励ます。ここは意外にも居心地のいい場所だったが、このままでは駄目になる一方なのだから。
「お前はどうにもわからんことを言う。美食も豪奢な衣装も、お前のものだというのに」
本気でわからないという顔の彼に、幸菜は眉尻を下げる。考え方があまりにもかけ離れていて、怒る気にもなれなかった。
この期に及んで理解を求めるのは、馬鹿なことなのだろうか。
そう考えると自分で自分に呆れた。
出会ったその日からひどい目に遭わされ続けているのに、まだそんな期待を抱いている自分がいた。
「……わからないなら、それでもいいです。でも、お願いだからやめさせてください」
慣れない環境で飼い殺されるうちに、抗う気持ちが弱ってきていると感じていた。揺らいでいるのだ。嫌って、憎んでいればいいのに。
このままでは負けてしまいそうだった。いつか彼の口から出る言葉を待ち続けるのが怖くなってきていた。
彰久が、深く息を吐く。がしがしと乱雑に頭を掻いたかと思えば、幸菜を強く引き寄せて閉じ込めた。
ぶつけた鼻が赤くなる。痛むそこを押さえて呻いても、彼に悪びれた様子はなかった。
その程度の認識しかないのに、目が覚めてからというもの、周囲は幸菜から目を離さなくなった。
あくび一つすれば昼日中であろうと瞬く間に布団が用意される。ちょっと肌寒い素振りを見せるだけで医師を呼ばれそうになった。
体調が悪いわけでもないのに、無闇矢鱈に気を遣われてしまう。
事情を知っているはずの亜希も彼女達を止めるどころか過保護の筆頭となってあれやこれやと世話を焼いてきて、これでは本当に疲労困憊してしまうと幸菜は目眩がした。
「幸菜様、八つ時ですし、団子はいかがですか?」
「水菓子もございますよ、是非」
次から次へと持ち寄られる甘いものは確かに好きなのだけれど、こうも集まると気も向かない。かといって断れば彼女達を悲しませてしまうこともわかっていた。
「殿様。殿様からも言ってください」
「何故?」
「何故って……。私はお姫様とかじゃないんですよ。こんなご機嫌取りは要らないはずです」
つらつらと列挙される幸菜の悩みに、彰久ははてと目を瞬かせた。
女中達のように働くわけでもないのに衣食住どれも十分すぎるものを与えられている。亜希はあんなことを言っていたけれど、自分の立場は仮初めのもの。今こそ言うときだろう。
身寄りも何もない幸菜と、大勢に傅かれ国を治める彰久の間には、天と地ほどの差があるのだ。
この不自然な関係は、あくまでも期間限定のもの。 いずれ呆気なく終わりが訪れる。
仮に、二人がごくごく普通の出会いを果たしていたとしても、あの男が自分を心から妻なり妾なりにしたいと望むことはないとわかりきっていた。
(別に…そんなこと望んで欲しいわけじゃ……ない、けど)
幸菜はふるりと首を振った。とにかく一刻も早くここから出る時を待ち、無理やり自分を励ます。ここは意外にも居心地のいい場所だったが、このままでは駄目になる一方なのだから。
「お前はどうにもわからんことを言う。美食も豪奢な衣装も、お前のものだというのに」
本気でわからないという顔の彼に、幸菜は眉尻を下げる。考え方があまりにもかけ離れていて、怒る気にもなれなかった。
この期に及んで理解を求めるのは、馬鹿なことなのだろうか。
そう考えると自分で自分に呆れた。
出会ったその日からひどい目に遭わされ続けているのに、まだそんな期待を抱いている自分がいた。
「……わからないなら、それでもいいです。でも、お願いだからやめさせてください」
慣れない環境で飼い殺されるうちに、抗う気持ちが弱ってきていると感じていた。揺らいでいるのだ。嫌って、憎んでいればいいのに。
このままでは負けてしまいそうだった。いつか彼の口から出る言葉を待ち続けるのが怖くなってきていた。
彰久が、深く息を吐く。がしがしと乱雑に頭を掻いたかと思えば、幸菜を強く引き寄せて閉じ込めた。
ぶつけた鼻が赤くなる。痛むそこを押さえて呻いても、彼に悪びれた様子はなかった。
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