暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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対面

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「彰久!」

 夕餉の席の障子が勢いよく開けられた。
 何事かと振り返ると、背後に慌てた女中を引き連れて、派手な顔立ちの男が威丈高に立っていた。
 その男は驚きに固まる幸菜に目もくれず、一路彰久の傍へ寄ると、どかりと乱暴に腰を下ろした。

「久しいな、いつ以来だ? 息災のようだな!」

 手を伸ばせば届く間合いにいるというのに大声で物を言う男に彰久は苦渋の滲む顔で溜息を吐く。
 あからさまな仕草だというのに、気づいていないのか我が物顔で女中に自分の膳と酒を申しつけていた。
 女中が戸惑いがちな目を向けると、彰久は無言で手をひらつかせた。好きにさせろということらしい。彼女は「かしこまりました」と腰を折り、場を辞した。

「あの女、気が利かんな……。あんな者を置いていては、お前も苦労するだろう」
「馬鹿を言うな。ああいうのは忠実というんだ」

 誰彼構わず従う者など信用できん、と呆れたと言わんばかりの彰久に、彼は不満げな表情をする。
 なんというか、子供みたいな人だ。見目かたちは立派な成人だというのに、言動がそれにそぐわない。横暴、傍若無人などというよりは、我儘という言葉がしっくりくる。

「いったいどちら様なんですか?」

 控えていた亜希にこっそり尋ねる。
 亜希は言い辛そうにしながら「隣国の嫡子、遼展はるひろ様です」と耳打ちした。
 相手の正体がわかって、幸菜はびっくり眼でもう一度男を見た。

 黒い髪、黒い瞳。彫りの深い顔と、鍛えられた身体。
 それだけなら彰久と並んでも遜色そんしょくない美丈夫だというのに、思考も、それに伴う言葉や仕草も、何一つ彰久と重ならない。
 歳も立場も近しく似通っているはずなのに、粗野で乱雑な印象を受ける男だった。

「……私、下がった方が?」

 彰久は、幸菜と彼とを対面させるのに思うところがある様子だった。だからと思ったのだが、それは亜希にもわかりかねるようで、曖昧な返事しか返って来なかった。
 彰久に直接尋ねることもできず、彼が彰久に夢中になっている今のうちにとりあえず、と腰を浮かす。
 さっと亜希が膳を持ち上げて踵を返したところで、「おい」と後ろから声がかかった。
 彰久のものではない。低く不機嫌そうな荒々しいそれは、遼展のものだった。

「この私に挨拶もしないとは何事だ。無礼であろう」

 ゆるく幸菜が目を瞠る。
 亜希が慌てたように取り繕おうとするが、遼展のーーいや、彰久の立場をおもんぱかってか何を言うこともできなかった。
 彰久は呆れ切った顔で彼を見ている。
 なおも傲慢に睨んでくる彼に内心で深く嘆息し、幸菜はゆっくりと体を動かした。
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