暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

文字の大きさ
45 / 81

しおりを挟む
「それは大変失礼致しました。お初にお目文字仕ります、幸菜と申します。数ならぬ身ゆえお声掛け申し上げること憂慮しておりましたが、こうしてご挨拶が叶い、望外の喜びにございます」

 正対して座し、いかにも恭しく首を垂れる。
 ふわりと軽やかなはにかみを添えると、遼展は虚をつかれたような顔をして、それからふふんと尊大に胸を反らした。
 微笑を貼り付けたまま、幸菜は緩やかに腰を折る。

「久方ぶりの再会では積もる話もございましょう。わたくしは御前を失礼致します」
「よかろう。幸菜と言ったか、覚えておこう」
「光栄でございます」

 もう一度腰を折り、立ち上がると亜希を引き連れて座敷を出た。
 音なく障子が閉じられたことをしかと確認した後、貼り付けた笑みは一瞬のうちに消え失せる。

「なぁに、あの人。すっごく感じ悪い」

 思わず手が出そうになった、と彼女は言うが、そんな素振りは亜希には見受けられなかった。
 情報処理の追い付いていない頭で、ぷりぷりと口を尖らせる幸菜をぼんやりと見つめる。

「幸菜様、新しく膳をご用意致しますか?」
「うーん……そうして貰えますか? ほとんど手をつけられなかったんです」

 帯の上から手を添えて腹をさする彼女は、遼展と対峙たいじした時と随分印象が違う。年相応といえばそうなのだが、あの時の彼女からは今のような気安い砕けた人柄は想像もつかない。
 へにゃりとした苦笑を向けられた年若い女中も思うことは同じようで、是と答えながらも戸惑いを隠せていなかった。

「しばらくは大丈夫だと思うけど、殿様たちが出てくる前にさっさと退散しちゃいましょう。あ、仔猫と遊んでもいいですか?」

 きっと客人に捕まって今夜は来ないだろう。それを見越してのおねだりに、我に返った亜希はいかにも仕方がなさそうに頷いた。

「お食事を終えられましたら、連れて参りましょう」

 残さず食べてくださいませ、と丁寧な口調で言いつけられて、はぁいとくすくす笑った。

「すぐにお持ち致しますので、お先にお戻りください」

 厨へ急いだ彼女が今頃用意を終えているだろう。
 ゆったりと踵を返した幸菜の後を数歩下がって付いていく。
 何度見ても、華奢な体だと思う。骨皮というわけではないが、同じ年頃の娘でももう少ししっかりとした体つきをしているのではなかろうか。
 山奥の人の行き来が殆どないような村から連れてこられたと聞いているが、改めて見ると、そうとは思えない身のこなしをする。

「亜希さん?」
「……いえ、何でもございません」

 目元を細めて首を振った亜希に、彼女は変なのとおかしそうに笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のない、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...