暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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 小鳥の囀る声に起こされて目蓋を上げる。こんなに軽やかな気性はどれくらいぶりだろうか。
 シワのできてしまった羽織を丁寧に衣桁いこうに掛けて、そっと障子を開ける。朝の日差しはまっすぐだが柔らかく、それを受けてきらきらと輝く庭は一層生命の力強さを感じさせた。
 花々の枝先で唄う小鳥たちの、ふわふわと飛び交い睦み合う愛らしい姿にはつい見惚れてしまう。
 そこへ、ふと人の訪う声がした。

「幸菜様、お目覚めでございましょうか」

 尋ねる声は聞き慣れた亜希のものではなく、珍しいこともあるものだと思いながらも幸菜は返事を返した。
 音もなく開かれた障子の間から現れたのは、昨日見かけた女中だった。

「朝早くから申し訳ございません……。その、遼展様が、朝餉の席に幸菜様を相伴しょうばんさせよ、と……」

 本当に申し訳なさそうに身を縮こめる彼女に、またあの若様が我が物顔で言いつけたのだと起き抜けの頭でもその先を察した。
 しかし、と幸菜は思案する。
 彼の滞在中はできる限り座敷にいるようにと彰久にも亜希にも言い含められているのだ。彼女には悪いが、自分の一存で動くわけにはいかない。

「殿様は何か言ってましたか?」
「それが、朝餉はいらぬと申されてから姿をお見かけしておらず……」

 もしかしたら此方に渡っているかもと縋る思いで来たようだが、その当ても外れてしまった。
 たしか、遼展に当てがわれた座敷からここまではほぼ対角線上にあると亜希が零していた。気の短そうな彼のことだから、彰久も幸菜も連れ添えず帰ろうものならまた癇癪かんしゃくを起こすことだろう。
 それは彼女も容易く想像がついているらしい。
 今にも泣き出してしまいそうな彼女に同情したわけではないが、年の近そうな彼女が不当に叱責されるとわかっていて放っておくことはできなかった。
 たかが食事、されど食事。
 肩肘張ったことは嫌いなのに、と思いながら、幸菜は一つ溜息を吐いた。

「……着替え、手伝ってもらえませんか?お色味とかはお任せします」
「はっ、はい!」

 ありがとうございます! と深々と頭を下げる彼女に苦笑する。
 彼女が着物や帯を見繕っている間に、幸菜は鏡台に向かった。下ろし髪を好んでいるから開いたことは数える程しかないが、櫛箱くしばこの中にはまばゆい髪飾りが多く収納されている。
 だが、ただ幸菜が連れ添うだけでは彼の機嫌は直らないだろう。子供のような性格をしているから、目新しいものを見せればなんとかなるかもしれない。

「決まった?」
「はい! こちらでいかがでしょうか」

 差し出された色合いは控えめながらも華やかさがあった。いい趣味だと褒めると、彼女は気恥ずかしそうに顔を綻ばせた。
 着付けを頼む間も頭を働かせて、どうしたものかと櫛箱を見つめる。
 何かの拍子に、白いうなじが視界の端を掠めた。間近で見たことのないそれに、つい目が動く。
 幸菜はにっと口角を上げた。
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