暴君は野良猫を激しく愛す

藤良 螢

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焦がれて

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「ーーあれを、城から連れ出してほしい」

 自身が放った言葉を忘れてはいない。言いたくなかった、けれど言わなければならなかった。
 溺れ、手遅れになる前にと打った手のはずなのに、いつの間にか完全に機を逸してしまっていたらしい。
 いるはずのない人影を求めて、ふらふらとこの座敷へ足を運んでは落胆する自身の、なんと不甲斐ないことだろう。

 座敷牢の鍵を渡した時、亜希は酷く儚げな顔をしていた。
 長きに渡り城に仕えてきた彼女は、思うところもあっただろうに、何も言わず受け取ってくれた。「確かに、お預かり致します」という力強い声で明言してくれた彼女には感謝以外の何もない。

 不意に、しゅるしゅると衣擦れの音が耳に届いた。
 彰久は先程までの穏やかな表情を消し去り、剣呑な光を目に宿らせる。涼しげだった目元は冷ややかな刃のように様変わりした。

「何用だ」

 ぴりぴりとした言葉に、近づいてきた人物が息を呑む気配がした。
 ここで去るならまだよかったのに、妙な意地をみせてきた。

「お、お情けを……賜りたく……っ」

 恐怖か緊張か、平静を欠いた声は酷く耳障りなものだった。内容も気に入らない。
 くだらないと一蹴すると、あたかも憐れっぽく嘆いてみせるものだから、ますます彰久の気に障った。
 情けだなどと、とんでもないことをどの口が言うのか。彰久はきつく奥歯を噛んだ。
 ここで怒鳴り散らすことは容易い。だがこの女にそれをするだけの価値があるのかと問われれば、決してその限りではないという答えに行き着く。
 民と、ただ一人。自分が心を動かすのはそれだけで十分なはずだ。

「失せよ、二度とその姿を見せるな。……次はない」

 最後に僅かばかりの殺気を匂わせれば、女はヒュッと息を飲んでほうほうの態で何処ぞへか逃げてゆく。
 ばたばたと品のない足音の中で、ふにゃりと仔猫があくび交じりに鳴いた。彰久は思わず苦笑する。獣の癖に、呑気というか豪胆というか。
 そういえば、仔猫は残していくと決めたのも亜希だった。随分と可愛がっていたから寂しがるだろうと連れて行かせようとしたが、彼女は何故か頑として首を縦には降らなかったのだ。
 もしかしたら、こうなることをわかっていたのだろうか。だとしたら、本当に頭が上がらない。
 彰久は小さな仔猫を手に掬い、床も整えず畳に寝転がった。
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