スキル売りのダークホース ~お代は人生の最後に頂くビジネスです。さて、本日のお客様は……?~

スィグトーネ

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5.ユニコーンの戦い方

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 初陣の勝利から1か月後。
 私は、ライトオブハート号の背に乗って1勝クラス戦に挑んでいた。

 今回のレースは1800メートルと、前よりも長かったからライトオブハート号も10頭中で7番目の位置辺りに付けて慎重に走っている。
 だけど、最後の直線に差し掛かると未勝利戦と同じ状況になった。
「見ろ……早ぇぇ!」
「あ、圧倒的じゃねーか!!」

 結果を言わせてもらえば1着。
 2番手との差は27メートルと圧倒的だったため、結果には【大差】とだけ書かれている。
「今日のレースも、ミライの乗り方を笑っている観客がいたけど……無事に黙らせることができたね」
「ううん。そんなことよりも、君が気持ち良さそうに走っていることが嬉しいな」
「ありがと。だって天馬乗りよりもモンキー乗りの方が走りやすいからね」

 私たちは、1勝クラスの賞金である大金貨10枚をもらうと、少しいいお宿に泊まることにした。
 この大金貨というモノ。どうやら私たちの世界で言えば1枚あたり100万円くらいの価値があるみたい。

 この世界ではまだ、騎手がウマを持参してもいいみたいだから、私は乗り手であり馬主という変わったポジションになっている。
「時間も出来たから、少し牧場でゆっくりする?」
「いいや。3週間後に2勝クラスのレースがあるからエントリーしよう。モンキー乗りという切り札があるうちに、行けるところまで行きたい」
「わかった」


 そして3週間後の2勝クラス戦。
 ここからはライトオブハート号も、少し警戒した様子でライバルたちを眺めていた。
「かなり……あなたも警戒しているね」
「2勝クラスに出てくるライバルは、2回勝っているライバルたちだからね」

 一見、ライト号は当たり前のことを言っているようにしか聞こえないけど、ホースレースを経験した私には彼の言いたいことが理解できた。
 ウマってとてもデリケートな動物だから、調子の悪いときは強いウマでも力を出せない。だから、たとえ強くないウマでも調子が良い日に運に恵まれたら、マグレで1番になれることもあるの。
 だけど、そういう運に頼った偶然が……2度続くことは珍しい。
「ほぼ確実に、このクラスになると実力者揃いだよね」
「うん」

 間もなくレースが始まった。
 ライト号は最後尾からどっしりと構える方法で戦うみたい。今回は1600メートル戦だし、最後の直線コースが500メートルもあるから充分に取り返せるということだね。
 ライバルたちは、それぞれがペースを守って第1コーナー、第2コーナーを走っていき……最後の直線に入った。

 ここから先は、ほぼ未勝利戦と同じ流れだった。
 ただ、相手が強かったので、先頭のウマに追いつくまでに30メートルくらい多くかかったくらい。結局ライトオブハート号は26メートルの大差を付けて快勝。
「どう? さすがに疲れた?」
 そう質問すると、ライトオブハート号は笑って答える。
「うん、少し汗ばんだから水浴びしたい」
「そ、そう……そうね」
 ライト号はこんなノリなのだから、すぐに1か月後の3勝クラス戦にエントリーしていた。


 私たちは手近なレースに出走しよう……程度の考えだったけれど、同じレースにエントリーしていたライバルたちにとっては寝耳に水だったみたい。
 次々と3勝クラスのライバルたちは出走を取り消して逃げ出していく。

 そして試合当日になると、私とライトオブハートは唖然としていた。
「…………」
「…………」
 満員の観客席とは対照的に、パドック……ウマの下見どころでは隙間風が吹いていた。
「……ねえ、どうして3勝クラス戦でライバルが2頭しかいないの?」
「さあ? ウマインフルエンザでも流行ったのかね?」

 このレースではもはや、ライバルたちは私たちと争おうとはしなかった。
 私たちが圧倒的に先行した後、後続の2頭は完全に2番手争いで火花を散らしている。その様子を見ていた観客たちは白熱した様子で声援を送っていた。
「小生たちが1番になるの……もはや満場一致なんだね」
「ええ、遥か後ろの争いで白熱してるのって……何だか変な感じだよ」

 結局、この3勝クラス戦は32メートルの大差を付けて、ライトオブハート号は快勝した。
 あまりに速いので、私も心配になりながら言った。
「ねえ、あまり速く走り過ぎると……脚に負担が来るんじゃない? 大丈夫?」
「いや、遅く走れば走ったで疲れるし、実はまだ本気じゃないんだ」
「え……?」

 ライト号のようなユニコーンから見た、この時代のウマって……
 古馬と仔馬……つまり大人と子供くらいの脚力差があるみたい。
「じゃあ、腕試しにリステッドクラスに挑んでみようか?」
「今までのは、準備運動みたいなモノだったんだね……」

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