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5.身を乗り出して観戦する国王
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どうやらライトオブハート号の噂は、国王陛下の耳にも入っていたみたい。
ライト号が参加したレースは、それほど大きな大会ではない。だから、普段なら節目の5年や10年くらいの時しか陛下は姿を現さないのだけど、今回は例外的に競馬観戦にやってきた。
いや彼だけじゃない。奥さんや皇太子、更には大臣や重臣たちまで勢ぞろいしている。
更に観客席も満員なので、ライト号も苦笑いしていた。
「もしかして……やり過ぎたかな?」
「うん、そうだと思う……」
しかもライバルたちは、次々と逃げ出してしまい……パドックを歩いているのは何と3頭。
今日も、下見どころは隙間風が吹いてしまっている。
観客席からは、どの馬が2番手かを予想する声が次々と聞こえてくるなか、私たちは準備運動を進めてスタートラインにつく。
そしてモンキー乗りを見せると、国王陛下や王妃殿下は興味深そうに身を乗り出した。
このレースは2200メートル戦だったから距離自体は長いけど、ライバルらしいライバルもいなかったから、ライト号は悠々と走って1着ゴールをした。
観客たちは相変わらず、2番手がどのウマなのかを興奮しながら見守っている。
ライト号もすっかりとペースを落としたとき、国王陛下はこちらをチラチラと見ながら、スタッフたちに何かを言っている。どうしたのだろう。
間もなく、スタッフたちは私たちの側まで走って来ると、勲章を出してきた。
「陛下からのお言葉がありました」
「え? なんだい?」
「お前の実力は卓越しすぎていて、他のウマの自信を損なう危険性が高い。だから我が国の最高峰クラスのレース以外に出ることを禁ずる」
その言葉を聞いて、ライト号もすっかり苦笑いを浮かべていく。
「あ、え……それは、そうだね」
スタッフは続きを言った。
「配慮として、我が国内の宿泊施設は好きに使っていい。費用は王国が持つ」
「あ、ありがとうございます」
そう答えると、スタッフの中でも偉い感じの人が来た。
「あと、年末に開かれる【マリア記念】への参加を王国及びホースレース会場からも要請する」
「は、はい……出ます……」
ま、まりあ記念って……有馬記念にどこか響きが似ている気がするけど、単なる偶然だよね?
勢いで参加を表明してしまったけど、ライトオブハート号も、賛成と言わんばかりに頷いてくれた。
すると、会場の偉い人も頷いて言う。
「では、当日までの宿は、こちらで手配させて頂きます」
「あ、ありがとうございます」
そうして、私とライト号は会場スタッフに案内され、近場のホテルに案内された。
さすがに、この世界は中近代の世界なのでホテルは珍しく、さすがに最上階の特別室……というわけにはいかなかったけど、納屋付きのスイートルームを手配してくれたのだから有り難い話だよね。
私は、ライト号の身体をマッサージしながら聞く。
「次の有馬……じゃなくてマリア記念だけど……自信は?」
「うーん……何頭一角獣が出て来るか……という感じかな」
ライト号の話だと、この世界の一角獣も走るのが得意なタイプになると、現代日本の競走馬とさえ互角に渡り合うくらいの力量があるみたい。
「因みに、アーモ◯ドアイとか、コン◯レイルに匹敵するライバルはいそう?」
ライト号は、視線を上げながら答えた。
「その域の一角獣がいたとすれば……騎手の力量差に期待するしかないね。乗り手のウデが同じだと……タイマン勝負でも良くて勝率4割弱。多頭の叩き合いになると、もっと深刻な勝率になるだろうね……」
そこまで言うと、彼は険しい顔をする。
「それよりもさ……」
急に彼が、険しい顔をしたから驚いてしまったが、彼はお構いなしに言った。
「え? なに?」
「いいかいミライ。あまり深くこの世界に関わると……君は元の世界に帰ることが出来なくなる」
「え? 私としてはこの世界で騎手として……」
「両親から見たら、君は大切な娘なんだ。それに小生が元の世界に戻せる期間も……もうそんなに長くない」
ライト号は低い声で言う。
「君は日本という社会に絶望したワケでも、逃げ出したかったワケでもない。ならば……やはり、本来いるべき場所に帰るべきだと思う」
「…………今すぐに、戻らないとダメなの?」
そう聞いてみたら、ライト号は答えた。
「マリア記念が期限だね。そこで考えを聞こう!」
ライト号が参加したレースは、それほど大きな大会ではない。だから、普段なら節目の5年や10年くらいの時しか陛下は姿を現さないのだけど、今回は例外的に競馬観戦にやってきた。
いや彼だけじゃない。奥さんや皇太子、更には大臣や重臣たちまで勢ぞろいしている。
更に観客席も満員なので、ライト号も苦笑いしていた。
「もしかして……やり過ぎたかな?」
「うん、そうだと思う……」
しかもライバルたちは、次々と逃げ出してしまい……パドックを歩いているのは何と3頭。
今日も、下見どころは隙間風が吹いてしまっている。
観客席からは、どの馬が2番手かを予想する声が次々と聞こえてくるなか、私たちは準備運動を進めてスタートラインにつく。
そしてモンキー乗りを見せると、国王陛下や王妃殿下は興味深そうに身を乗り出した。
このレースは2200メートル戦だったから距離自体は長いけど、ライバルらしいライバルもいなかったから、ライト号は悠々と走って1着ゴールをした。
観客たちは相変わらず、2番手がどのウマなのかを興奮しながら見守っている。
ライト号もすっかりとペースを落としたとき、国王陛下はこちらをチラチラと見ながら、スタッフたちに何かを言っている。どうしたのだろう。
間もなく、スタッフたちは私たちの側まで走って来ると、勲章を出してきた。
「陛下からのお言葉がありました」
「え? なんだい?」
「お前の実力は卓越しすぎていて、他のウマの自信を損なう危険性が高い。だから我が国の最高峰クラスのレース以外に出ることを禁ずる」
その言葉を聞いて、ライト号もすっかり苦笑いを浮かべていく。
「あ、え……それは、そうだね」
スタッフは続きを言った。
「配慮として、我が国内の宿泊施設は好きに使っていい。費用は王国が持つ」
「あ、ありがとうございます」
そう答えると、スタッフの中でも偉い感じの人が来た。
「あと、年末に開かれる【マリア記念】への参加を王国及びホースレース会場からも要請する」
「は、はい……出ます……」
ま、まりあ記念って……有馬記念にどこか響きが似ている気がするけど、単なる偶然だよね?
勢いで参加を表明してしまったけど、ライトオブハート号も、賛成と言わんばかりに頷いてくれた。
すると、会場の偉い人も頷いて言う。
「では、当日までの宿は、こちらで手配させて頂きます」
「あ、ありがとうございます」
そうして、私とライト号は会場スタッフに案内され、近場のホテルに案内された。
さすがに、この世界は中近代の世界なのでホテルは珍しく、さすがに最上階の特別室……というわけにはいかなかったけど、納屋付きのスイートルームを手配してくれたのだから有り難い話だよね。
私は、ライト号の身体をマッサージしながら聞く。
「次の有馬……じゃなくてマリア記念だけど……自信は?」
「うーん……何頭一角獣が出て来るか……という感じかな」
ライト号の話だと、この世界の一角獣も走るのが得意なタイプになると、現代日本の競走馬とさえ互角に渡り合うくらいの力量があるみたい。
「因みに、アーモ◯ドアイとか、コン◯レイルに匹敵するライバルはいそう?」
ライト号は、視線を上げながら答えた。
「その域の一角獣がいたとすれば……騎手の力量差に期待するしかないね。乗り手のウデが同じだと……タイマン勝負でも良くて勝率4割弱。多頭の叩き合いになると、もっと深刻な勝率になるだろうね……」
そこまで言うと、彼は険しい顔をする。
「それよりもさ……」
急に彼が、険しい顔をしたから驚いてしまったが、彼はお構いなしに言った。
「え? なに?」
「いいかいミライ。あまり深くこの世界に関わると……君は元の世界に帰ることが出来なくなる」
「え? 私としてはこの世界で騎手として……」
「両親から見たら、君は大切な娘なんだ。それに小生が元の世界に戻せる期間も……もうそんなに長くない」
ライト号は低い声で言う。
「君は日本という社会に絶望したワケでも、逃げ出したかったワケでもない。ならば……やはり、本来いるべき場所に帰るべきだと思う」
「…………今すぐに、戻らないとダメなの?」
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