スキル売りのダークホース ~お代は人生の最後に頂くビジネスです。さて、本日のお客様は……?~

スィグトーネ

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5.ライト号が見た、ミライの未来

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 マリア記念で、観客たちや教会関係者を土下座させてから3年後。
 小生は、今日も悩める人の話を聞いていた。

「……どうして働きたくないの?」
「働くのなんて男の役目でしょ!」
 この令和時代の日本には、本当に働きたくないと主張する人間は多い。
 男の場合は親や兄弟に寄生することばかり考えているし、女だったら高スペックな異性と結婚……いや、寄生したいというのがお約束となっている。

 いま、小生が話をしているこの女性も、ネット世界風に言えば【無職のこどおば】というヤツで、父親が亡くなっているにも関わらず、職無し貯金無し彼氏無しで、今も年老いた母親にぶら下がっていた。
 48歳になる彼女は、不満そうに言う。
「ねえ、私は普通の旦那さんでいいの……どうして結婚できないのかなぁ?」
「普通の男ってどんな人?」
「年収は700万円くらいで、30歳から40歳で、優しくて、大卒以上で、背も175センチ以上で、私に月で20万円のお小遣いを……」
「それ、全然普通じゃないから」
「ええ~~~~そんなことないよ!」
「そういう人の中で君を選ぶ人なんて、この世にはいないよ。いるとしたら……異世界かな?」

 さっさと働けと思いながら突き放すと、この女性は異世界の部分に食い下がってきた。
「アンタユニコーンなんでしょ。異世界に連れてってよ……異世界令嬢になりたい!」
「異世界令嬢って……日本で言えば戦国時代の武家さんみたいなものだよ。やめた方が良いと思うけど……」
「ここでお母さんから、毎日のように働けと言われるよりはマシよ!」
「いや、君のお母さん……年金暮らしなんでしょ。働かないと終わるよ? 恩返ししなきゃとか思わないの?」
「親が子の面倒を見るのは当たり前でしょ!」
「親が子の面倒を見なきゃいけないのは18まで」
「もー、うるさいわね! さっさと異世界に案内しなさいよ!!」

 小生は大きくため息をついてから言った。
「しょうがないなぁ……じゃあ、ここからはビジネスだよ」
 それから10分ほどで女性との商談をまとめると、小生は予定通りに異世界に送ることにした。
「じゃあ、目を瞑って」
「ええ!」

――――――――
――――
――


 その女性を無事に送り届けると、ドアが開いた。
 その人物は、女性の荒れた部屋を眺めながら顔をしかめていたが、やがてこちらを見た。
「ありがとうお馬さん……これでしばらくの間は静かになる」
「うん、君のお姉さんの望む通りに、異世界の貴族令嬢にしておいた。上手く行くかは……本人次第だろうね」

 目の前にいる男性こそ、小生にとっての本当の依頼人のような存在だ。
 彼は会社勤めをする歳の離れた弟だったが、働かない姉に次の寄生先候補にされていて危機感を持っていたようだ。
「ちなみに、どんな貴族の家に?」
「いくら異世界と言っても、女性たちが望むような貴族の名家って少ないんだ。だから……いつ他の勢力に潰されるかわからない小領主の末娘という条件で納得してもらった」
「まあ、僕や母としては……家から居なくなってくれるのなら、それでいいや」

 弟さんは不敵に笑った。
「もうじき、この家は売って、お母さんには僕の家で暮らしてもらうことになっている」
「頑張ってね」
 そう言うと、小生は本当の依頼人の前から姿を消した。


 日曜日の明るい日差しのなか、僕は誰に気付かれるわけでもなくゆっくり歩いていた。
「18歳の貴族令嬢か。中世世界の18歳女性って、大分晩婚の部類になるんだよなぁ……だけど、注文が多すぎたし、しょうがないか」

 そう呟いたあと、小生は「まさか……」と呟いていた。
 何ともう先ほど異世界に旅出させた女性に貸し出した特殊能力が戻ってきたのである。どうやら、強国の王様が妾にしてやると誘ってきたのを罵声と共に断ったため、攻め込まれて滅ぼされたようだ。
「自害……いや、家来に介錯されるまで2週間か。異世界令嬢の中では最短記録だ……」


 そんなことを呟いているときだった。
「今日は、このウマに乗ってください」
「……!!」
 これは……ミライの声だった。
 彼女は何と乗馬クラブのスタッフになっていて、中学生くらいの少女に乗馬の仕方を指導している。

 彼女の教え方は丁寧で、少女やウマも安心した様子でミライの指示に従っていた。
「……そうか、君はしっかりと生きているんだね」

 風が吹くと、彼女は思わぬ顔でこちらを見たけれど、どうやら小生の姿は映っていないようだ。
 そう……このライトオブハート号は、必要のない人間には見えないし、そもそも存在そのものを認識できないのである。

 小生は、とても満足したまま彼女の前から去ることにした。


【26歳になったミライ】
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