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7.冒険者街に到着

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 森の中を歩くこと3時間。
 道案内をしてくれていたメリザンドは立ち止まった。
「ようやく着きました。ここが冒険者街です」
「……ここが?」

 今までしていた霊力移動の練習を中断すると、僕は唖然としながら冒険者街を眺めていた。
 僕のイメージの中の冒険者街というのは、質素な出店が立ち並んでいて、多くの冒険者や行商人とかがごった返している感じなんだけど……
 目の前の冒険者街と言われる場所は、のどかな田園に少し建物が増えましたという感じだ。


「何だか、イメージと違って……のどかだね」
「中心街に行ったら、もっと多くの人で賑わっていますし、大きなギルドも軒を連ねていますが、私自身の病気や能力を考えたら、やはり郊外のギルドに入りたいと思います」
 メリザンドの言う通りだと思った。
 同じギルドの中に、吸血鬼に噛まれた人がいたら、周りのギルド員も気が気ではないだろうし、僕自身も何の身寄りもない放浪者のようなものだ。
 こんな2人組を雇ってくれるとしたら、できたばかりでとにかく頭数を揃えたい小規模ギルドくらいだろう。


 冒険者街を眺めていると、大小様々な冒険者ギルドがあったが、その中でも森に一番近い場所にある小さな冒険者ギルドが目についた。
「じゃあ、あの辺りかな?」
「そうですね。近くに拠点になりそうな木もありますし……あそこで話を聞いてみましょうか?」

 僕たちは、その冒険者街でも、特に外れにあるギルドへと向かった。
 建物は小さく、事務所と簡単な食堂、それに修練場と簡単な柵があるくらいだ。本当に冒険者ギルドとして必要最小限の機能だけを持っている建物という感じがする。

 ドアを開いて中へと入ると、ギルドの受付嬢が出迎えてくれた。
 だけどこの受付嬢も、その辺の村娘を連れてきて、ギルドの制服を着せただけという感じだ。ギルドの建物内も質素な造りで、これと言った高価そうなモノもない。
「冒険者ギルド【ショートソード】へようこそ! どういったご用件でしょうか?」

 見た目はあれだけどハキハキと喋る受付嬢だ。聞き取りやすいし好感も持てる。
「すみません、人員の件でご相談したいことがあるのですが、ギルド員の募集はしていますか?」

 その受付嬢は僕たちの姿を見ると頷いた。
「わかりました。では……簡単ですが、入団試験を行わせていただきます」


 入団試験ときいて、やはりタダでは入れてもらえないよな……と納得した。
 しかしギルド試験か。一体何をやるのだろう。他の受験生と戦うとか、体力テストとかでもするのだろうか。いいや、面接というセンもあるかもしれない。

 そう思っていたら、その受付嬢はお盆に水を汲んで持ってきた。
「そんなに身構えないでください。うちの入団試験は1分もあれば終わります」
「ず、ずいぶん早いですね」

 彼女はお盆の前で十字を切ると、全身にオーラを纏っていた。
「では、準備が整いました……手をかざしてください」
「こうかい?」

「…………」
「…………」

 後から聞いた話によると、これは冒険者ギルドでは一般的に行われている試験なのだそうだ。
 特殊な魔法がかかったお盆に水を入れて手をかざすと、その人物が今までどんな悪事を働いてきたのかが、受付嬢には手に取るようにわかるのだという。

 僕がやってきたことと言えば、母親の財布から小銭を抜き取る。アリや毛虫などを踏みつぶす。ムカついた同級生(友人)の机にいたずら書きをする(後日に報復を受ける)。仲の良い女子生徒にキングゴリラというあだ名をつけるなどである。

 最初のうちは普通の顔で見ていた受付嬢も、次第に顔がニヤケていき、遂に噴き出すように笑いはじめてしまった。
「ご、合格です……クスクス、では次に隣の女性もどうぞ」


 メリザンドも手をかざすと、受付嬢は最初は気を落ち着けていたが、次第にまじめな表情になってうなずいた。
「……合格です。お二人には当ギルドの説明をさせて頂きます」

 僕たちの見立てた通り、このギルドはまだ出来たばかりの団体のようだ。
 受付嬢はこのソフィア1人。ギルド員もギルド長を含めて15人しか在籍しておらず、冒険者チームも3つしかないようだ。

 ギルド側も、より冒険者を呼びたいらしく、ギルドの中間マージンは25パーセントと、この冒険者街の中では破格とも言える低価格で斡旋を請け負っている。
「これは……凄いですね。良心的なところでも4割。下手をすれば6割も持って行くギルドだってあるそうですから」
「そうだね……本気度を感じる」


 またギルド内では、ギルド員の恋人を奪う行為が禁止されているという、ちょっと変わった社則というか団則も存在している。
 これはどうやら、ギルド長が他のギルドにいたときに、これが元で分裂することになったギルドがあったからだという。

 その話をすると、受付嬢のソフィアは僕たちを見た。
「リューノさんと、メリィさんは恋人同士と登録した方がいいですか?」

 僕はメリザンドと目が合うと、お互いに頷いてからメリィが答えた。
「はい。恋人として登録してください」
「わかりました。ではギルドバッジの後ろに注意書きをしておきますね」
「ありがとうございます」


 こうして僕たちは、冒険者ギルド【ショートソード】に加入した。さて、ここにはどんな仕事が集まっているのだろうか。

【ショートソードの受付嬢】
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