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17.クレバスの登場
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それから間もなく、一番最初のクエストである冬獣夏草を発見した。
僕はそのグロテスクなキノコを見て、思わず目をそむけたが、ギルド長やパーティーメンバーである先輩たちは、ノリノリで切り取って回収している。
ちなみにキノコ化していたのはカメで、先頭を歩いていたオオカミ族の戦士が臭いで探し当てていた。
「これは立派なキノコですね!」
どうやらメリザンドも平気らしく、口と鼻を布で覆ってから回収していたが、遠目から見ると何かを手術している女医に見えなくもない。
「よし、この瓶に入れてくれ」
「はい」
さすがに危険なモノだけあり、ギルド長たちはビンの中へと入れると念入りにフタをしていた。
その直後に、オオカミ族の戦士が言った。
「この臭い……スライムです!」
「なに!?」
隊列を組みなおして3秒後。草むらが揺れるとスライムが現れた。
ただ残念だったのは、探していたレッドスライムではなく、比較的数の多いグリーンスライムだったことだ。
「最初の相手がスライムとは、幸先がいいな」
「気を付けろよ、こいつらは強敵だ!」
はなしの通り、グリーンスライムは強敵だった。
当たり前だが物理攻撃は全く効き目はなく、ギルド長の炎属性攻撃や、メリザンドの炎系魔法にもある程度の耐性があるようだ。
彼らの攻撃を受けてもスライムは逃げるどころか、身体の一部を飛ばして攻撃してくる。
幸いにもこちらには、素早い戦士が多いため攻撃を受けずには済んでいるが、自慢の獣人戦士や狩人が盾役にしかなっていない。
「……しまった!」
オオカミ族の戦士が叫ぶと、何と僕の斜め後ろから別のスライムが飛びついてきた。
全員の表情が凍り付くなか、僕はうつ伏せに転倒していた。このままだとスライムに呑み込まれてしまう。
そう思ったときに、全身から霊力があふれ出して、無意識のうちに放電を行っていた。
スライムは一瞬で波打つと、力なく僕の身体から落ちていき、まるで緑色の液体のように伏せて動かなくなっていた。
「だ、大丈夫か……? リューノ君??」
「え、ええ……スライムの粘液でベトベトにはなりましたが……」
メリィがそっと近寄って、スライムの様子を眺めると……頷いていた。
「どうやら、感電して失神しているようですね」
「気絶……しているだけなの?」
そう聞くとメリィも頷いた。
「ええ、基本的にスライムは体全部を失わない限りは死にません」
なんて厄介な生き物なんだろう。平気で他の生き物を捕食するのなら、その辺がスライムだらけになっていたとしてもおかしくはなさそうだが……。
「スライムって、そもそも天敵はいるのかい?」
「魔物の中にスライムを好んで食べる者もいますし、スライムの中でも別のスライムを食べて取り込んでしまうモノもいます」
「…………」
どうやら不死身そうに見えるスライムも、ダンジョンの食物連鎖の中に組み込まれているようだ。
何とか気を取り直して移動を再開すると、いよいよ瘴気の風を感じた。
どうやらこの先に、本物の地獄があるようだ。気を引き締めながら歩いていくと、木々の切れ目から巨大な絶壁が姿を見せた。
「……これが」
思わずそう呟くと、ギルド長も頷いた。
「ああ、これが噂のクレバスだ。この地下深くまで行った人間はいないと言われている」
僕はその足元に広がる、巨大な虚空を眺めながら生唾を呑んでいた。
このどこかに、メリィの病気を治せるかもしれない一角獣がいる……のか。ユニコーンと聞いたときは、競馬場にいるような大きなサラブレッドをイメージしていたから、何とかなるだろうと思っていたけれど……
この雄大すぎる光景を眺めていると、僕よりも大きな生き物でも探すとなれば、砂漠の中から金の粒を見つけるように不毛なモノなのではないかと思える。
メリィも同じようにクレバスを眺めていた。
「このどこかに……奴が……」
そう呟いた直後に、彼女は肩口を押えていた。もしかしたら古傷がうずいたのかもしれない。
「焦らずじっくりと行こう。これだけ早くクレバスを見れただけでも大きな収穫だよ」
「ええ……」
やがて移動を再開すると、メリィは僕の背中に両手を乗せ隠れるように歩いていた。
頼ってくれるのは嬉しいのだけど、更に後ろの2人のパーティーメンバーと、その更に眺めてくる謎の視線が凝視……というかガン身してくるから恥ずかしい。
意味もなくこんなことをする娘ではないから、何だか気になった。
「……どうしたんだい?」
「いえ、こうしていると、痛みが和らぐので……」
僕が神様と通じているからなのか、それともただ単に雷の属性を持っているから呪いに効き目があるのだろうか。まあとにかく、こうしていると楽になるのなら黙って背中を貸すことにした。
少し歩くと、先頭のオオカミ族の戦士が止まった。
「……あれは!」
より近づいてみると、岩陰に生えていたのは何とも平凡なコケだった。だけどオオカミ族の戦士は臭いを嗅ぎながら言う。
「ギルド長。例の光る石を……」
「ああ」
ギルド長が荷物の中から光る石を出すと、目の前のコケはキラキラと光を反射した。その色は緑の光を放ち、今までの地味な姿がウソのようだった。
「間違いなく光ゴケだな。量が少ないが……」
「それなら、ちょっといいでしょうか?」
メリィはコケに近づくと、大地の精霊に働きかけた。
すると、コケはみるみる成長していき、チームメイトたちは驚きの声を上げている。
「す、凄いな……! これ、ハイエルフの技じゃないか!」
「ああ、初めて見た!」
パーティーメンバーが興奮するなか、ギルド長も頷いた。
「私も何度か、ハイエルフと行動を共にしたことはあるが……これほど短時間に多くの植物を複製しているのは初めて見る。いや……本当に凄い技だぞ!」
先頭を歩いていたオオカミ族の戦士は、ニヤニヤと肘で僕の横腹を突いてきた。
「すげえカミさんをゲットしたな。愛想を尽かされないようにしっかり頼むぞ!」
「肝に銘じておくよ……はははは」
そう笑って受け流したけれど、まだ視線を感じるのが気になった。どうしてトナカイは僕たちの後をつけ回すのだろう。
【巨大なクレバス】
僕はそのグロテスクなキノコを見て、思わず目をそむけたが、ギルド長やパーティーメンバーである先輩たちは、ノリノリで切り取って回収している。
ちなみにキノコ化していたのはカメで、先頭を歩いていたオオカミ族の戦士が臭いで探し当てていた。
「これは立派なキノコですね!」
どうやらメリザンドも平気らしく、口と鼻を布で覆ってから回収していたが、遠目から見ると何かを手術している女医に見えなくもない。
「よし、この瓶に入れてくれ」
「はい」
さすがに危険なモノだけあり、ギルド長たちはビンの中へと入れると念入りにフタをしていた。
その直後に、オオカミ族の戦士が言った。
「この臭い……スライムです!」
「なに!?」
隊列を組みなおして3秒後。草むらが揺れるとスライムが現れた。
ただ残念だったのは、探していたレッドスライムではなく、比較的数の多いグリーンスライムだったことだ。
「最初の相手がスライムとは、幸先がいいな」
「気を付けろよ、こいつらは強敵だ!」
はなしの通り、グリーンスライムは強敵だった。
当たり前だが物理攻撃は全く効き目はなく、ギルド長の炎属性攻撃や、メリザンドの炎系魔法にもある程度の耐性があるようだ。
彼らの攻撃を受けてもスライムは逃げるどころか、身体の一部を飛ばして攻撃してくる。
幸いにもこちらには、素早い戦士が多いため攻撃を受けずには済んでいるが、自慢の獣人戦士や狩人が盾役にしかなっていない。
「……しまった!」
オオカミ族の戦士が叫ぶと、何と僕の斜め後ろから別のスライムが飛びついてきた。
全員の表情が凍り付くなか、僕はうつ伏せに転倒していた。このままだとスライムに呑み込まれてしまう。
そう思ったときに、全身から霊力があふれ出して、無意識のうちに放電を行っていた。
スライムは一瞬で波打つと、力なく僕の身体から落ちていき、まるで緑色の液体のように伏せて動かなくなっていた。
「だ、大丈夫か……? リューノ君??」
「え、ええ……スライムの粘液でベトベトにはなりましたが……」
メリィがそっと近寄って、スライムの様子を眺めると……頷いていた。
「どうやら、感電して失神しているようですね」
「気絶……しているだけなの?」
そう聞くとメリィも頷いた。
「ええ、基本的にスライムは体全部を失わない限りは死にません」
なんて厄介な生き物なんだろう。平気で他の生き物を捕食するのなら、その辺がスライムだらけになっていたとしてもおかしくはなさそうだが……。
「スライムって、そもそも天敵はいるのかい?」
「魔物の中にスライムを好んで食べる者もいますし、スライムの中でも別のスライムを食べて取り込んでしまうモノもいます」
「…………」
どうやら不死身そうに見えるスライムも、ダンジョンの食物連鎖の中に組み込まれているようだ。
何とか気を取り直して移動を再開すると、いよいよ瘴気の風を感じた。
どうやらこの先に、本物の地獄があるようだ。気を引き締めながら歩いていくと、木々の切れ目から巨大な絶壁が姿を見せた。
「……これが」
思わずそう呟くと、ギルド長も頷いた。
「ああ、これが噂のクレバスだ。この地下深くまで行った人間はいないと言われている」
僕はその足元に広がる、巨大な虚空を眺めながら生唾を呑んでいた。
このどこかに、メリィの病気を治せるかもしれない一角獣がいる……のか。ユニコーンと聞いたときは、競馬場にいるような大きなサラブレッドをイメージしていたから、何とかなるだろうと思っていたけれど……
この雄大すぎる光景を眺めていると、僕よりも大きな生き物でも探すとなれば、砂漠の中から金の粒を見つけるように不毛なモノなのではないかと思える。
メリィも同じようにクレバスを眺めていた。
「このどこかに……奴が……」
そう呟いた直後に、彼女は肩口を押えていた。もしかしたら古傷がうずいたのかもしれない。
「焦らずじっくりと行こう。これだけ早くクレバスを見れただけでも大きな収穫だよ」
「ええ……」
やがて移動を再開すると、メリィは僕の背中に両手を乗せ隠れるように歩いていた。
頼ってくれるのは嬉しいのだけど、更に後ろの2人のパーティーメンバーと、その更に眺めてくる謎の視線が凝視……というかガン身してくるから恥ずかしい。
意味もなくこんなことをする娘ではないから、何だか気になった。
「……どうしたんだい?」
「いえ、こうしていると、痛みが和らぐので……」
僕が神様と通じているからなのか、それともただ単に雷の属性を持っているから呪いに効き目があるのだろうか。まあとにかく、こうしていると楽になるのなら黙って背中を貸すことにした。
少し歩くと、先頭のオオカミ族の戦士が止まった。
「……あれは!」
より近づいてみると、岩陰に生えていたのは何とも平凡なコケだった。だけどオオカミ族の戦士は臭いを嗅ぎながら言う。
「ギルド長。例の光る石を……」
「ああ」
ギルド長が荷物の中から光る石を出すと、目の前のコケはキラキラと光を反射した。その色は緑の光を放ち、今までの地味な姿がウソのようだった。
「間違いなく光ゴケだな。量が少ないが……」
「それなら、ちょっといいでしょうか?」
メリィはコケに近づくと、大地の精霊に働きかけた。
すると、コケはみるみる成長していき、チームメイトたちは驚きの声を上げている。
「す、凄いな……! これ、ハイエルフの技じゃないか!」
「ああ、初めて見た!」
パーティーメンバーが興奮するなか、ギルド長も頷いた。
「私も何度か、ハイエルフと行動を共にしたことはあるが……これほど短時間に多くの植物を複製しているのは初めて見る。いや……本当に凄い技だぞ!」
先頭を歩いていたオオカミ族の戦士は、ニヤニヤと肘で僕の横腹を突いてきた。
「すげえカミさんをゲットしたな。愛想を尽かされないようにしっかり頼むぞ!」
「肝に銘じておくよ……はははは」
そう笑って受け流したけれど、まだ視線を感じるのが気になった。どうしてトナカイは僕たちの後をつけ回すのだろう。
【巨大なクレバス】
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