エッケハルトのザマァ海賊団 〜金と仲間を求めてゆっくり成り上がる〜

スィグトーネ

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1.一角獣との戦い

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 何とか、勝利をもぎ取るんだ!
 僕はそう思いながら、森の奥から現れた黒毛ユニコーンを睨んでいた。

 ユニコーンの見た目は、ウマにとてもよく似ている。
 角はなく、姿かたちもウマそのものなのだが、人語を操れるし、勇敢だし、賢いうえに治癒魔法を使い、コイツの場合は更に風魔法がある。
 ならば近づけばどうかと言えば、タックルと脚技のコンボ攻撃があるのだ。

 普通なら、Aランククラスの冒険者パーティーで戦うべき相手だが、僕には仲間がいない。
 今日の昼頃に無能だからという理由で追放されたのだ。アビリティという特殊能力がない僕と組んでくれるような冒険者はいないので、一か八かこのユニコーンに勝って仲間に入れなければ、僕は冒険者としてやっていけない。


『来ないのか……ならば、こちらから行くぞ!』
 その声と共に、推定体重500キログラムの巨体が向かってきた。
 川原の砂利が悲鳴を上げるように軋みながら接近を知らせてくる。辺りはすっかり夜闇に包まれているというのに、何て恐ろしい圧迫感を伝えて来るんだろう。

 思わず恐怖と焦りを感じた。僕は何てヤツにケンカを売ってしまったのだ。
 だ、だけど……その姿はウマなのだから、横っ腹を取れば劣勢をひっくり返せるはず。

 引き付けるだけ引き付けると、僕は間一髪のところで横に飛んでウマの攻撃を交わした。
『……なにっ!?』
 今まで劣勢一辺倒だった戦いに、ほんのわずかだが勝算が出てきた。僕は剣を振り上げると、ウマに側面攻撃を仕掛けた。

「なっ……な!」
 その直後、僕の攻撃は見事に防がれていた。
 振り下ろそうとした剣は弾き飛ばされて、近くの木に突き刺さり、僕自身の両手や腕からは血が次々と流れ出ている。一体、何が起こったというんだ!?

 凝視してやっと理解できた。
 どうやら一角獣は、自分の両肩に翼を出現させたのだ。それもただの翼ではない。風の渦が作り出したような、ガラスのような透明なエネルギーの塊だ。更に額には金色の角も光っている。

 これは、間違いなくこのウマの固有特殊能力。つまりアビリティだろう。
 普段から僕の秘密の特訓を見てきたコイツが、一角獣だというところまで突き止めたのに、僕にもう戦闘を行うだけの力はない。これまで……ということなのか。

 そう絶望していると、その黒毛の一角獣は言った。
『まさか、アビリティも使わずに吾に真の姿を出させるとは……見事だ!』

 一角獣の言葉を聞いて、少しだけ落胆も薄れた。
 無能力者とギルド内でもパーティー内でもバカにされてきた僕だが、最期だけ強者に認められたということか。
 そう考えると、弱いながらも一生懸命に努力してきて良かったと思える。


 諦める気持ちが、やっと出てきた。
「ここまでだな。わが一生悔いなし……だよ」
 そう笑いながら答えると、その一角獣は優しく微笑んでいる感じがした。このまま殺されるだろうが、僕は無能なりに一生懸命に生きてきた。
 さあ、殺せと思いながら目を瞑ると……彼は僕に言葉をかけてきた。

『ここで殺めるには惜しい人材だ。吾の仲間にならんか?』
 意外過ぎる提案だ。いったい一角獣は、僕に何をさせたいのだろう。
「仲間? 君が何をしたいのかによる」
『海賊に……なる気はないか?』


 海賊と言う言葉を聞いて、僕は目を丸々と開いてしまった。
 確かに海賊には、一種の華がある。大海を股にかけて世界中を旅する妄想なら、誰もが1度はしたことがあるのではないだろうか。
 だけど、これをウマが言うなんて変わっている。まあ、ダメ……というワケではないけれど……。
「海賊? どうして君はそんなものになりたいんだ?」
『建前は、吾が一族の探し物である……オーブを見つけるためだな』

 オーブと聞いて、僕は大きな水晶玉を思い描いていた。
 ウマに求められる宝玉とは……一体、どんなシロモノなのだろうか。しばらく考えていると彼は言った。
『その中には、太古の英雄によって封じられた、悪しきモノの力が封じられているという』
「悪しきモノの?」
『ああ……それは、窃盗団と一角獣の戦いでバラバラに砕け、破片となって各地に散っている』
 そこまで言うと、一角獣は僕の頭を見てきた。
『ちょうど、君の頭に刺さっている破片もその一つだ。まるで水滸伝という物語の好漢のようにも見えるな』


 一角獣といえど、この破片が見えていることに、僕は驚きを隠せなかった。
 実は僕の頭に刺さっている破片。これは幼少期にはすでにあったモノで、孤児院のみんなに見せても、冒険者ギルドの連中に見せても、何も見えないらしく、僕自身が触ろうとしてもすり抜けるのだ。
「さすがは一角獣だな」

 さすがに建前だけあって、とても立派なモノに聞こえる。
 でもこのウマには、全く別の本音があるようだ。できるのならそっちも聞いておきたい。
「で……お前さんの本音と言うのは?」
『金と女だ』

 たったの4文字。
 しかも、とってもわかりやすくて潔い答えに僕はとても満足したし、この一角獣のことが凄く気に入ってしまった。
「ざっくり言うな!」
『お前も好きか? 金と女?』
「決まってるじゃないか。大好きだよ!」
 やっぱり世のため人のためという大義名分よりも、金と女の方がわかりやすいし正直だ。
 でも、僕自身が今まで弱い者いじめをされてきた立場だから、弱い者からは奪い取りたくない。

「だけどさ、僕は鬼じゃない。だから普通の人たちから強盗するようなことはできないし、しないぞ?」
『それはもちろんわかっている。吾とて一角獣だ……だからこそ、悪人からしか奪わん』
「それでこそ海の雄だ!」

 一角獣と気が合うなんて……何だか嬉しくなっでガッツポーズを取ると、向こうも満足した様子で笑っていた。
『吾の名はミホノシュヴァルツ』
「僕はエッケハルト。よろしく!」
『吾らは今日より兄弟だ……よろしく頼むぞ!』


 そう手を差し出すと、一角獣ミホノシュヴァルツは僕の血だらけの手を見て心配そうな顔をしている。
『これは、すぐに治療しなければ……傷口から雑菌が入り込んでしまうな。少しそのままに』
「あ、ああ……」
 ミホノシュヴァルツは僕の傷口に頭を近づけると、角を再び出現させてヒーリングをかけてくれた。
 暖かい光がまず、僕の手についていた邪気を払い、続いて角を強く光らせると、僕の手から痛みが和らぎ、傷口から透明な液体が出はじめ、やがてカサブタが現れはじめた。

『ヒールでのお節介はこの辺にしておこう。後は自力で治せ』
「ああ、ありがとう……」
 本来ならここまで治るのに2週間以上はかかる。ヒーリングの凄さを実感しているとシュヴァルツ号は言った。
『念のため、今は休養を取った方がいい。肩を貸すからゆっくりと休め』
「すまない」

 シュヴァルツ号の側で横になると、暖かい体温に感動を覚えるほどだった。
 僕は常にワラのベッドで眠ってきたし、冒険者パーティーに居た時も、戦力外だったから見張りなどを強要されて不眠不休という感じだ。
 ゆっくりと目を瞑ると5分もしないうちに眠っていた。


【ミホノシュヴァルツ号(普段)】
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