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9.エッケザックスの能力

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 無事に出港を果たした僕たちだが、すぐに決めなければならないことがある。
 それは、次はどこを目的地にするかという問題だ。僕は固有特殊能力アビリティのエッケザックスを出して、その宝玉のコンパスを出してみたが、もちろん北の方角を指すだけだ。

「ミホノシュヴァルツ号」
『なんだ?』
「北はこっちの方角だ」
 その針の向きを見ているのか、シュヴァルツ号はにっこりと笑う。
『おお、これは便利だな』

 そう言うと彼はコンパスを覗き込んできた。
『なるほど。これは海中の様子や潮の流れも映し出してくれるのだな』


 その言葉を聞いてハッとさせられた。
 僕はコンパスの針しか見ていなかったが、確かに意識をよく向けてみるとNとかSとか書かれている盤面に、無数の水色の矢印が記されており、更によく見ると、茶色い海中の深さを示すような曲線も描かれている。

 ただ、盤面が小さくて見づらい。もう少し大きくならないだろうかと考えていると、宝玉が形状を変化させて丸盾のようなモノへと変わっていた。
 この形状になると、とても見やすいだけでなく、海中の深さを示す曲線の数も増えている。

『なんだこの素敵な能力は!?』
 シュヴァルツ号が言うと、遠目から見ていたヤーシッチやニッパー、更にマーチルやオフィーリアまで近づいてきたので、僕の周りは人が密集していた。

「こ、これ……海中が映ってるの!?」
「す、すげぇ……このヤーシッチ、ここまでアビリティに感激したのは初めてだ!」
「海中の様子がわかるなんて前代未聞だぞ! 何だこのトンデモ能力は!」


 集まってきた4人の中で、比較的冷静さを保っていたのはオーフェリアだった。
 彼女は片目を手で隠すと、丸盾化した僕の宝玉を見て頷く。
「この盾……よく見れば、マナバランスの細部まで確認できますね」

 その言葉を聞いた僕は、詳しく丸盾の盤面……というか表面を見てみた。
 どこにも、マナのことなんて書かれていないのだが……。ヤーシッチやマーチルも不思議そうにオフィーリアを見ていた。
「マナのことなんて、どこに書かれているの?」
「こことここ、あとここが赤く光っていませんか?」

 彼女が指さした場所は、単なる海底だった。
 僕を含む3人で首をひねっていると、ミホノシュヴァルツ号は笑いながら言った。
『恐らくオフィーリアには、アブソルートマナセンス。つまり絶対マナ感覚があるのだろう』
「お前には見えるのか?」
『一応な。だが……吾の場合はぼやけて見えるから、海底が深ければ見逃してしまう』


「ところで、次の目的地は?」
 マーチルがそう聞いてきたので、僕は丸盾を眺めながら考えた。
 ここは、下手に逆らわずに潮の流れに身を任せるのがいいだろうか。シュヴァルツ号を見ると彼も僕を見ている。
『なるべくなら、風や潮の流れ通りに行きたいところだな。ならば……このまま進むか』
「ちなみに、このまま進むとどんな島に行きつくんだ?」

 シュヴァルツ号は、近くに止まって羽を休めている渡り鳥に近づいて話しかけた。
 すると鳥は小さな声でさえずりながら、答えを返してくれている。
『……このままいくと、人魚たちの村にたどり着くようだ』
「人魚か! できれば友好的な部族とコンタクトを取りたいね」
『そういう部族もいるらしい。とりあえずしばらく潮の流れに身を任せるとしよう』


 その後に僕は、オフィーリアのゴーレム作りを手伝っていたが、シュヴァルツ号は情報収集、ニッパーは船内の修復や換気、ヤーシッチは船の周囲の見張りと甲板の掃除、マーチルは室内の掃除、リーゼは食事の準備をしながらピクルスと巣漬けキャベツ作り……という感じで、特に誰が指示を出したわけでもないが、各々ができることをしていた。

 そしてお待ちかねの夕食。
 リーゼに呼ばれて全員が向かうと、ビスケットだけでなく魚料理や海藻サラダ、更に麦粥なども並んでいた。
 これは、ヤーシッチやニッパーと言ったベテラン船乗りほど驚く食事だったのである。
「航海中に野菜を食べられるなんて夢のようだ」
「ああ、普通は固焼きしたビスケットとビールだけってのが定番だもんな」


 こうして、船を強奪して出港するという長い1日が終わったのである。

【少女リーゼ】


 エッケハルトたちと行動を共にする少女。
 元々は漁村で、採れた魚を干物などに加工して、それを売り歩いて生計の足しにしていたようだが、この戦いで家や商売道具が壊されてしまったらしい。

 得意な料理は魚料理全般。野草の中からハーブを探し出して味付けしたりすることもできるため、もっぱら海賊船の中では、料理を中心とした雑事をすることになる。
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