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8.出港する海賊船
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僕ことエッケハルトは、不足分の食料を買ってから戻ってきた。
買い足したのは、キャベツやピクルス、トマトと言った野菜系が中心だ。これらのシロモノは後で酢で漬けて保存できる状態にしておく。
こうすれば、洋上でも野菜を取ることができるわけだ。
「ミホノシュヴァルツ号。頼まれていた大豆と牧草……きれいな水の入った樽も5つほど手に入れてきたぞ」
『すまないな。運び込むこともやってもらったのか』
「ああ、漁村の人たちが手伝ってくれたよ」
シュヴァルツ号の食事は、僕たちだけでは運びきれなかったので、漁村で力のありそうな人に手伝ってもらった。さすがにウマの体は大きいため、荷車で運んでから船内に積み込む必要が出てくる。
「ところでゴーレムの方はどうだ?」
『試作機を見せてもらったが、普通の人間よりもパワーがあって驚いた。さすがはハイエルフと言ったところだな』
制作現場を見せてもらうと、エルフの少女オフィーリアは、船内にあったと思われる木材や廃材などを、次々と魔法の力で再構築してウッドゴーレムを作り出している。
どうやら、プロトタイプを1台作れば後のモノは同じ構造をしているので、それなりに早く作れるようになるようだ。
「7台目が出来ました。持ち場に運んでください」
「おうよ!」
職人ニッパーが、オール漕ぎ用のゴーレムを運ぼうとすると、僕の方を見た。
「ああ、ハルトたち……廃材が足りなくなりそうなんだ。漁村まで行って、不要なヤツを買い取って来てくれ」
「わかった」
再び僕は、仲間を連れて漁村に向かうと、廃材などを安値で譲ってもらった。
ちょうど船内にもコインが残っていたので、支払いも自腹を切らずに済んで助かるものである。再びそれらの資材を運び込むと、オフィーリアは10台目のゴーレムを再構築していた。
「手際がいいね。もし疲れたのなら……少し休憩してもいいんだよ?」
そう伝えると、彼女は困り顔をしながら答えた。
「何だか、渡り鳥たちが警戒を促しているように感じるのです。だから……少しでも早く……」
エルフには人間にはない感覚があるという話を聞いたことがある。
僕は真顔になってうなずくと、彼女が完成させたゴーレムをマーチルと2人がかりで持ち上げ、船の一番下のフロアまで運ぶことにした。
ニッパーの話では、ゴーレムは精密な構造をしているから、ぶつけたり落としたりしたら動かなくなったり、変な動き方をすることもあるという。
これほど気を遣う作業を10回近くも行ったなんて……ニッパーとヤーシッチの頑張りには頭が下がる。
その後もオフィーリアはゴーレムを作り続け、16体目が完成して17体目の製作に移ろうとしたときだった。
それまで船の周りを飛び回っていた水鳥たちの動きが、大きく変わったような感じがする。胸騒ぎを感じると思っていたとき、ミホノシュヴァルツ号がこちらを見た。
『少し早いが……出港する必要が出てきたようだ』
「もしかして、新手の海賊か!?」
シュヴァルツ号は険しい顔をした。
『いいや……王国海軍だ。吾らが乗っているのは海賊船だ。こんな現場を見られたら吾らだけでなく、漁村まで協力しているとみなされて、最悪処罰される者が出る恐れもある』
ゴーレムはまだ16台しか出来ていないが、もうタイムリミットということか。
「君は、ゴーレムの製作を続けてくれ。パワーが足りないなら……僕らも漕ぐしかないね」
「ああ、このヤーシッチも力には自信がある」
間もなく僕とヤーシッチは船底の部屋に降りると、ゴーレムたちの前に腰掛けてオールを持った。
オフィーリアも、部屋の中央に立つという。
「では……ゴーレムを稼働させます!」
彼女が霊力を纏うと、ゴーレムたちは一斉にオールを漕ぎはじめた。そのパワーはプロのオール漕ぎ顔負けで、1回動かすたびに、船が前へ前へと進んでいくことがわかるほどだ。
僕やヤーシッチも、ゴーレムと合わせてオールを動かしていくのが精一杯だが、オフィーリアは霊力を纏ったままゴーレムを稼働させながら、おかしな動きをしているモノはないか、じっくりと監視までできるのだから驚かされる。
およそ15分ほど動かしていると、甲板にいたマーチルが下りてきて言った。
「みんなー! もう帆を張ったところだから……これ以上は漕がなくても大丈夫だよ!」
その言葉を聞いて安心した。
これ以上、漕ぎ続けていると腕の方はともかくとして手の皮が剥けるところだった。ヤーシッチやオーフェリアと共に甲板へと上がってみると、そこには一面の大海原と、大分小さくなった漁港が見える。
「いよいよ……大海原に出たんだな」
そうしみじみと言っていると、シュヴァルツ号も微笑を浮かべたまま僕を見た。
『思ったよりも余裕のない船出になってしまったがな。あれを見てみろ』
彼の視線を目で追ってみると、そこには帆を張った立派な軍船が漁港を目指して進んでいる。まだ距離があるからこちらに来ようとはしていないが、あと10分……出港するのが遅かったら停船命令が出て、中を色々と調べられていたような気がする。
「……本当だ。間一髪だったね」
『渡り鳥たちに感謝せねばな』
まあ何はともあれ、これからは海の冒険が始まる。
僕はしっかりと水平線を睨んだ。
【ツーノッパという地域】
この世界はヨーロッパに似たツーノッパという地域が舞台となっている。
フランスやドイツと似た国々が中心となって、北は北欧3国に似た国、北東部はバルト三国やポーランドに似た国、南はトルコに似た国に至るまでの大半を、このツーノッパ王国が統治している。
ちなみにイギリスに似たツノテン王国は独立を保っている。
買い足したのは、キャベツやピクルス、トマトと言った野菜系が中心だ。これらのシロモノは後で酢で漬けて保存できる状態にしておく。
こうすれば、洋上でも野菜を取ることができるわけだ。
「ミホノシュヴァルツ号。頼まれていた大豆と牧草……きれいな水の入った樽も5つほど手に入れてきたぞ」
『すまないな。運び込むこともやってもらったのか』
「ああ、漁村の人たちが手伝ってくれたよ」
シュヴァルツ号の食事は、僕たちだけでは運びきれなかったので、漁村で力のありそうな人に手伝ってもらった。さすがにウマの体は大きいため、荷車で運んでから船内に積み込む必要が出てくる。
「ところでゴーレムの方はどうだ?」
『試作機を見せてもらったが、普通の人間よりもパワーがあって驚いた。さすがはハイエルフと言ったところだな』
制作現場を見せてもらうと、エルフの少女オフィーリアは、船内にあったと思われる木材や廃材などを、次々と魔法の力で再構築してウッドゴーレムを作り出している。
どうやら、プロトタイプを1台作れば後のモノは同じ構造をしているので、それなりに早く作れるようになるようだ。
「7台目が出来ました。持ち場に運んでください」
「おうよ!」
職人ニッパーが、オール漕ぎ用のゴーレムを運ぼうとすると、僕の方を見た。
「ああ、ハルトたち……廃材が足りなくなりそうなんだ。漁村まで行って、不要なヤツを買い取って来てくれ」
「わかった」
再び僕は、仲間を連れて漁村に向かうと、廃材などを安値で譲ってもらった。
ちょうど船内にもコインが残っていたので、支払いも自腹を切らずに済んで助かるものである。再びそれらの資材を運び込むと、オフィーリアは10台目のゴーレムを再構築していた。
「手際がいいね。もし疲れたのなら……少し休憩してもいいんだよ?」
そう伝えると、彼女は困り顔をしながら答えた。
「何だか、渡り鳥たちが警戒を促しているように感じるのです。だから……少しでも早く……」
エルフには人間にはない感覚があるという話を聞いたことがある。
僕は真顔になってうなずくと、彼女が完成させたゴーレムをマーチルと2人がかりで持ち上げ、船の一番下のフロアまで運ぶことにした。
ニッパーの話では、ゴーレムは精密な構造をしているから、ぶつけたり落としたりしたら動かなくなったり、変な動き方をすることもあるという。
これほど気を遣う作業を10回近くも行ったなんて……ニッパーとヤーシッチの頑張りには頭が下がる。
その後もオフィーリアはゴーレムを作り続け、16体目が完成して17体目の製作に移ろうとしたときだった。
それまで船の周りを飛び回っていた水鳥たちの動きが、大きく変わったような感じがする。胸騒ぎを感じると思っていたとき、ミホノシュヴァルツ号がこちらを見た。
『少し早いが……出港する必要が出てきたようだ』
「もしかして、新手の海賊か!?」
シュヴァルツ号は険しい顔をした。
『いいや……王国海軍だ。吾らが乗っているのは海賊船だ。こんな現場を見られたら吾らだけでなく、漁村まで協力しているとみなされて、最悪処罰される者が出る恐れもある』
ゴーレムはまだ16台しか出来ていないが、もうタイムリミットということか。
「君は、ゴーレムの製作を続けてくれ。パワーが足りないなら……僕らも漕ぐしかないね」
「ああ、このヤーシッチも力には自信がある」
間もなく僕とヤーシッチは船底の部屋に降りると、ゴーレムたちの前に腰掛けてオールを持った。
オフィーリアも、部屋の中央に立つという。
「では……ゴーレムを稼働させます!」
彼女が霊力を纏うと、ゴーレムたちは一斉にオールを漕ぎはじめた。そのパワーはプロのオール漕ぎ顔負けで、1回動かすたびに、船が前へ前へと進んでいくことがわかるほどだ。
僕やヤーシッチも、ゴーレムと合わせてオールを動かしていくのが精一杯だが、オフィーリアは霊力を纏ったままゴーレムを稼働させながら、おかしな動きをしているモノはないか、じっくりと監視までできるのだから驚かされる。
およそ15分ほど動かしていると、甲板にいたマーチルが下りてきて言った。
「みんなー! もう帆を張ったところだから……これ以上は漕がなくても大丈夫だよ!」
その言葉を聞いて安心した。
これ以上、漕ぎ続けていると腕の方はともかくとして手の皮が剥けるところだった。ヤーシッチやオーフェリアと共に甲板へと上がってみると、そこには一面の大海原と、大分小さくなった漁港が見える。
「いよいよ……大海原に出たんだな」
そうしみじみと言っていると、シュヴァルツ号も微笑を浮かべたまま僕を見た。
『思ったよりも余裕のない船出になってしまったがな。あれを見てみろ』
彼の視線を目で追ってみると、そこには帆を張った立派な軍船が漁港を目指して進んでいる。まだ距離があるからこちらに来ようとはしていないが、あと10分……出港するのが遅かったら停船命令が出て、中を色々と調べられていたような気がする。
「……本当だ。間一髪だったね」
『渡り鳥たちに感謝せねばな』
まあ何はともあれ、これからは海の冒険が始まる。
僕はしっかりと水平線を睨んだ。
【ツーノッパという地域】
この世界はヨーロッパに似たツーノッパという地域が舞台となっている。
フランスやドイツと似た国々が中心となって、北は北欧3国に似た国、北東部はバルト三国やポーランドに似た国、南はトルコに似た国に至るまでの大半を、このツーノッパ王国が統治している。
ちなみにイギリスに似たツノテン王国は独立を保っている。
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