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少しずつ狂い始める歯車
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吾ことミホノシュヴァルツ号は、作業も終えて休憩を取っていると、見覚えのある渡り鳥がやってきた。
この者は、冒険者街の情報収集を任せていた者だ。
「ピュイ!」
なかなか興味深いことを言っていたので、少しガンスーンチームと冒険者街の話でもするとしよう。
エッケハルトの古巣と言えるガンスーンチームでは、ハルトの代わりの冒険者をチームに加えたようだ。
年齢はハルトよりも3歳ほど上で、ガンスと同じ年になる。この新入り……レベルはエッケハルトより2ほど低いが、シャープネスというアビリティを持っていた。
これは刃物の切れ味を増すという、戦士にとってはありがたい能力で、更にレベルも少し低いくらいだから冒険者ギルドの受付嬢もギルド長も、エッケハルトの上位互換だと思ったようだ。
「これは……期待が持てますね!」
「ええ、地方ギルドとバカにされていますが、これでSランク冒険者チームがうちのギルドから出ます!」
受付嬢が喜んでいる横で、その新入りは同じギルドのCランク冒険者パーティーの女性魔導士に話しかけていたという。
「なあ、いいじゃん……今夜さ、いいレストランを知ってるんだぜ?」
「あ、あの……こ、困ります」
「そう言うなって、俺様は天下のガンスーンチームの一員だ。なあ、行こうぜ!」
実はこの新入り。考えなしに可愛いと思った女に見境なく手を出す男だったようだ。
早速、このナンパはCランク冒険者チームの男連中に見つかると、集団で取り囲まれている。
「おい、アンタ……この娘はうちのパーティーメンバーだぞ!」
「あ? うっせーよ、Cランクのザコのクセに!」
「AだろうがCだろうが、ギルドの規則は規則だ、したがって……ごは!」
この新入りは、加入初日からギルド規定に違反しただけでなく、更に咎めてきたギルド員を殴るという愚行まで犯したようだ。
「てめえ!」
「よくもやりやがったな!」
いくらAランクパーティーのメンバーとはいえ、新人であり更に多勢に無勢なので、この新入りはすぐに殴り倒されることになった。
幸いにも、近くにいた別の冒険者チームのメンバーが止めに入ったから、大怪我をする人間は出なかったが、早速このことはギルド内で問題になっていく。
報告を聞いた、ギルド長は早くも頭を抱えていた。
「いかが……なさいますか?」
「うむ……相当共に問題のある行動だからな……ケンカ両成敗と行くか」
「わかりました。そう伝えます」
受付嬢がギルド長室から出ると、5分もしないうちに彼女は血相を変えて戻ってきた。
「た、大変ですギルド長!」
「ど、どうした!?」
「ガンスチームのチームリーダーのガンスーン隊長が、ギルドの方針に納得がいかない、そういう決定を下すなら他のギルドに移籍すると言っています!」
その言葉を聞いたギルド長は声を荒げた。
「そ、それは困る! チームガンスーンは我がギルドのエースチームだ!」
「出て行かれたくないのなら、暴力行為をしたチームメイトを全員除名しろと……」
「そ、そ、そ、それは……」
今の話を渡り鳥から聞いていた吾は、即座にガンスという男を除名すべきだと思ったが、どうやらこのギルドのボンクラ長は、吾と違う判断を下したようだ。
「わ、わかった……その条件を呑もう……」
こうして、ガンスチームの新人を揉め事を起こした冒険者チームは除名処分となり、それを見ていたギルドの女性ギルド員は怖がってギルド内に顔を出さなくなった。
するとこの問題を起こした新人は、ギルドの受付嬢にちょっかいを出しはじめたようだ。
「ええ、いいじゃん……今夜さデートしようよ」
「ダメですよ。私には夫も子供もいます」
「女を働かせるようなダメ夫じゃなくてさ、俺に乗り換えなよ~」
こんなやり取りをギルドクエストの受付を担当している女性にやっているのだから、後ろには長い行列ができていた。しかし、この新人はいい気になっているため気に留める様子もない。
30分、1時間と続くと、ギルドメンバーたちは次々と行列から離れていき、中にはかつての僕のようにギルドバッジを受付に返してから脱退していく者もいる。
同時に、ギルド内ではこんな愚痴を言いはじめる者もいた。
「本当に、あんなのを連れてきてガンスのバカは何考えてるんだ」
「全くだ、俺たちの仕事の邪魔してそんなに楽しいのかよ、あのクソヤロー」
「能なしエッケハルトの方が、万倍もマシだったな」
「ああ、アイツが居なくなって、うちのパーティーメンバーもトレーニングしなくなったんだよ」
「お前の所もか……実は俺のところもだ」
「…………」
少し間が相手から、冒険者の1人が言った。
「絶対にこれ、ギルド長とクソガンスの嫌がらせだよ」
「おもしろくねえ……」
怪訝な顔をしていた冒険者たちだったが、その中のシーフの恰好をしていた男は、何かを思い付いたらしく、いやらしい笑みを浮かべた。
「おい、何だよ突然笑って……気持ちわりぃな」
「すまんすまん、いや……ちょっとばかし、面白いこと思い付いてよ」
「なんだよ?」
そのシーフの恰好をした男が何かをささやくと、他の冒険者たちもいびつな笑みを浮かべていく。
「……いいなそれ」
「ちょっと、あのバカをぎゃふんと言わせてやろうぜ」
何をするつもりかはわからんが、ギルド長とガンスーンのせいでギルドの士気が大きく落ちていることだけは事実だろう。
【作者スィグからの挨拶】
ここまで【ザマァ海賊団】をお読みくださり、ありがとうございます!
次の追放側の描写は、第10話の後に行う予定です。
主人公たちの活躍を早く見たい!
悪役の落ちぶれる姿を、スィグ風に表現してくれ!
そう思われたのなら……ぜひ【お気に入り登録】をよろしくお願いします。モチベーションが執筆速度に影響する作者なので、ご協力のほどを重ねてお願い申し上げます。
この者は、冒険者街の情報収集を任せていた者だ。
「ピュイ!」
なかなか興味深いことを言っていたので、少しガンスーンチームと冒険者街の話でもするとしよう。
エッケハルトの古巣と言えるガンスーンチームでは、ハルトの代わりの冒険者をチームに加えたようだ。
年齢はハルトよりも3歳ほど上で、ガンスと同じ年になる。この新入り……レベルはエッケハルトより2ほど低いが、シャープネスというアビリティを持っていた。
これは刃物の切れ味を増すという、戦士にとってはありがたい能力で、更にレベルも少し低いくらいだから冒険者ギルドの受付嬢もギルド長も、エッケハルトの上位互換だと思ったようだ。
「これは……期待が持てますね!」
「ええ、地方ギルドとバカにされていますが、これでSランク冒険者チームがうちのギルドから出ます!」
受付嬢が喜んでいる横で、その新入りは同じギルドのCランク冒険者パーティーの女性魔導士に話しかけていたという。
「なあ、いいじゃん……今夜さ、いいレストランを知ってるんだぜ?」
「あ、あの……こ、困ります」
「そう言うなって、俺様は天下のガンスーンチームの一員だ。なあ、行こうぜ!」
実はこの新入り。考えなしに可愛いと思った女に見境なく手を出す男だったようだ。
早速、このナンパはCランク冒険者チームの男連中に見つかると、集団で取り囲まれている。
「おい、アンタ……この娘はうちのパーティーメンバーだぞ!」
「あ? うっせーよ、Cランクのザコのクセに!」
「AだろうがCだろうが、ギルドの規則は規則だ、したがって……ごは!」
この新入りは、加入初日からギルド規定に違反しただけでなく、更に咎めてきたギルド員を殴るという愚行まで犯したようだ。
「てめえ!」
「よくもやりやがったな!」
いくらAランクパーティーのメンバーとはいえ、新人であり更に多勢に無勢なので、この新入りはすぐに殴り倒されることになった。
幸いにも、近くにいた別の冒険者チームのメンバーが止めに入ったから、大怪我をする人間は出なかったが、早速このことはギルド内で問題になっていく。
報告を聞いた、ギルド長は早くも頭を抱えていた。
「いかが……なさいますか?」
「うむ……相当共に問題のある行動だからな……ケンカ両成敗と行くか」
「わかりました。そう伝えます」
受付嬢がギルド長室から出ると、5分もしないうちに彼女は血相を変えて戻ってきた。
「た、大変ですギルド長!」
「ど、どうした!?」
「ガンスチームのチームリーダーのガンスーン隊長が、ギルドの方針に納得がいかない、そういう決定を下すなら他のギルドに移籍すると言っています!」
その言葉を聞いたギルド長は声を荒げた。
「そ、それは困る! チームガンスーンは我がギルドのエースチームだ!」
「出て行かれたくないのなら、暴力行為をしたチームメイトを全員除名しろと……」
「そ、そ、そ、それは……」
今の話を渡り鳥から聞いていた吾は、即座にガンスという男を除名すべきだと思ったが、どうやらこのギルドのボンクラ長は、吾と違う判断を下したようだ。
「わ、わかった……その条件を呑もう……」
こうして、ガンスチームの新人を揉め事を起こした冒険者チームは除名処分となり、それを見ていたギルドの女性ギルド員は怖がってギルド内に顔を出さなくなった。
するとこの問題を起こした新人は、ギルドの受付嬢にちょっかいを出しはじめたようだ。
「ええ、いいじゃん……今夜さデートしようよ」
「ダメですよ。私には夫も子供もいます」
「女を働かせるようなダメ夫じゃなくてさ、俺に乗り換えなよ~」
こんなやり取りをギルドクエストの受付を担当している女性にやっているのだから、後ろには長い行列ができていた。しかし、この新人はいい気になっているため気に留める様子もない。
30分、1時間と続くと、ギルドメンバーたちは次々と行列から離れていき、中にはかつての僕のようにギルドバッジを受付に返してから脱退していく者もいる。
同時に、ギルド内ではこんな愚痴を言いはじめる者もいた。
「本当に、あんなのを連れてきてガンスのバカは何考えてるんだ」
「全くだ、俺たちの仕事の邪魔してそんなに楽しいのかよ、あのクソヤロー」
「能なしエッケハルトの方が、万倍もマシだったな」
「ああ、アイツが居なくなって、うちのパーティーメンバーもトレーニングしなくなったんだよ」
「お前の所もか……実は俺のところもだ」
「…………」
少し間が相手から、冒険者の1人が言った。
「絶対にこれ、ギルド長とクソガンスの嫌がらせだよ」
「おもしろくねえ……」
怪訝な顔をしていた冒険者たちだったが、その中のシーフの恰好をしていた男は、何かを思い付いたらしく、いやらしい笑みを浮かべた。
「おい、何だよ突然笑って……気持ちわりぃな」
「すまんすまん、いや……ちょっとばかし、面白いこと思い付いてよ」
「なんだよ?」
そのシーフの恰好をした男が何かをささやくと、他の冒険者たちもいびつな笑みを浮かべていく。
「……いいなそれ」
「ちょっと、あのバカをぎゃふんと言わせてやろうぜ」
何をするつもりかはわからんが、ギルド長とガンスーンのせいでギルドの士気が大きく落ちていることだけは事実だろう。
【作者スィグからの挨拶】
ここまで【ザマァ海賊団】をお読みくださり、ありがとうございます!
次の追放側の描写は、第10話の後に行う予定です。
主人公たちの活躍を早く見たい!
悪役の落ちぶれる姿を、スィグ風に表現してくれ!
そう思われたのなら……ぜひ【お気に入り登録】をよろしくお願いします。モチベーションが執筆速度に影響する作者なので、ご協力のほどを重ねてお願い申し上げます。
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