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ガンスーン。新入りをクビにする
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エッケハルトさんが追い出されてから何日が経ったでしょうか。
いま、私ことソフィアがいるガンスーンチームでは、ちょっとした揉め事が起こっていました。
実は新しく入った方が、チームの狩人の女性ラナにちょっかいを出してガンスーン隊長の怒りを買ったのです。
まあ、そうなる予兆はありました。実はこの男性……狩人の女性に手を出す前に、私にもちょっかいを出してきたからです。
最初に新人が私に声をかけて来たとき、シスターである私に説法を求めているのかと思いました。
なので、ミリズス神のありがたい教えをなるべくわかりやすく話すと、何だか話題を逸らそうとしたのです。
彼は好色家だという噂も聞いていたので、今度はミリズス神の薦める男女の夜の交わり方について説法すると、新人さんは真っ青な顔をしながら逃げていき、その日から私に近づいてくることがなくなりました。
私の説法の仕方が悪かったのでしょうか。うーん……まだまだ修行が足りないものです。
とにかく、そんなやり取りがあった2日くらい後に、今回の揉め事が起こったわけです。
狩人の女性はガンスーン隊長のハーレムの1人です。それに手を出したのだから、ガンスーン隊長は顔を真っ赤にして怒りを露にしました。
新人は知らなかったんだから仕方ないだろと言い訳をするばかりです。ガンスーン隊長は新人の顔を気絶するほどまで殴りつけると、首根っこを掴んでギルドの外まで引きずり出して、裏のゴミ捨て場に放り投げます。
ギルドは騒然となりましたが、ガンスーン隊長は新人からはぎ取ったギルドバッジを受付に叩きつけるように置くと「処分しておけ」とだけ伝えて部屋へと戻っていきました。
受付嬢たちは困り顔になってギルド長にこの件を伝えましたが、あの人が毅然とした処分ができるとは思えません。
けっきょく、ギルド長はガンスーン隊長に3日間の謹慎という、暴力事件を起こしたとは思えない軽い処分をするだけでした。しかもガンス隊長は意に介する様子もなく出歩いています。
こうしてみると、ギルド長自らが隊長を野放しにして、より凶暴な人間に仕立て上げているかのように思えてしまいます。
とにかくこれで、当分のあいだはSランクへ昇格するという話は遠のくこととなりました。
でもAランクでもいいではありませんか。やはりエッケハルト殿のように地道に修業をする人こそ我がチームには相応しいと思います。ギルドメンバーは彼を悪く言いますが、支援者や顧客にはエッケハルトさんのファンは大勢いたのです。
やはり、アビリティよりも人柄。
私は教団から、まじめに仕事をすることで有名な方を紹介して頂き、ガンスーン隊長に会ってもらうことにしました。
先日の新人のようなモノに迷惑をかけられたのだから……これで……
「ん、却下! 話になんねーよ」
実際に会ってもらうと、ガンスーン隊長は思いもよらない一言を口にしました。これでは、私だって納得できません。
「どうしてですか? なぜ彼がダメなのです?」
「はぁ? 顔……特に目がエッケハルトのバカに似てるからだよ! とっとと失せろ!!」
「内容も見ないで顔が気に入らないとは何事ですか!?」
さすがの私も頭に来たので、力の限りしかりつけると、さすがのガンスーン隊長も目を丸々と開いて驚いていました。
しかし、相手も強情な方なのですぐに反論してきます。
「うるせえ! てめえだってうちのパーティーに入ったばかりのクセに! 嫌なら出ていけ!!」
「そうさせて頂きます! 今までお世話になりましたっ!」
その言葉を横で聞いていた、戦士の女性と、狩人の女性は慌てて立ち上がりました。
「ま、待ってよソフィア!」
「ガンス、さすがにソフィアが居なくなるのはまずいよ!」
女性2人に抗議されていましたが、ガンスは一歩も引く気配がありません。
「へっ……ヒーラーは貴重とか言われてるからいい気になってんだろ。はっきり言ってやるよ。テメーの代わりなんざ履いて捨てるほど集まるんだよ! わかったか教会のメス犬!」
「教会の犬でけっこう。貴方は近い将来に身を滅ぼすことになるでしょう」
さて、私はギルドの受付に行くと、すぐに受付嬢にガンスーンチームから脱退した旨を伝えました。
すると彼女たちは真っ青な顔をして言います。
「ガンスーンチームのAランク評価は……貴方のヒーリング能力を見込んでのモノだったのに……」
「これではBランクへの格下げも現実味を帯びてきました」
私はそれだけでなく、ギルドバッジも受付に返還することにします。
「……え?」
「私がここに来たのは、エッケハルトさんのように頑張っている冒険者がいたからです。残念ながら今の当ギルドに、そのようなひたむきな冒険者はいらっしゃいません」
その言葉を聞いたギルド員たちは、さすがにざわつきました。
実はうちのギルドにアビリティ【ヒーリング】を使えるのは私ひとりなのですが、ガンスーン隊長がいるのなら代わりはいくらでも見つけてこれるので問題はないでしょう。
「では、皆さまの武運をお祈りしています」
【シスター、ソフィア】
【この世界のヒーラーの希少性】
エッケハルトチームには、ミホノシュヴァルツ号。
ガンスーンチームにも、今までにはソフィアがヒーラーとして在籍していたが、彼らはかなりのレア能力者である。
Sランクチームなら、ほぼ9割が所属しているヒーラーだが、Aランクチームなら6割強、Bランクなら1割まで落ちる。
基本的に冒険者ギルドに登録されている冒険者チームは、Aランクチームが3パーセント。Bランクチームが20パーセント。Cランクチームが50パーセント、Dランクが残りの大半となっているので、ほとんどがヒーラーなしで仕事をしていることになる。
200人以上の大規模ギルドなら、専属ヒーラーを置いていることもあるが、基本的に医務室までケガ人を連れて行くことになるし、それすらもないギルドなら教会まで行ってお布施を払うことになる。
ちなみに、ユニコーンはヒーリングだけでなく、荷運び、負傷者輸送、索敵、格闘、魔法戦もこなすことができるが、保有率はSランクチームで15パーセント。Aランクチームで3~5パーセント。Bチームで1パーセントとなる。
いま、私ことソフィアがいるガンスーンチームでは、ちょっとした揉め事が起こっていました。
実は新しく入った方が、チームの狩人の女性ラナにちょっかいを出してガンスーン隊長の怒りを買ったのです。
まあ、そうなる予兆はありました。実はこの男性……狩人の女性に手を出す前に、私にもちょっかいを出してきたからです。
最初に新人が私に声をかけて来たとき、シスターである私に説法を求めているのかと思いました。
なので、ミリズス神のありがたい教えをなるべくわかりやすく話すと、何だか話題を逸らそうとしたのです。
彼は好色家だという噂も聞いていたので、今度はミリズス神の薦める男女の夜の交わり方について説法すると、新人さんは真っ青な顔をしながら逃げていき、その日から私に近づいてくることがなくなりました。
私の説法の仕方が悪かったのでしょうか。うーん……まだまだ修行が足りないものです。
とにかく、そんなやり取りがあった2日くらい後に、今回の揉め事が起こったわけです。
狩人の女性はガンスーン隊長のハーレムの1人です。それに手を出したのだから、ガンスーン隊長は顔を真っ赤にして怒りを露にしました。
新人は知らなかったんだから仕方ないだろと言い訳をするばかりです。ガンスーン隊長は新人の顔を気絶するほどまで殴りつけると、首根っこを掴んでギルドの外まで引きずり出して、裏のゴミ捨て場に放り投げます。
ギルドは騒然となりましたが、ガンスーン隊長は新人からはぎ取ったギルドバッジを受付に叩きつけるように置くと「処分しておけ」とだけ伝えて部屋へと戻っていきました。
受付嬢たちは困り顔になってギルド長にこの件を伝えましたが、あの人が毅然とした処分ができるとは思えません。
けっきょく、ギルド長はガンスーン隊長に3日間の謹慎という、暴力事件を起こしたとは思えない軽い処分をするだけでした。しかもガンス隊長は意に介する様子もなく出歩いています。
こうしてみると、ギルド長自らが隊長を野放しにして、より凶暴な人間に仕立て上げているかのように思えてしまいます。
とにかくこれで、当分のあいだはSランクへ昇格するという話は遠のくこととなりました。
でもAランクでもいいではありませんか。やはりエッケハルト殿のように地道に修業をする人こそ我がチームには相応しいと思います。ギルドメンバーは彼を悪く言いますが、支援者や顧客にはエッケハルトさんのファンは大勢いたのです。
やはり、アビリティよりも人柄。
私は教団から、まじめに仕事をすることで有名な方を紹介して頂き、ガンスーン隊長に会ってもらうことにしました。
先日の新人のようなモノに迷惑をかけられたのだから……これで……
「ん、却下! 話になんねーよ」
実際に会ってもらうと、ガンスーン隊長は思いもよらない一言を口にしました。これでは、私だって納得できません。
「どうしてですか? なぜ彼がダメなのです?」
「はぁ? 顔……特に目がエッケハルトのバカに似てるからだよ! とっとと失せろ!!」
「内容も見ないで顔が気に入らないとは何事ですか!?」
さすがの私も頭に来たので、力の限りしかりつけると、さすがのガンスーン隊長も目を丸々と開いて驚いていました。
しかし、相手も強情な方なのですぐに反論してきます。
「うるせえ! てめえだってうちのパーティーに入ったばかりのクセに! 嫌なら出ていけ!!」
「そうさせて頂きます! 今までお世話になりましたっ!」
その言葉を横で聞いていた、戦士の女性と、狩人の女性は慌てて立ち上がりました。
「ま、待ってよソフィア!」
「ガンス、さすがにソフィアが居なくなるのはまずいよ!」
女性2人に抗議されていましたが、ガンスは一歩も引く気配がありません。
「へっ……ヒーラーは貴重とか言われてるからいい気になってんだろ。はっきり言ってやるよ。テメーの代わりなんざ履いて捨てるほど集まるんだよ! わかったか教会のメス犬!」
「教会の犬でけっこう。貴方は近い将来に身を滅ぼすことになるでしょう」
さて、私はギルドの受付に行くと、すぐに受付嬢にガンスーンチームから脱退した旨を伝えました。
すると彼女たちは真っ青な顔をして言います。
「ガンスーンチームのAランク評価は……貴方のヒーリング能力を見込んでのモノだったのに……」
「これではBランクへの格下げも現実味を帯びてきました」
私はそれだけでなく、ギルドバッジも受付に返還することにします。
「……え?」
「私がここに来たのは、エッケハルトさんのように頑張っている冒険者がいたからです。残念ながら今の当ギルドに、そのようなひたむきな冒険者はいらっしゃいません」
その言葉を聞いたギルド員たちは、さすがにざわつきました。
実はうちのギルドにアビリティ【ヒーリング】を使えるのは私ひとりなのですが、ガンスーン隊長がいるのなら代わりはいくらでも見つけてこれるので問題はないでしょう。
「では、皆さまの武運をお祈りしています」
【シスター、ソフィア】
【この世界のヒーラーの希少性】
エッケハルトチームには、ミホノシュヴァルツ号。
ガンスーンチームにも、今までにはソフィアがヒーラーとして在籍していたが、彼らはかなりのレア能力者である。
Sランクチームなら、ほぼ9割が所属しているヒーラーだが、Aランクチームなら6割強、Bランクなら1割まで落ちる。
基本的に冒険者ギルドに登録されている冒険者チームは、Aランクチームが3パーセント。Bランクチームが20パーセント。Cランクチームが50パーセント、Dランクが残りの大半となっているので、ほとんどがヒーラーなしで仕事をしていることになる。
200人以上の大規模ギルドなら、専属ヒーラーを置いていることもあるが、基本的に医務室までケガ人を連れて行くことになるし、それすらもないギルドなら教会まで行ってお布施を払うことになる。
ちなみに、ユニコーンはヒーリングだけでなく、荷運び、負傷者輸送、索敵、格闘、魔法戦もこなすことができるが、保有率はSランクチームで15パーセント。Aランクチームで3~5パーセント。Bチームで1パーセントとなる。
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