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13.人魚の長イブリンと交渉開始!
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海賊船から降りると、人魚の中でも特に霊力を強く放つ者が出迎えてくれた。
身体は引き締まっていたし、鍛えている強者である鋭い霊力が体を覆っているので、彼女が何らかの武術の達人であることは容易に想像できる。
僕はなるべく霊力を穏やかにするようにしてから、その女性に話しかけた。
「冒険者のエッケハルトです」
『同じくミホノシュヴァルツだ』
「自警団の団長をしております……イブリンと申します。今日は遠路はるばる来ていただいて感謝いたします」
彼女はそういうと、爽やかに笑った。
「取引にいらっしゃったのでしたね。ビールをいかほど頂けるのでしょう?」
交渉に入ると、人魚のイブリンは、対価として様々なモノを提示してくれた。
たとえば、魚介類・鶏肉の干物や燻製、麻に似た植物で編んだ服、森の宝石と言われる琥珀、そして……僕が何よりも欲しいと思ったのは真珠だった。
どうやらイブリンたちは、真珠を養殖する技術を持っているようで、開いた箱の中には美しい光を放つ真珠が次々と姿を現している。
シュヴァルツ号も真珠を見ると唸っており、僕はすかさず彼と小さな声でささやき合った。
「場所も取らないし、美しいし、腐らないし……メインで取引するには、やはりこれだろう」
『そうだな。ただ、船旅のことを考えると、魚介類の干物や燻製……後は吾の食料も補充しておきたい』
少し思い出してみると、船にはウイスキーも大量にストックされていることを思い出した。
「じゃあ、真珠とウイスキーというお酒と交換しないか?」
「ういすきー? どういうお酒でしょう?」
「構造はビールに似ているんだけど、醸造してあるから水で薄めないと飲めないほど濃いお酒なんだ」
実際に見てもらうために、僕は断りを入れてから船に戻り、船内からウイスキー樽を1つ持って戻った。
船内にある酒樽は、1つあたり30キログラム程度の重さなので、僕一人でも持ってくることができる。
人魚たちに蒸留酒を見てもらうと、とても感心していた。
「これは……凄いですね! これだけ濃いのなら、傷の治療の際にも使えそう!」
「こんなに強いお酒……どうやったら作れるの?」
「僕も……そこまではわかりません」
相手はどうやら初めて見たお酒に興奮しているようだ。
ただ、ここでボッタクリをかけるのでは、何かあったときに相手の心証も悪くなるだろうから、真珠の値段を思い出しながら交渉することにした。
「ウイスキー3リットルと、真珠1粒を交換ということでどうでしょう?」
そう伝えると、対応していたイブリンは目を瞑っていた。恐らく何かしらの思案をしているのだろう。
「良心的な条件を提示して下さったのですね。わかりました……その取引に応じます」
その言葉を聞いてドキッとした。
もしかして、彼女には……人の心を読む類のアビリティがあるのではないだろうか。はっきりと僕の考えが読めるかどうかはわからないが、その取引が得か損かは判定できるのではないかと思える。
『では、ビールと他の品物も取引したい』
「わかりました……では……」
こうして僕たちは、積んであったビールの6割ほどと、ウイスキー7割ほどを差し出し、代わりに真珠や琥珀、更には木材に、リンゴやブドウの果実酒、魚の燻製や干物、飼い葉や衣服などを手に入れた。
すっかり取引も終わって、酒樽を船から出して人魚たちに手渡していると、人魚の1人が泳いできた。
「団長……大変です!」
「どうしたの?」
その人魚は水面から出てくると、ヘビのように下半身を滑らせながら団長イブリンの側に近づいた。どうやら彼は男性らしい。
「北の連中が……攻めてきています!」
「……敵の数は?」
「おおよそ100。赤ひげ団の海賊も混じっています」
赤ひげと聞き、思わず危機感を覚えた。
大海原には様々な海賊たちがいるが、その中でも赤ひげ海賊団は、3大悪党のひとつと言われているほどだ。
報告を受けると、イブリンは険しい顔をしていた。
「すまんがエッケハルト殿、助力してもらえないだろうか?」
正直言って、赤ひげ海賊団は悪名高い連中だから関わりたくはないが、ここの人魚たちは温和な性格というだけでも貴重な存在だ。
「わかりました。ただ……船の守りもあるので助太刀できるのは3人です。それでもいいですか?」
「もちろん構いませんし、お礼もします」
そうなると、行くのは承諾した僕自身。
あとは2人だが……船大工のニッパー、戦闘力のないリーゼ、ユニコーンホーンで治療も出来るうえに戦況を逐一本部に報告できるシュヴァルツ号もここにいるべきだ。
誰がいいか……と思っていると、ニンフのオフィーリアと目が合った。
彼女は船内でも重要な役割を果たす人物だが、この島の特に東側は森に覆われているのでニンフを連れて行くのは作戦として大ありだ。
「では、行くのは……僕、オフィーリア、ヤーシッチの3人としよう」
そこまで言うと、僕はシュヴァルツ号を見た。
「シュヴァルツ号とマーチルは、ここで待機して伏兵がいたら迎撃して欲しい」
『わかった』
僕の話が聞こえていたのか、オフィーリアとヤーシッチはすぐに降りてきてくれた。それだけでなくマーチルも、シュヴァルツ号の隣に立つ。
「留守番は任せて!」
敵の数は100人。一方、迎え撃つ東の人魚たちの数は僕たちを含めても45人。
この人数的な不利をどうやって補うべきだろう。難しい戦いがはじまろうとしていた。
【人魚の長 イブリン】
身体は引き締まっていたし、鍛えている強者である鋭い霊力が体を覆っているので、彼女が何らかの武術の達人であることは容易に想像できる。
僕はなるべく霊力を穏やかにするようにしてから、その女性に話しかけた。
「冒険者のエッケハルトです」
『同じくミホノシュヴァルツだ』
「自警団の団長をしております……イブリンと申します。今日は遠路はるばる来ていただいて感謝いたします」
彼女はそういうと、爽やかに笑った。
「取引にいらっしゃったのでしたね。ビールをいかほど頂けるのでしょう?」
交渉に入ると、人魚のイブリンは、対価として様々なモノを提示してくれた。
たとえば、魚介類・鶏肉の干物や燻製、麻に似た植物で編んだ服、森の宝石と言われる琥珀、そして……僕が何よりも欲しいと思ったのは真珠だった。
どうやらイブリンたちは、真珠を養殖する技術を持っているようで、開いた箱の中には美しい光を放つ真珠が次々と姿を現している。
シュヴァルツ号も真珠を見ると唸っており、僕はすかさず彼と小さな声でささやき合った。
「場所も取らないし、美しいし、腐らないし……メインで取引するには、やはりこれだろう」
『そうだな。ただ、船旅のことを考えると、魚介類の干物や燻製……後は吾の食料も補充しておきたい』
少し思い出してみると、船にはウイスキーも大量にストックされていることを思い出した。
「じゃあ、真珠とウイスキーというお酒と交換しないか?」
「ういすきー? どういうお酒でしょう?」
「構造はビールに似ているんだけど、醸造してあるから水で薄めないと飲めないほど濃いお酒なんだ」
実際に見てもらうために、僕は断りを入れてから船に戻り、船内からウイスキー樽を1つ持って戻った。
船内にある酒樽は、1つあたり30キログラム程度の重さなので、僕一人でも持ってくることができる。
人魚たちに蒸留酒を見てもらうと、とても感心していた。
「これは……凄いですね! これだけ濃いのなら、傷の治療の際にも使えそう!」
「こんなに強いお酒……どうやったら作れるの?」
「僕も……そこまではわかりません」
相手はどうやら初めて見たお酒に興奮しているようだ。
ただ、ここでボッタクリをかけるのでは、何かあったときに相手の心証も悪くなるだろうから、真珠の値段を思い出しながら交渉することにした。
「ウイスキー3リットルと、真珠1粒を交換ということでどうでしょう?」
そう伝えると、対応していたイブリンは目を瞑っていた。恐らく何かしらの思案をしているのだろう。
「良心的な条件を提示して下さったのですね。わかりました……その取引に応じます」
その言葉を聞いてドキッとした。
もしかして、彼女には……人の心を読む類のアビリティがあるのではないだろうか。はっきりと僕の考えが読めるかどうかはわからないが、その取引が得か損かは判定できるのではないかと思える。
『では、ビールと他の品物も取引したい』
「わかりました……では……」
こうして僕たちは、積んであったビールの6割ほどと、ウイスキー7割ほどを差し出し、代わりに真珠や琥珀、更には木材に、リンゴやブドウの果実酒、魚の燻製や干物、飼い葉や衣服などを手に入れた。
すっかり取引も終わって、酒樽を船から出して人魚たちに手渡していると、人魚の1人が泳いできた。
「団長……大変です!」
「どうしたの?」
その人魚は水面から出てくると、ヘビのように下半身を滑らせながら団長イブリンの側に近づいた。どうやら彼は男性らしい。
「北の連中が……攻めてきています!」
「……敵の数は?」
「おおよそ100。赤ひげ団の海賊も混じっています」
赤ひげと聞き、思わず危機感を覚えた。
大海原には様々な海賊たちがいるが、その中でも赤ひげ海賊団は、3大悪党のひとつと言われているほどだ。
報告を受けると、イブリンは険しい顔をしていた。
「すまんがエッケハルト殿、助力してもらえないだろうか?」
正直言って、赤ひげ海賊団は悪名高い連中だから関わりたくはないが、ここの人魚たちは温和な性格というだけでも貴重な存在だ。
「わかりました。ただ……船の守りもあるので助太刀できるのは3人です。それでもいいですか?」
「もちろん構いませんし、お礼もします」
そうなると、行くのは承諾した僕自身。
あとは2人だが……船大工のニッパー、戦闘力のないリーゼ、ユニコーンホーンで治療も出来るうえに戦況を逐一本部に報告できるシュヴァルツ号もここにいるべきだ。
誰がいいか……と思っていると、ニンフのオフィーリアと目が合った。
彼女は船内でも重要な役割を果たす人物だが、この島の特に東側は森に覆われているのでニンフを連れて行くのは作戦として大ありだ。
「では、行くのは……僕、オフィーリア、ヤーシッチの3人としよう」
そこまで言うと、僕はシュヴァルツ号を見た。
「シュヴァルツ号とマーチルは、ここで待機して伏兵がいたら迎撃して欲しい」
『わかった』
僕の話が聞こえていたのか、オフィーリアとヤーシッチはすぐに降りてきてくれた。それだけでなくマーチルも、シュヴァルツ号の隣に立つ。
「留守番は任せて!」
敵の数は100人。一方、迎え撃つ東の人魚たちの数は僕たちを含めても45人。
この人数的な不利をどうやって補うべきだろう。難しい戦いがはじまろうとしていた。
【人魚の長 イブリン】
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