エッケハルトのザマァ海賊団 〜金と仲間を求めてゆっくり成り上がる〜

スィグトーネ

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14.3大海賊の1つ、赤ひげ海賊団

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 島の中を歩くこと30分。
 僕は戦場となっている場所に到着すると、エッケザックスの宝玉を出した。

 宝玉の中のコンパスの針は、しっかりと赤い色で敵部隊の位置を指し示している。その盤面を詳しく見てみると、陸上の地形だけでなく赤い無数の点も映し出された。
 これは恐らく、敵の数と現在地だろう。

「……なるほど。作戦もへったくれもなく、突っ込んできている感じだね」
 そう感想を言うと、隣にいたヤーシッチも頷く。
「敵は数の上で圧倒的に有利なのだから、戦術としてはあり得るだろう。少々……慎重さは足りないような気もするがな」

 さすがはヤーシッチ。筋肉質な男だけあって、冷静でどこか計算高さも感じる。


 僕たちが駆け付けたときには戦いは始まっており、味方の人魚10人が、敵の人魚や海賊とやり合っていた。
 なぜ敵味方がはっきりとわかるかと言えば、味方の東海岸の人魚は、武器の方がともかくとして、大した防具を装備していなかったからだ。
 敵方の幼い感じのマーメイドは、得意げに笑っている。
「はーっはっはっはっはっは……やっちゃえ! 東の田舎者なんて叩き潰せぇ!」
「こいつらを捕まえたら売り飛ばしていいんだよなぁ、お嬢!」
「構わないよー、ここでは私のおねーちゃんが一番偉いんだぁ!」
「おうよ!」

 武装が劣っているうえに、数でも劣勢ならもう勝ち目は薄い。
 そう思っていたとき、オフィーリアは土に触れて土のゴーレム……つまりクレイゴーレムを作り出していた。

「いけ!」
 クレイゴーレムはゆっくりとした動きだったが、どうやら盾としては十分な機能を果たすようだ。敵の人魚や海賊が槍で攻撃しても、シミターを振って来ても効き目はあまりないようだ。

 相手がゴーレムに悪戦苦闘しているうちに、オフィーリアはクレイゴーレムの新手を更にけしかけた。
 オーフェリアは樹木の後ろ側に隠れているため、敵にとってはどこからともなく現れたような感じだったようだ。間もなく「何だこれは!?」という声や「ゴーレムだと!?」という声が聞こえてくる。


 ヤーシッチは迷わず敵の海賊に斬りかかって、敵を斬り伏せていたが、僕はオフィーリアの側に腰を下ろして宝玉で敵の配置を確認していた。
 ふむ……このまま彼女の護衛をしていた方が、ゴーレム作りに専念できるだろう。
「周囲は僕が見張っている。作業に専念して」


 そう伝えると、オフィーリアは両手を地面につけて、1度に2台のクレイゴーレムを作り出してみせた。
 敵人魚と海賊たちの動きはといえば、やっと最初の1台を倒した感じだ。そこに2台のクレイゴーレムをけしかけていき、オフィーリアは更に2台のゴーレムを作っていく。

 戦いは相変わらずこちらが劣勢とはいえ、この1分ほどのやり取りで、ゴーレムが10台くらい増えたので徐々にこう着状態に持ち込もうとしていた。
「な、なんなのこれ!? あの東のクズども……変なの出して来て!」
「これはゴーレムだ。敵方に魔法使いがいるんだ!」
「アンタたち、天下の赤ひげ海賊団でしょ……やっつけてよ!」
「今やってんだろ!」

 敵海賊も、この高飛車な感じの人魚娘の態度にイラついているようだが、冷静そうな海賊が言った。
「なあ、このゴーレムども……あそこから来てないか?」
「そう言われてみれば」

 その声が聞こえてくると、敵の数人があからさまに僕たちを目掛けて進んできた。
 僕はしっかりと宝珠で敵の位置を確認すると、先頭の海賊が近づいてきたときに持っていた剣を投げつけて1人目を倒した。
「ぐぎゃああっ!」
「な、なんだ!?」

 僕が飛び出すと共に、残った3人が武器を構えた。
 このままでは僕は丸腰だが、宝玉を剣に戻すことで【エッケザックス】をトリガー。剣に魔文字のような模様が浮かび上がったことを確認すると、すかさずに一番手前にいる敵を斬りつけた。
「ばぎょろ!」
 すると衝撃波が放射状に伸びて、奥にいた敵の海賊を巻き込んで更に1人を撃破。
「ふぐば!」
 残った1人の敵が驚いているところに、更に2台のクレイゴーレムが出現し、敵陣営も動揺をはじめた。


「な、なんだ……凄く手強い敵がいるぞ!?」
「そ、それだけじゃねえ……このゴーレム、一体どこから湧いて出てやがる!」
「ぎゃあ!」

 敵が動揺している間にも、ヤーシッチが更に1人の海賊を倒した。
 すでにこの数分のやり取りで、10人近い同胞がやられている赤ひげ海賊団の連中は、苦々しい顔をしながら叫んだ。
「撤退だ……一旦、体勢を立て直すぞ!」
「えーちょっと待ってよ。ちゃんと戦って!」
「ごちゃごちゃうるせーんだよ、足手まとい小娘!」
「な、な、なんですって!?」
「こんなの放っておいて逃げるぞ!」


 そう言うと敵は我先へと逃げ出したが、人間である海賊と人魚たちでは逃げ足に差が出る。ヤーシッチはここでアビリティをトリガーさせた。
「恐怖……増幅!」

 ヤーシッチが敵のマーメイドを睨みつけると、相手は皮膚に鳥肌をたてはじめ、やがて全身を震わせていた。
「くっ……」

 やがて敵は両手を上げた。
 さすがに多勢に無勢なので、僕が同じ立場だったとしても降伏するだろう。
「よし、長の元に連れて行くぞ」


 こうして僕たちは辛くも勝利を収めると、来た道を戻りはじめた。
 ちなみにオフィーリアが即興で作ったクレイゴーレムは、あと半日くらいは動き続けるようだ。


【戦士ヤーシッチ】


 エッケハルトの仲間。
 どうやら本人の話によると、父親はアフリレック大陸の人、母親は中東系の人らしい。

 元々は船乗りとして働いていたが、ウイスキーデビルに襲われてからは捕まり、ニッパーともども奴隷としてこき使われていたようだ。
 本当はウイスキーデビルよりも強いのだが、好機を待ってから行動に移るという慎重さを持っている。

 ちなみに年齢は35歳。好きな武器は大剣。好きな食べ物はシーフードサラダだという。
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