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23.ドワーフ3人衆と共に人魚島へ

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 失業した職人ドワーフに声をかけてみたら、3人のドワーフが仲間になった。
 ドライバ、ペンチ、ドリールの3人は、心地よさそうに大海原を見ている。
「人魚の島か……ぜひ、リーダーの顔を拝みたいもんだ!」
「金色の鱗を持つマーメイドだろ。さぞ美しいだろうなぁ」
「いくら妻子がいないからって、わざわざ海にまで繰り出すんだから、俺たちもスケベだよな」
「好奇心と言えよ、人聞きの悪い……」

 彼らは元々エメストギルドに所属していた職人たちだが、かなり待遇が悪かったと見え、すんなりと誘いに応じてくれた。
 やはり、商会やギルドのイメージも付いて回るホースレースの場で不正をするようなリーダーなのだから、普段から横柄な態度を取っていたのだろう。


 僕たちは4日かけて人魚の島へとやってくると、イブリンのいる東海岸へと到着した。
「お久しぶりですイブリンさん」

 再会を果たすと、僕たちはすぐに彼女たちにチェインメイルを見せた。
 その鎖状の鎧を見て、イブリンたちはすぐに表情を変えている。やはり普段から死と隣り合わせの戦いをしているため、この鎧がどれだけ役立つかすぐに理解したようだ。
「これ……敵が鎧の下に着こんでいる鎧ですよね!」
「ええ、これ単体でもそれなりの防御力はありますし、鎧などを着こむ際にも必要になります」

「微調整は、俺たちが引き受けるぜ!」
「職人まで連れてきてくれたのですか!?」
「ええ、防具だけ渡しても、調整したり破損した時に対処できませんからね」


 そんな話をしていると、部下の人魚がやってきた。
「イブリン団長!」
「おお、どうだった?」
「無事に、捕虜交換も終わりました。それからこれも……」

 部下の人魚が差し出したのは、何とサンゴだった。
 この東側ではあまり取れないようだが、この島でも南側では取れるというのだから驚いてしまう。恐らく、敵対勢力は、南側の人魚たちと交渉してこれらのサンゴを入手したのだろう。
「約束通りサンゴも持って来たのですね」
「ええ、やはり敵リーダーの妹を捕虜にできたのは大きいですね」

 イブリンはサンゴが大量に入った袋を、そのまま僕に手渡してくれた。
「チェインメイルをありがとうございます。これを旅の足しにしてください」
「あ、ありがとうございます!」

 ずっしりと重いサンゴの山を見ると、ヤーシッチやニッパーはゴクリと喉を動かした。
「この宝物……北国のポーライナ地域に持って行くと、高値で買い取ってくれるんじゃないか?」
「ワシもそう思う。あそこは……ウォッカという美味い酒があってだな!」

 その話を聞いていたドワーフ3人衆はよだれを垂らしながら、酒についてニッパーと話していたが、僕は苦笑いしながらイブリンを見た。
「これもありがたく使わせて頂きます」
「他にも取引可能なモノがあれば、仰ってください」


 僕らはウイスキーやビールを出すと、彼女たちも真珠を出してくれた。
 今回は、それほど多くは仕入れられなかったが、ウイスキーは場所を取らない割にたくさんの真珠と交換できるので、なかなかに旨味がある。
「今日は1晩、ここでゆっくりと休ませて頂いて……それから出発しようと思います」
「わかりました。ごゆっくりお過ごしください」

 滞在のあいだ、ミホノシュヴァルツ号は渡り鳥を使って周囲の情勢を監視していたが、特に敵が襲ってくることもなく翌朝を迎えることができた。
「では、行ってきます。ドワーフ3人衆も彼女たちの武具のメンテをお願いします」
「わかってる、しっかりやっとくぜ!」

 ドワーフたちは昨日の夜のあいだに、マーメイドの恋人を作っており、すっかりと島の住人となっていた。この手の速さは……羨ましくもあり真似をしてはいけない気もする。
『では、もうひと稼ぎしてくる!』
「いってらっしゃい」

 イブリンたちにこう言ってもらえるのだから、すっかり人魚の東海岸は僕たちの母港だ。
 僕らは、難所の浅瀬を抜けると、そのまま東に向けて進んでいく。今のシーズンは風も出ていないので、北国へ向かうなら、ゴーレムオール漕ぎの力を借りなければならない。

 エリンは海流を見ながら言った。
「海の流れが……ない……というのが……不便ですね」
「ああ、だけど考えようによっては、ライバルの商船や海賊もいないってことだよ」

 その言葉を聞いて、オフィーリアは微笑んだ。
「ビジネスチャンスですね。予備のゴーレムも何台か用意していますから、多少のトラブルがあっても対応できます」

 目的地は、ポーライナ地域で最も活気のある港町ダダダンスクだ。
 この港町は、北国の玄関口と言われる場所で、ここよりも北部にある港町は雪で閉ざされてしまうことも多いそうだ。
「つまり、南方の豊かな海でしか取れないサンゴは、お値打ちモノになるって訳だ!」

 ニッパーはそういうとニヤッと笑った。
 さては、ウォッカという酒を仕入れようとしているな。まあ……人魚たちが喜ぶだろうし、その選択はアリだけどね。

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