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ガンスーン、海賊デビューへの1歩目

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 俺の名はコーモノ。
 ちょっと前まで、Bランク冒険者チームの軽戦士をしていたモンだ。

 その時のリーダーがパーティーの稼ぎを独り占めしているから、ちょいと拝借しようとしたら、それがバレちまってな。今ではこうやって追いはぎをしながら細々と生活しているというワケだ。

 さて、今日も誰かの身ぐるみを這いでやろうと思っていたら、見覚えのあるやつが歩いてるじゃねえか。
「ガンスーン! お前……こんなところで何してるんだ?」
「おお、筋肉バカのコーモノじゃねえか!」
「ご挨拶だな!」

 ガンスーンは今でこそAランク冒険者パーティーのリーダーだが、少し前までは俺の飲み友達だったんだ。コイツは確か、ハーレムパーティーを率いていたはずだけどな。
「おい、取り巻き連中はどうした?」
「あ? あいつらか、使えない連中だから全員クビにした」

 強がっているが、コイツが追い出されたのは明白だ。
 まあ、そういう協調性のないところも俺と気が合うんだけどな。
「なるほど。じゃあアレか。新パーティーを作るための人集めと言ったところか?」
「まあそんなところだが、少しだけ違うな」
「違うって、じゃあ何してんだ?」
「俺は冒険者なんてチンケな仕事はやめて、海賊になることにしたんだ」


 昔はナンバーワンの冒険者になるってほざいてたが、コイツは飽きるのも速いんだよな。
 まあ、海賊の方が確かに……コイツには似合っているかもしれん。
「ほう……じゃあ、アレか。赤ひげとか堕天使みたいな大海賊を目指すってやつか?」

 そう聞くと、ガンスーンは不敵に笑ってやがった。
「その通りだ。で、いま……クルーを集めてるんだが、お前も一枚かまねえか?」

 俺様も海賊か。悪い話じゃねえと思った。
 なにせ最近は追いはぎをし過ぎて冒険者がうろつくようになったんだ。今はまだ身を隠してごまかしているけど、ベテランのCランクパーティーか、Bランク辺りに来られたらヤバそうだ。
「ほほう……じゃあ、何人か手下がいるからそいつらも連れて来よう。元船乗りのヤツもいるからな」

 元船乗りという言葉を聞いて、ガンスーンは表情を変えた。
 さすがのガンスーンから見ても海というモノは別世界だ。そういう畑違いの仕事をするとなれば、経験のあるやつを斡旋できる人間は重用される。
 ガンスーンは笑いながら言った。
「テメエを誘った甲斐があったぜ。ちょっと案内しろよ」
「こっちだ」


 俺はガンスーンを隠れ家へと案内した。
 ちなみに手下は4人。弱い者虐めしかしないクズに、チビのコソ泥に、女襲い専門のバカに、船長をぶっ飛ばした暴力船乗り。俺が言うのも何だが、どいつもこいつもさっさとくたばった方がいいゴミばかりだ。
 さすがのガンスーンも苦笑いしていた。
「なんつーか……すげー奴らだな」
「だろ?」
 俺は小声でささやいた。
「こんな連中だから、死んだところで良心は痛まねえ」
「……お前がそれを言うか?」


 洒落を言い合ったところで、俺はこいつらに言った。
「お前ら、よく聞け!」
 そう言うと、こいつらはだるそうにこちらを見てくる。
「はぁ? なんスかボス?」
「このまま、このチンケな隠れ家に居てもじり貧だ。だから俺たちはこれから海賊になることにする!」

 海賊という言葉を聞いた手下どもは、一斉に表情を変えた。
「マジすか?」
「なんかよくわかんねーけど、おもしろそう!」
「海にも女っていますかね?」
「乗客はいるかもしれねーが、それよりも人魚の方に興味があるねぇ」

 人魚と言うパワーワードを出すと、スケベを中心に手下どもは大喜びした。
 海沿いの酒場とかに行くと、美しい女の姿をしたマーメイドの絵とかが飾られているからな。俺様もああいうのが人魚なら、一度はお目にかかってみたいもんだ。


「おお、いいじゃんいいじゃん……とっ捕まえて嫁にしてえ!」
「いや、金になるモンは売っちまえよ。世の中金だ!」
「旨いモンも食いたいよな。世界を股にかける海賊だろ~」

 そこまで様子を見ていたガンスーンは言った。
「海賊になりたいんなら、俺様に続け。俺は元Aランク冒険者パーティーの頭だ。ガンスーンの名前くらいは聞いたことがあるだろ?」

 その言葉を聞いて、手下たちは驚いていた。
「が、ガンスーンって……あの荒くれガンスーン!?」
「そうだ! 俺様について来れば、金でも女でも好きなだけくれてやる!」

 その思い切りのいい言葉に、手下たちは歓声を上げていた。なんて豪快な言葉だろうと思う。
 俺のようなコモノじゃ、未来のこととか考えちまって、こんな約束なんてできないからな。

 ガンスーンがオオモノなのか、オオバカなのかわかるのはここからだろう。
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