エッケハルトのザマァ海賊団 〜金と仲間を求めてゆっくり成り上がる〜

スィグトーネ

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35.有翼人の洗脳を解く

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 間もなく、エディンペガを巡る攻防戦も終わったようだ。
 王国守備隊は見事に攻め寄せてくる堕天使海賊団を撃退し、堕天使の船の中には炎を上げながら逃げていくモノまであった。

 そして、エディンペガ海軍もまた僕たちの戦いぶりを見ていたらしく、帽子を振って声援を送ってくれた。
 僕たちもまた手を振りながら応える。幸いにもエッケハルト海賊船が受けた被害はないため、僕たちはすぐに海に落ちていた有翼人たちを引き上げた。

 僕たちが救出に成功したのは5人だった。更に2人、片方がマーチル、もう片方はミホノシュヴァルツ号が捕縛しているので7人が船の中にいることになる。

 ミホノシュヴァルツ号は言う。
『やけに好戦的だと思ったが、やはり洗脳されているようだな』
「治せる?」
『努力はしてみる』


 彼は角を光らせると、彼自身がまず捕まえた有翼人の前に立った。
 その有翼人はとても怯えていたが、彼と目が合うと徐々に眠たそうに目を細めていき、シュヴァルツ号が甲板を前脚で叩くと、ハッとした様子で目を開いていた。
「はっ……僕はいったい……?」
『やっと気が付いたようだな。君はカルト教団に捕まって、洗脳されていたのだ』
「そ、そうだったんですか……」

 ミホノシュヴァルツ号は、有翼人の前で角を光らせてから霊力を放出すると、次々とその洗脳を解いていく。
 正気に戻った彼らの縄を解いてから職業などを聞いてみると、飛脚、商人、主婦、学生、軍人、冒険者など様々な職についていた人たちだとわかる。

 その様子を見ていたマーメイドエリンは、普段からは想像もできないような険しい顔で言った。
「……酷い話です……彼らはみんな……平和に……暮らしていただけ!」
「全くだね。自分たちの勝手な都合のために、関係ない人をさらって危険なことをさせるなんて……許せない!」

 マーチルもこめかみに青筋を走らせながら牙を見せていたが、対照的に不安そうだったのがオフィーリアやリーゼだ。
「確か、最初は10人いたんですよね……他にまだ、海の上にいる人は?」

 僕はエッケザックスの宝玉を手に取ると、周囲の様子をもう一度だけ確認した。だけど、残念ながらこれ以上の取りこぼしはないようである。
「……残念ながら、この近くに生きている人はいないよ。別の場所に流れ着いていればいいけど……」
「困った話だ。手加減しろってのも無理な相談だしな」

 ニッパーが困り顔のまま頭を掻くと、隣にいたベンジャミンも難しい顔をした。確かに船や仲間の安全が最優先なのだから、こうなってしまうのも仕方ない。


 僕は正気を取り戻した有翼人たちに言った。
「この船は海賊船です。貧しい人や平和に暮らしている人を脅かすようなマネはしませんが、それでも今回のような戦いはあります」
 有翼人たちが頷いてくれたので、僕は続きを言う。
「ですから、船から降りたい人がいたら遠慮なく仰ってください。この後、この船はツノテン王国を南下し、ツーノッパ王国の西側へと進路を取る予定です」

 そう伝えると、有翼人たちの中でも特に体格の立派な男性が言った。
「その様子なら、ゆっくりと考える時間がありそうだな。俺の家はツーノッパの西部にある」
 彼の言葉を聞いたら、他の有翼人たちも頷いて答えた。
「僕もそうですね。しばらく厄介になります」

 どうやら彼らのうち5人は、ツーノッパ各地に住む有翼人だったようだ。
 ただ1人ツノテン王国出身の有翼人だけは、少ししたら去っていったが、他の6人はそのままこの船に残って、乗組員と喋ったり、一角獣ミホノシュヴァルツ号を眺めてたりしている。
「有翼人のみなさん、部屋を1つ用意したから来てください」


 有翼人では、背中の翼が邪魔になってハンモックでは寝られないため、寝台のある部屋を用意しておいた。
 前もって掃除しておいた部屋を軽く仕上げ、寝台に綿のカーペットを敷いただけだが、彼らは気に入ってくれたので良かったと思う。

 さて、だいぶ人数が増えたので、次に問題になって来るのが食料と水である。
 水に関してはエリンの霊力が上がってきているので、頻繁に水の補充を行えば問題はないが、さすがにリーゼ1人で食事当番をするには数が多すぎる。
 そう思っていたとき、有翼人の女性がリーゼの隣で調理をしていた。
「ありがとうございます。私1人では、この人数の食事を用意するのは大変でした」
「何もしないで食っちゃ寝していたら、ニワトリになっちまうからね……こっちのお皿、片付けておくよ」

 何というか、主婦という感じの有翼人女性が隣にいると、リーゼがヒヨコみたいに見えてくるからおもしろい。しばらく厨房は彼女たちに任せるとしよう。



 
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