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38.ポルガーで石炭を売ってみると……

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 僕たちは大金貨1枚を支払って停泊すると、すぐに港町にある商会を尋ねることにした。
 そこに行くまでも様々な屋台が立ち並び、ツーノッパではお馴染みのB級グルメがずらりと並んでいる。

 後でゆっくりと見て回りたいと思いながら、僕はまず商談を済ませることにした。
 商会に入って石炭を売りたいという話をすると、担当者がやってきてスピーディに商談がスタートする。


 僕は実際にモノを見てもらおうと、サンプル用に持ってきた石炭を提示すると、担当者も納得した様子で、取引に応じてくれた。
「わかりました。早速……鑑定を進めさせて頂きます」

「なんか、いつになくスピーディだな……」
 ニッパーも同じことを感じていたらしく、僕も真顔で頷いた。

 担当者はものの数分で戻ってきた。
 どうやら、彼としても満足の製品だったらしく、どこか上機嫌な様子で話を切り出してきた。
「査定が終わりました。このくらいで……如何でしょうか?」

 彼がソロバンで提示した額は、仕入れ値の2.5倍ほどの値段だった。
 後で知った話だが、エディンペガの石炭は貴族のあいだで、暖房用のシロモノとして重宝されているらしい。
「わかりました。これから現物を運んできます」
「それはありがたい……では、契約書にサインを……」


 僕は契約書に間違いがないかを確認すると、サインを書いてから、品物を取りに船へと戻った。
 よし、ミホノシュヴァルツ号。お前の出番だ!

 他にもヤーシッチやマーチル、有翼人3人くらいにも荷運びを手伝ってもらい、僕たちはエディンペガで仕入れた石炭を約束通り商会に届けた。
「確かに……それではこちらが領収書になります」
「ありがとうございます」

 こうして、僕たち海賊団の懐には大金貨48枚と、小金貨15枚。大銀貨53枚が手に入った。
 なぜ、小銭が混ざっているのかと言えば、重量が中途半端できれい大金貨だけの支払いとはいかなかったからだ。まあ、これはこれで使い道があるからちょうどいい。

 大金貨の入った袋を出すと、この担当者はにっこりと笑った。
「さて、エッケハルトさん……実は先日、南の大陸から船が戻りまして……香辛料をはじめとして、様々な異国のシロモノを持ち帰りました」

 僕はその品のリストを眺めてみた。
 コショウ、ナツメグ、ウコン、クローブ、トウガラシ……どれも貴族たちが好むような高級品ばかりだ。それ以外にも砂金や銀、他にもシルク……つまり絹糸などもある。

 これほど、多くの品が海を越えて届けられているのだから凄い。
 しばらくは感心してみていたのだが、ふとある心配事が脳裏をよぎっていた。僕自身も無意識のうちに自分の顔をしかめていたらしく、担当者も不安そうな表情をしていた。
「あの……なにか気になることが……?」
「いえ、皆さん……いろいろな場所に行っていらっしゃるということは、気を付けているとは思うのですが、病気などを持ち帰ることもあるだろうなと思いまして……」

 その言葉を聞いた担当者も、納得した様子で頷いている。
「仰る通りですね。商会によっては病気も持ち帰ってくることもございます。ですが……我が商会には、嗅覚の鋭いウェアウルフのスタッフを多数そろえていますので、病気なども未然に発見することができます!」


 なるほど。それなら安心だけど……僕のチームには、ウェアウルフはまだいないのだった。
 そうなると頼りになるのは一角獣だけど、この商会では取り扱っているのだろうか。
「それは安心ですね。でも、僕の船にはいないので……ユニコーンがいれば安心なのですが……」
「ユニコーンですか。ウマを取り扱ってはいますが……さすがにユニコーンはいませんね」

 それはそうだ。そう簡単にユニコーンがいれば何の苦労もないと思っていると、ミホノシュヴァルツ号の声が脳内に届いた。
【ウマの中に一角獣が紛れていることもある。念のため吾も同席させて調べて欲しい】

 僕は心の中でわかったと答えると、担当者に言う。
「ウマでも構わないんでちょっと見せて頂けませんか。実は最近……うちの荷馬が寂しがることが多くて……」
「な、なるほど……確かにウマも仲間がいないのでは不安に思うでしょうね」


 間もなく僕は、表で待機していたミホノシュヴァルツ号を連れて、商会の管理している納屋へと向かった。
 納屋の中はきちんと掃除が行き届いており、納屋の中にいるウマたちもストレスなくくつろいでいるようだ。担当者は、納屋の入り口を開きながら言う。
「国内で繁殖させたウマが中心ですが、中には海外で買い取った個体もいます」

 僕は返事をしながらも、横目でミホノシュヴァルツ号を見た。
 あいにく相馬眼は持ち合わせていないので、ここは本当に彼の手腕次第と言ったところだ。

 果たして……シュヴァルツ号のお眼鏡に叶う個体はいるのだろうか。

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