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37.ポルトイン地域を目指して

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 僕がポルトイン地域を目指しているわけだが、これには思惑がある。
 大陸の西側……特に南東部に行ったことがないから好奇心を満たしたいと思っているが、それ以上に赤ひげ海賊団が出払っているというのも大きい。
 実は3大海賊たちにも縄張りのようなモノがあり、それぞれが得意とする海域があるのだ。


 例えば機動力と闘争心を恐れられるヴァイキングたちが暗躍するのは、ツノテン王国の東側と、スカンツノビア半島の周辺、そしてポーライナの玄関港の辺りだ。

 次に、神に仕えて死ねば天国に行けると信じる堕天使海賊団は、ツーノッパ王国の北側の海域を中心とした範囲や、ツノテン王国の周辺海域に出没しやすい。
 ちなみにヴァイキングとは支配領域が重なりやすいため、この2勢力はよくやりあっている。


 最後の1つである赤ひげ海賊団は、ツーノッパ王国の西側の海、ちょうどこれから僕たちが向かう海域を縄張りとしているわけだが、こいつらは今……人魚島の人魚たちとの戦いに手を焼いている。

 まあ、赤ひげ海賊団が躍起になる理由もわかる。人魚島はこいつらから見れば北の要衝だ。ここの同盟勢力を失うということは、文字通りツーノッパ地域での影響力がなくなることを意味する。


 まあそういうワケで、僕は人魚島を出てからは西へ西へと航路を進めていく。
 陸地が近い場所だと海流も複雑化するので、僕はエッケザックスの宝玉を盾状に変形したまま、ずっと様子を監視しながら指示を送っていく。
 慣れない船乗りなら面を食らうところだろうが、詳しい情報さえあれば、移動に便利な海流を手繰り寄せるように進んでいくこともできる。


 出発から3日ほどで、遂にツノテン王国の南側海域を抜けた。
 ここから先には開けた海が広がっている。船の動きも安定すると、渡り鳥たちもちょうどいい休憩場所を見つけたと言わんばかりに船のヘリなどに止まって羽を休めている。
『これと言って、危ない船もいないようだ』

 ミホノシュヴァルツ号の言葉を聞いて安心した。
 どうやら海賊たちは、めぼしい船にまず目を付け、難破船などを装い助けを求めながら騙し討ちしてくるという。

 そういうのはエッケザックスの宝玉を見れば、なんとなくはわかるが、渡り鳥たちの情報があった方が確実だ。


 僕たちはその後も航路を進み続け、翌日になると渡り鳥たちが情報を持ってきてくれた。
『……なるほど』
「どうした?」
『渡り鳥たちの話だと、この先に停泊している船は海賊船らしい。ノロノロと航行していても相手にするなよ』
「わかった」

 わざわざ迂回するのも時間がかかるので、肉眼で確認できる位置を通りかかると、難破船に扮した海賊船は助けを求める様子で手を振ってきた。
 こちらは向こうの魂胆がわかっている。もちろんバカどもは無視だ。そのまま通り過ぎて行こうとすると、急に速度を上げて後ろから追いかけてくる。
「やっぱり、海賊船だったね」

 マーチルも望遠鏡を片手に呟くと、隣にいたオフィーリアはゴーレムたちに船の加速を指示。
 相手の海賊船も、オールを奴隷たちに漕がせながら追ってきたが、僕たちが扱っているのはゴーレムだ。元から距離も空いていただけあり、グングンと突き放すと遂に海賊たちも諦めたようだ。
「引き際が適格だ……あれはプロだな」
 ニッパーが言うと、ヤーシッチも頷いていた。
「ああ、恐らく人殺しを何とも思わない海賊が何人もいるだろう。関わり合いになりたくないものだ」


 僕も彼らの話に加わっていたら、有翼人たちが小声で何かをささやき合っていた。
 さすがに海賊を目の当りにしたから、彼らも身の危険を感じたのだろうか。もし次の港で降りたいと言ったら、快く送り出してあげたいと思う。

 船はその後も順調に進んでいくと、今度は同じような船を見つけた。
 ちなみにこの船には救いの手を差し伸べることにした。渡り鳥たちの話では、本当に食料も腐ってしまい飲み水もなくなって困っているようだ。

 僕らはエリンの作った水のストックのうち8樽、更に人魚島で仕入れている魚の干物、他にもチーズなどを売ると、対価として小金貨4枚ほど受け取った。


 そして、更に2日後……遂に港町ポルガーが見えてきた。
 さすがに、ツーノッパの西の玄関港と言われるだけのことはあり、多くの船が停泊している。
 そして、港町の栄え方はまるで首都のように感じるほどだ。
「これは、想像以上の凄さだ……」
『ああ……』

 さすがのミホノシュヴァルツ号も、この時ばかりはポカンとした様子で港町を眺めていた。

 さて、この街ではどんな商品を扱っているのだろう?


【楽しげに街を見ながら話すオフィーリア】
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