エッケハルトのザマァ海賊団 〜金と仲間を求めてゆっくり成り上がる〜

スィグトーネ

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40.人魚島の海域に向かうと

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 港町ポルガーを出て6日後。
 僕たちは人魚島の海域まで戻って来ていた。

 肉眼でこそ、まだ船を見ることは出来ないけれど、僕の宝玉や渡り鳥の話では、かなりの数の海賊船が人魚島の近くまで来ているようだ。
 その情報を元に、僕たちは作戦を練ることにした。

『海賊船の数はおおよそ50。1隻あたりに完全武装の海賊がおおよそ30~40名ほど乗っていると、渡り鳥たちは言っていた』
 ミホノシュヴァルツ号の話によると、渡り鳥たちは海賊船のヘリにまで止まって、人間の臭いを嗅ぎ分けるということまでやってくれたらしい。
 海賊連中も、まさか渡り鳥がスパイとは思わなかったらしく、まんまと情報を抜かれたというワケである。


 しかし、その圧倒的な数を聞いた仲間たちも、さすがに表情を強張らせていた。
 まず発言したのはヤーシッチだ。
「当然のことながら、船を守る連中はいるだろうが、半分と見ても750人から1000人の海賊か……さすがに、マーフォーク族でも厳しいのではないか?」
 ニッパーも深刻な顔をしている。
「まだ、人魚たちが一枚岩なら……何とかなるかもしれんが、状況はどうなのだ?」
『とりあえず、排他的な種族も海賊連中の蛮行は許さないと表明しているようだが、全ての人魚族が一丸と……とはいかんようだ』

「あの……あの!」
 手を上げているのはエリンだ。視線を向けると、彼女は緊張した様子で言う。
「お姉さまとお会いすることは……いかがでしょう?」
 賢明な判断だと思う。
「そうだね。まずはイブリンさんと合流するために、東海岸に向かおう」

 迂回しながら船を進めていくと、なんだか皮肉なモノだと思えてきた。
 今まで人魚島の東海岸は、人魚島では最も上陸しずらい危険ポイントだったはずだが、こうやって海賊たちに包囲されている状況だと、逆に唯一包囲されていない安全な場所になっている。


 夕やみに紛れながら、東海岸へと上陸するとイブリンたちも戦争準備を進めていた。この様子だと、彼女たちも海賊と一戦を交えるつもりに見える。
「まあ、皆さん! この火急の折にいかがなさいましたか?」
「イブリンさんたちの意志を確かめようと思いまして」

 僕が言うと、隣にいたオフィーリアも言った。
「避難を望む人がいるのなら、遠慮なく仰ってください。その手配をするために私たちは来ました」

 そう伝えると、イブリンは申し訳なさそうに頷く。
「何から何まで……貴方がたにはお世話になりっ放しですね……」
 彼女は人魚の中で、幼い者や子育てをしているマーメイドを見た。
「彼女たちを、スカーレットのいる島まで連れて行って頂けませんか? もちろんお礼もします」
「引き受けましょう。移住を希望される方は、すぐに船に乗ってください」


 指示通りに人魚たちが乗り込むと、イブリンは食料品や資材なども無償で提供してくれた。
 確かにこれだけあれば、向こうでも資材不足で悩むこともないだろう。更にドワーフ3人衆の2人も船に乗り込んだ。
「じゃあ、向こうでも建設……しっかりとやってくるぜ!」

 僕たちが手を振ると、人魚島に残る人魚たちも手を振り返してくれた。そこにいる人魚たちは、武術の心得のある戦士ばかりだ。
 彼女たちは、本気で海賊たちと相まみえるつもりなのだろう。


 僕たちは問題なく人魚島を出ると、そのままエッケハルト島へと向かった。
 その島が見えはじめたとき、渡り鳥がやってきてミホノシュヴァルツ号に新たな情報をもたらした。
『……どうやら、海賊たちが上陸作戦を開始したようだ』

 その言葉を聞いて、クルーは表情を強張らせた。
 相手は完全武装した海賊たちである。いくら人魚たちが共闘したとしても1000人近い奴らを相手にどこまでやれるのだろう。
 思わすアゴに手を当てていると、マーチルは心配そうに僕を見てきた。

「ねえ……どうする?」
「…………」
「私たちは、やらなきゃいけないことはやったと思う。みんな成り上がりたいし、危険なことはしないに越したことはないって……マーチルも本音ではそう思っているよ」
 そこまで言うと、マーチルは視線を下げた。
 コイツの言いたいことはわかるよ。だって僕だって本当は自分の身が一番かわいい。可愛いに決まってる。僕が海賊になったのだって、僕自身がいい思いをしたかったからだよ。


 だけど……
 そこまで思うと、僕は視線を上げた。
「僕はさ……大海賊でも英雄でもない。だから……虐げられる人たちを助けるとか、悪い奴らを倒すとか……そういうことはできない」

 全員が僕に注目していた。
「僕たちは、川原の中にいる小さな魚のような存在だと思う。だけど……そんなちっぽけな存在にも意志がある。僕はそれを……連中にわからせてやりたい!」

 そう伝えると、オフィーリアも、マーチルも、ヤーシッチも、ニッパーも、エリンも、ベンジャミンも、リーゼも、ハルフリーダも、他の有翼人たちも、そして最後にミホノシュヴァルツ号も……満足そうに笑った。

「死にたくない人は、すぐに船から降りて! ここからは本当に命がけの戦いになる!!」

 赤ひげ海賊団との……50隻vs1隻の駆け引きが始まろうとしていた。

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