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8.偽物の右手剣
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オリヴィアの表情は恐怖に覆われていた。
いくら彼女でも、この状況だけはどうしようもないようだ。
「開けるぞ!」
その声を聞いたとき、彼女はもうダメだと言いたそうな顔をしていたが、追い詰められた僕の脳裏にはあるキーワードが浮かんでいた。
――偽物の右手剣!
そう念じるとともに、僕の右手には【レフトソード】によく似た短剣が現れた。
しかし、雰囲気でわかる。これはレフトソードとは似ても似つかないシロモノだ。僕はそのもう一つの短剣に導かれるようにキーワードを更に念じた。
――ファントム!
すると、その右手ナイフの刀身は真っ黒に変化した。
間違いなくこれは第3のアビリティ……僕の固有特殊能力だろう。それだけでなく僕は左手でオリヴィアの手を握っていた。
兵士がドアをこじ開けて入ってくると、部屋中を見回している。
「……返事がないと思ったら留守か」
「仕方ないな。次の部屋だ」
兵士たちはドアを閉めると立ち去っていった。
ほっと胸を撫でおろしたが、明らかに兵士たちの目に僕らの姿は映っていたはずだ。どうして兵士たちは僕たちを無視して通り過ぎて行ったのだろう。
「…………」
「…………」
僕もオリヴィアも、すぐに僕の右手に現れた短剣を眺めていた。
その真っ黒な刀身は、よく見れば刃先がお世辞にも鋭利とは言えない。つまり、この偽物の右手剣は、攻撃を想定していない剣なんだ。
オリヴィアはあたりを見渡すと、すぐに僕の肩を叩いてきた。
そして鏡を指さしている。
僕も鏡を見ると、なんと僕たちの姿が映っていない。
試しに、短剣を解除してみると、鏡には僕とオリヴィアの姿が映った。
「……やはり、この短剣の能力みたいだね」
そう呟くと、オリヴィアも頷いた。
しばらくすると、兵士たちは再び僕らの部屋のドアを開けてきたが、僕は【偽物の右手剣】でオリヴィアと共に姿を消して対応した。
すると兵士たちは「また留守か……」とだけ言って通り過ぎていく。
兵士たちが民宿を後にすると、僕もオリヴィアもやっと気を落ち着けることができた。
「危なかったね……」
「はい。あなたのアビリティがなければ、今頃は取調室で拷問を……私だったら埋められていたかもしれません」
拷問か。この中近代っぽい世界を考えると人権なんて発想はないから、ひどいことをされていただろう。
オリヴィアの役に立てて良かったと思える。
少し考えると、僕はオリヴィアを見た。
「ねえ、オリヴィア……」
「いかがなさいましたか?」
「この短剣を持っていれば、検問を通り抜けることもできるんじゃ……?」
そう質問すると、オリヴィアは難しい顔をした。
「検問には、探索能力に優れた兵士や、ウェアウルフ族の兵士もいると思います。さすがに危険すぎるのではないでしょうか?」
「た、確かに……」
確かにオリヴィアの言う通りだ。
こういう風に隠す系の能力があるということは、それを見つけ出す能力があったとしても全くおかしくはないし、ウェアウルフとはオオカミ人間ということだから、イヌ並みの嗅覚を持っているだろう。
「やはり、関所を破るしかないということになるかな……?」
「そうでしょうね。できれば今夜にでも……」
僕は頷くと、右手に偽物の右手剣を出してみた。
これを持ったまま鏡を見ると、オリヴィアの隣にいる僕の姿が消えている。
そして歩いてみても、走ってみても僕の姿は消えたままだった。
「……なるほど」
次にテーブルの上に置いてあった荷物を手に持ってみると、持ち上げたところで荷物もきれいに消えていた。
少し動かしてから、テーブルの別の場所に置いてみると、手を放して1秒ほどで荷物は鏡に映っている。
「きゃっ!?」
3番目に、僕はオリヴィアの側に寄ると、まず頭を撫でてみた。
「オリヴィア、音は聞こえた?」
「……聞こえています」
次にお腹の辺りを触ってみても、やはり鏡には映ったままである。
手を伸ばしてオリヴィアの手を握ると、彼女の姿も鏡から消えた。
これは、手を握ることで効果が発動するのだろうか。それとも、握ることが発動条件になるのだろうか。
「オリヴィア、机の上にある革袋を持って」
「はい」
彼女が革袋を持ち上げると、机の上の革袋も消えた。
どうやら、手を握り合った状態なら、オリヴィアが持っても効果が発動するようだ。
「オリヴィアも身体の一部と判定されてるのかな?」
そう言いながらオリヴィアと手を離すと、1秒ほどでオリヴィアと持っている革袋が鏡に映っていた。
「そうかもしれませんね」
試しに、オリヴィアの背後に立って、左手を彼女の肩に絡めると鏡からオリヴィアの姿が消えた。
手を握る以外でも、姿を消す方法は幾つかあるかもしれない。
【オリヴィアの想像(取調時の拷問)】
いくら彼女でも、この状況だけはどうしようもないようだ。
「開けるぞ!」
その声を聞いたとき、彼女はもうダメだと言いたそうな顔をしていたが、追い詰められた僕の脳裏にはあるキーワードが浮かんでいた。
――偽物の右手剣!
そう念じるとともに、僕の右手には【レフトソード】によく似た短剣が現れた。
しかし、雰囲気でわかる。これはレフトソードとは似ても似つかないシロモノだ。僕はそのもう一つの短剣に導かれるようにキーワードを更に念じた。
――ファントム!
すると、その右手ナイフの刀身は真っ黒に変化した。
間違いなくこれは第3のアビリティ……僕の固有特殊能力だろう。それだけでなく僕は左手でオリヴィアの手を握っていた。
兵士がドアをこじ開けて入ってくると、部屋中を見回している。
「……返事がないと思ったら留守か」
「仕方ないな。次の部屋だ」
兵士たちはドアを閉めると立ち去っていった。
ほっと胸を撫でおろしたが、明らかに兵士たちの目に僕らの姿は映っていたはずだ。どうして兵士たちは僕たちを無視して通り過ぎて行ったのだろう。
「…………」
「…………」
僕もオリヴィアも、すぐに僕の右手に現れた短剣を眺めていた。
その真っ黒な刀身は、よく見れば刃先がお世辞にも鋭利とは言えない。つまり、この偽物の右手剣は、攻撃を想定していない剣なんだ。
オリヴィアはあたりを見渡すと、すぐに僕の肩を叩いてきた。
そして鏡を指さしている。
僕も鏡を見ると、なんと僕たちの姿が映っていない。
試しに、短剣を解除してみると、鏡には僕とオリヴィアの姿が映った。
「……やはり、この短剣の能力みたいだね」
そう呟くと、オリヴィアも頷いた。
しばらくすると、兵士たちは再び僕らの部屋のドアを開けてきたが、僕は【偽物の右手剣】でオリヴィアと共に姿を消して対応した。
すると兵士たちは「また留守か……」とだけ言って通り過ぎていく。
兵士たちが民宿を後にすると、僕もオリヴィアもやっと気を落ち着けることができた。
「危なかったね……」
「はい。あなたのアビリティがなければ、今頃は取調室で拷問を……私だったら埋められていたかもしれません」
拷問か。この中近代っぽい世界を考えると人権なんて発想はないから、ひどいことをされていただろう。
オリヴィアの役に立てて良かったと思える。
少し考えると、僕はオリヴィアを見た。
「ねえ、オリヴィア……」
「いかがなさいましたか?」
「この短剣を持っていれば、検問を通り抜けることもできるんじゃ……?」
そう質問すると、オリヴィアは難しい顔をした。
「検問には、探索能力に優れた兵士や、ウェアウルフ族の兵士もいると思います。さすがに危険すぎるのではないでしょうか?」
「た、確かに……」
確かにオリヴィアの言う通りだ。
こういう風に隠す系の能力があるということは、それを見つけ出す能力があったとしても全くおかしくはないし、ウェアウルフとはオオカミ人間ということだから、イヌ並みの嗅覚を持っているだろう。
「やはり、関所を破るしかないということになるかな……?」
「そうでしょうね。できれば今夜にでも……」
僕は頷くと、右手に偽物の右手剣を出してみた。
これを持ったまま鏡を見ると、オリヴィアの隣にいる僕の姿が消えている。
そして歩いてみても、走ってみても僕の姿は消えたままだった。
「……なるほど」
次にテーブルの上に置いてあった荷物を手に持ってみると、持ち上げたところで荷物もきれいに消えていた。
少し動かしてから、テーブルの別の場所に置いてみると、手を放して1秒ほどで荷物は鏡に映っている。
「きゃっ!?」
3番目に、僕はオリヴィアの側に寄ると、まず頭を撫でてみた。
「オリヴィア、音は聞こえた?」
「……聞こえています」
次にお腹の辺りを触ってみても、やはり鏡には映ったままである。
手を伸ばしてオリヴィアの手を握ると、彼女の姿も鏡から消えた。
これは、手を握ることで効果が発動するのだろうか。それとも、握ることが発動条件になるのだろうか。
「オリヴィア、机の上にある革袋を持って」
「はい」
彼女が革袋を持ち上げると、机の上の革袋も消えた。
どうやら、手を握り合った状態なら、オリヴィアが持っても効果が発動するようだ。
「オリヴィアも身体の一部と判定されてるのかな?」
そう言いながらオリヴィアと手を離すと、1秒ほどでオリヴィアと持っている革袋が鏡に映っていた。
「そうかもしれませんね」
試しに、オリヴィアの背後に立って、左手を彼女の肩に絡めると鏡からオリヴィアの姿が消えた。
手を握る以外でも、姿を消す方法は幾つかあるかもしれない。
【オリヴィアの想像(取調時の拷問)】
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