しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ

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27.再び忍び寄る、闇墜ちジルー

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 吸血鬼化した野生動物を倒しはじめて2時間。
 僕はついに、吸血鬼化したマーフォーク族の男性と対決することになった。

 マーフォーク族の男性は、リーチの長い槍を手に僕に挑んできた。僕はもちろんレフトソードならぬレフトナイフで対抗している。
「…………」
「…………」
 一見すると、ナイフと槍ではリーチの短いナイフの方が不利だが、僕はナイフ投げができるうえに、ここは森の中だ。木だけでなく低木や下草などが邪魔して、槍では取り回しが悪い状況になっている。

 案の定、相手の槍が木にぶつかって視線が動くと、僕は間髪を入れずに相手の懐まで駆け出し、まずは下半身から切り上げを浴びせ、次にナイフをいったん消してから、再び出して斬り下ろした。

 マーフォークの男性は呆然としたまま槍を落とし、自分の身体を触っていた。
「き、斬れて……ない? 確かに……というか、オイラは操られていたはず……?」

「これはアビリティで出したナイフだから、見えないモノだけを切ることができるんだ」
 そう言いながらレフトソードを男性に近づけると、男性の顔色はよりよくなっていった。
「……とんな特殊効果のアビリティは初めてだ。名前は何ていうんだい?」
「左の短剣と呼んで欲しい」

 そう伝えると、マーフォーク族の男性は微笑を浮かべた。
「左が短剣なら、右なら長剣が出てきそうだな」
「残念……あいにく僕は左利きでした!」
 冗談を言い合いながら笑っていると、何だかこの能力のことがより好きになった。
 今までは、オリヴィア、スティレット、ジルー……それにギルド長ばかりが輝いているように見えていたが、僕にだってできることはある。少しだけだがそう思えた。


「オイラの名前はビル。こう見えても自警団の中じゃ5番目に強かったんだけどな」
「どうりで手強いワケだ。地形が味方しなければ危なかった」
 そう言うと、僕は右手を差し出しながら言った。
「フロンティアトリトンズのカイトだよ」
「改めて、ラング村自警団のビル……よろしく」

 ちなみに、今の僕のレベルは15。ビルのレベルは21のようだ。


 2人で行動していると、次に遭遇したのはクマだった。

 ビルは緊張した表情のまま槍を構え、僕は少し離れてクマを挟むように陣形を組んだ。
 クマはどうやら僕の方が倒しやすいと思ったようだ。大口を開けて突っ込んできたが、ナイフ投げで鼻先に命中すると、ナイフはそのまま脳天を通過して、クマは目を白黒させていた。

 再度、レフトソードならぬレフトナイフを出すと、クマは及び腰になった。
 正気を取り戻したのだろうか。それともただ単に僕の手元から再びナイフが出てきたことを不気味がっているのだろうか。
 その直後にビルが槍を構え直すと、クマは怯えた様子で4つ足になって逃げだしていく。

「……どうやら正気に戻っていたようだね」
「ああ、吸血鬼は死ぬことを恐れない」

 ビルはチラッと僕の背中を見ると、「おっ……!?」という声を出した。
「カイト……今ので君のレベルが上がったぞ」
「これで16か……順調だ!」
 そう言って喜んでいると、ビルは「違う違う!」と言いながら訂正した。
「17だよ。吸血クマってなかなか経験値になるんだな。ウラヤマ!」


 僕は表情を引き締めると、ビルと背中合わせに立った。
「また何か来る……!」
「今度は何だ?」

 物陰から飛び出したのは、ビルと同じくらいの歳のマーフォークの少女だった。
 しかも果物ナイフという、家庭で見慣れたモノを構えてきているから恐怖感がある。ビルもぎょっとした様子で叫んでいた。
「お前はジェシカ!」
「なに、解除されてるんだ……お前はァ!」

 そう言いながらナイフを振り回してくるマーフォークの少女だったが、僕は側面からレフトナイフを投げて、ジェシカも驚いた様子で果物ナイフを地面に落としていた。

「あ、あれ……私はいったい?」
「正気に戻ったかジェシカ!」
「え? う、うん……」
「とにかく、身体に残っている毒素を消そう……これはナイフのように見えるけど、実体化しているモノだから」

 僕はそう言いながらレフトナイフを近づけると、顔色が悪かったマーフォークの少女も少しずつ、身体の力を抜いていた。
 どうやらレフトナイフの呪いを斬るモードには、近づけるだけでも邪なものを遠ざける力があるようだ。


 3分ほど休むと、マーフォーク族の少女ジェシカの顔色もすっかり良くなった。
「ありがとう……もう、大丈夫だよ」
「念のためもう少し休んどこうぜ」
「そうだね……」
 これで仲間は2人。さらに僕も経験を積めた……と上機嫌になって思っていると、僕の鼓動は警鐘を鳴らすように高まった。


 この霊力……この動きの速さ……間違いなくジルーが来る!
 方角は、南東……接触まで、あと10秒!




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