しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ

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30.ラング村の自警団員との戦い

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 5時間ほど休むと、空はすっかり夕焼けに包まれていた。
 ビルはまだ寝ていたがジェシカはすでに起きており、ジルーは代わりに眠っていた。

「見張ってくれてありがとう。とりあえず……変わったことはないよね?」
 そう質問すると、ジェシカは頷いた。
「ええ。これから日も暮れるから、私たちマーフォーク族の行動範囲は大きく下がるよ」

 彼女は少し恥ずかしそうに言った。
「たとえ吸血鬼化していても、元はマーフォークだから視界とかは広くならないことはわかっているからね」


 いやジルーは寝ていたワケではなかった、耳をピクリと動かすと鼻をスンスンと動かしている。
「……みんな、静かに」

 全員の視線がジルーに向くと、彼女は小さな声で言った。
「貴方たち以外のマーフォークが近づいてきている」
「……数は?」

 ジルーは音を立てずに歩くと、茂みの中から様子を眺めて、こちらを見た。
「……7人。全員がマーマンだね」

 7人か。僕は思案した。
 こちらの戦力は4、敵の戦力は7。しかもこちらには民間人も混じっているし、質でも量でも向こうが上だろう。

 だけど……2つだけ、こちらが有利なことがある。
 片方は夕方になっており、周りが見えづらくなっていること。
 そしてもう片方は、こちら側だけが正確に敵の位置を把握していること。

 結論を出した僕は、ジルーとビルを見た。
「ジルー、ビル……僕が攻撃を仕掛けたら、飛び道具とかで援護して」


 その言葉は2人にとっては意外だったらしく、表情を変えていた。
「ま、マジでやるの!?」
「無謀じゃないかな?」

 僕は夕方の森を眺めた。
「確かに賭けにはなるけど、今のままだと戦力差は絶望的だ。あまりグズグズしているとオリヴィアも取り込まれる危険性が高くなる」

 囚われているオリヴィアが吸血鬼化すれば、どれほど恐ろしい存在になるかわからない。彼女のアビリティが悪さをすると、僕の切り札である【レフトソード】も効かないレベルの妖魔になる危険性もある。

 真剣に仲間たちを見つめると、ジルーがまず理解を示してくれた。
「そ、そうだよね……オリヴィアをいつまでも待たせる訳にはいかない」
 次にビルやジェシカも頷いてくれた。
「オイラもやるぞ……自警団は村人を守ってなんぼだ!」

「みんな……ありがとう!」
 仲間たち1人1人の顔を見ると、僕は左手を握りしめたまま茂みの中にスタンバイした。
 自警団員は少し離れた場所を歩いていたが、待機していると少しずつ近づいてくる。彼らの陣形は単縦と呼ばれるモノだ。

 部隊全体が1列に並んで歩いているだけ。シンプルで僕らもよく用いる陣形だ。

 僕は息をひそめながら、彼らが目の前を通り抜けるのをじっと待った。
 そして、先頭が姿を見せ、僕の目の前を通り、2番手、3番手と続いていくと、僕は【レフトナイフ】を出し、4番手の吸血鬼化した自警団員に向けて放った。

 放ったナイフはその自警団員の胴体をすり抜けて地面に突き刺さる。
 4番手の自警団員は、奇襲攻撃を受けて倒れ、他の自警団は何事かと言わんばかりに周囲を見回していた。


 するとジルーは、木の枝の上からナイフを投げつけて敵部隊の注意を引き、全員の視線がジルーへと向くと、僕は藪の中から飛び出して、走りながら左手に再び【レフトナイフ】を出した。

 そして、混乱する3番目の戦士を切り伏せ、次いで目の合った5番目の戦士も切り伏せた。
「敵襲……迎撃!」

 先頭にいた敵リーダーが叫ぶと、残ったマーフォーク3人は武器を構え直して、僕を取り囲むように攻撃しようとした。すると今度は、藪の中からビルが飛び出して隊長に戦いを挑む。

「お、お前は……ビル!」
「隊長さん……いい加減、元に戻ってもらいますよぉ!」

 ビルの奇襲は、再び敵部隊を混乱させた。
 同時にジルーも木の枝から飛び降りると、目にも止まらぬ速さで自警団員の一人を蹴飛ばし、投げつけたナイフを拾って、次の自警団員と戦いを始めた。

 僕もその隙に、再度【レフトナイフ】を出すと、目の前の自警団員の攻撃を避け、ナイフで斬り伏せると、ジルーが蹴り倒した自警団員にも一撃を浴びせ、残った1人をジルーと挟み撃ちにして撃破した。

「くっ……小癪なぁ!」
 敵の隊長は、ビルをはじき返して槍を振り上げたが、そこにジェシカが体当たりをかけ、さらにジルーも飛びかかって隊長に関節技をかけた。


 自警団の隊長は、筋肉が発達した男性だったので、少女2人にも負けない力で押し返そうとしたが、僕はすぐに【レフトナイフ】を投げつけて隊長の胸を通過させた。

 隊長の赤く光っていた目が、穏やかなこげ茶色のモノへと戻っていく。
「…………」
「…………?」
「隊長さん、オイラですよ……ビルです!」

「あ、ああ……ビルか……」
 彼はあたりを見回した。

「こ、ここは……私はいったい……?」
 ビルは鼻血を拭いながら答えた。
「隊長たちは、吸血鬼に操られていたんですよ……数時間前のオイラと同じようにね」
「そ、そうだったのか……」

 次々と正気を取り戻した自警団員たちを見て、僕は確かな手ごたえを感じていた。
 合わせて11人。これだけの戦力が揃えば……こちら側にも勝ち目が出てくる!


【男人魚のビル(仕事中の様子)】
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