しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ

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29.見えない一角獣

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 ジルーは真っ直ぐにこちらを見ると、徹底抗戦の構えを見せてきた。

 彼女の中には……
 1.吸血鬼にしたはずのカイトが元に戻っている。
 2.理由は不明。
 3.態度から一角獣スティレットが近くに来ている可能性。
 4.確かめるためには、なるべく早くカイト倒して情報を聞き出さないと、スティレットに暴れられる危険性。
 5.一角獣は吸血鬼にとって天敵。1秒でも早く事実をはっきりさせたい。

 以上のような考えがあるのだろう。
 そして同時に、彼女は常に僕たちだけでなく、見えていないスティレットの動きを警戒しなければならない。たとえウマのにおいがしなくても、アビリティによっては自分の体臭を消す……というモノも存在する。


 ジルーはナイフを構えたまま、僕に向かってきた。
 しかしその動きは、見えない一角獣スティレットを警戒しているため遅い。ここは森だから視界の悪さも、彼女にとっては戦いを難しくしている要因だろう。

 一方、僕はしっかりとジルーの動きを追った。彼女の動きは点で見ていては間に合わない。線で追うんだ!
 左の剣【レフトソード】で対応しながら、折あらば【偽物の右手剣】を出した。そして【形状変化】を使い、ヒモ状に伸ばしていくと、ジルーは軽やかに避けた。

「そんな攻撃なんて……」
 その直後に、僕のヒモとなった偽物の右手剣は、落ちていた枝を引き寄せた。するとジルーはその枝にまでは注意が向かなかったらしく、足をかけて転倒した。


 そこに向けてレフトソードを投げつけると、ジルーは短剣で切り払ったが、僕はすかさず新たな短剣を出してから彼女に向けて投げつけた。
 ジルーは身体を捻って攻撃を避けようとしたが、刃先は腕に刺さって驚いていた。痛みが全くないどころか通過したのが意外過ぎたのだろう。

 僕は更にレフトソードを投げつけ、それはジルーのみぞおちを通過し地面に突き刺さっていた。


「……あれ? 私……どうして……こんなことを?」
「君は吸血鬼に操られていたんだよ」
 そう伝えると、隣にいたマーフォーク族のビルやジェシカも頷いた。
「そ、そ、そう言えばぁ……」

 さすがにジルーは強敵だった。彼女を取り返せたことで、僕たちはだいぶ戦力を取り戻せただろう。
「迷惑かけてごめんなさい!」
「いや、無事に戻ってきてくれたんだからいいんだよ!」
「うう、恥ずかしい……」


 ジルーが顔を真っ赤にしていると、ビルも言った。
「オイラたちだって、吸血鬼に操られていたんだ。その分、働いて挽回しよう!」
 その言葉を聞いたジルーは、耳をピンと立てた。
「そ、そうだよね……そうしよう!」


 話も纏まったところで、僕は自分のステータスを確認するため、ビルに背中を見せて読み上げてもらった。

【カイト 男 年齢35歳 種族:ヒューマン クラス:冒険者 レベル19
HP 319/ 354 LP 5/5 MP 126/ 302】

 その言葉を聞いたジルーは、目をぱっちりと開けて僕の背中をのぞき込んできた。
「う、うそぉ!? カイトって、いつの間に強くなったの!? もう、レベルこんなに上がってる!」

「ボーナス敵に恵まれただけだよ。そうでなければ、こんなに短期間でレベルは上がらないさ」
「そ、それはそうだよね……普通、1から20に上がるのって……2~3年くらいはかかるんだよ?」

 ジルーが生唾を呑みながら頷くと、隣で僕の背中を見ていたジェシカやビルも驚きの声を上げていた。
「というか……エルフや有翼人でもないのに……MP300越えてるんだ……す、凄い!」
「っていうか、カイトって……35年も異性とも同姓とも関係を持たなかったのかよ! こりゃ霊力が高いわけだ!」

 そう言えば、オリヴィアも前に僕のことを、35年モノとかユニコーンとか言ってたな。

「え? 僕のようにモテないヤツなら普通にいるんじゃ……?」
 そう聞き返すと、ジェシカは言った。
「貴方の地域ではどうだったのかわからないけど、ここでは男の人が成人するのなんて2人に1人くらいなんだよ。親御さんとしては、さっさと結婚させるでしょ」

「あまり大きな声じゃ言えないけど、祭りの後なんかでも、乱交パーティーとかあったりするもんな」
 彼はそういうと、ジェシカを見た。
「そう言えばお前は処女だったよな……霊力ってどれくらいなんだ?」

 そう質問をされると、ジェシカは仕方なさそうに背中を向いた。
「……特別だよ?」

【ジェシカ 女 年齢23歳 種族:マーフォーク クラス:一般人 レベル2
HP 270/ 273 LP 4/4 MP 163/ 193】

 ビルはジェシカの背中を見ると、自分の背中も見せた。
 さすがに一方的に見るのはフェアじゃないと思ったのだろう。

【ビル 男 年齢25歳 種族:マーフォーク クラス:パルチザン レベル22
HP 353/ 378 LP 5/5 MP 147/ 223】


 その様子を見たジルーは、申し訳なさそうに言った。
「少しずつ思い出してきた。私のせいで、全員を疲れさせちゃったよね……」

 どうやら、吸血鬼化しても少しすると記憶は戻るようだ。
 実際に操られていたワケだし、僕はジルーに罪はないということを言うことにした。
「君が謝ることじゃないよ。それよりも今は一刻も早く、仲間たちを正気に戻さないと……」


 そう伝えるとジルーは頷いてから、背中を僕に見せてくれた。
【ジルー 女 年齢17歳 種族:ウェアウルフ クラス:冒険者 レベル25
HP 366/ 396 LP 5/5 MP 128/ 198】

「私はまだ少しだけ余裕があるから、先に休んでMPを回復させて」

 僕は彼女のお言葉に甘えることにしたが、そのMPの温存具合に驚いていた。
 あれだけ激しく動き回っていたのに、これほど残っているということは、彼女はかなり燃費の良いアビリティや魔法の使い方をしているということだ。

「ありがとう……」
 MPが300越えたとテングになっている暇なんてない。まだまだ、覚えるべきことはたくさんあるようだ。


【正気に戻ったジルー】
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