しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ

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32.オリヴィアとの再会

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「敵だよ」

 ジルーがそう言いながら指さすと、洞窟の奥には吸血鬼化したマーフォークが立っていた。
 僕と自警団の団長はお互いに頷くと、自警団長が囮として飛び出した。

 見張り役のマーフォークが槍を構えて自警団長と交戦を開始すると、僕が物陰から飛び出し【レフトナイフ】を見舞う。

 するとナイフは、見張り役のマーフォークの胴を通り抜け、洞窟の岩壁に突き刺さっていた。
「ん……俺は……いったい?」

 その様子を見た自警団長は、そのマーフォークに話しかけた。
「オリヴィア殿と他の吸血鬼はどこにいる?」

 そのマーフォークは具合が悪そうな顔をしていたが、少し考えると答えた。
「オリヴィア殿なら……確かこの奥です」
「わかった。君は少し休んでいた方がいい」


 ジルーを先頭に、僕たちは洞窟の奥に向かって駆けていくと、彼女は入り口前の壁を背に立ち止まった。
 どうやら、その奥からオリヴィアの匂いを強く感じるようだ。他の自警団員も同じように突入準備をする様子で、壁を背にしており、僕も駆け付けるとジルーは言った。

「罠の可能性も高いから……数人はここに残って」
 慎重な判断だと思いながら僕も頷いた。
「隊長さん、何かあったときに陣頭指揮を取れるように、ここで待機してください」

 そう伝えると、隊長は残念そうな顔をしたが、理解は示してくれた。
「……わかった。気を付けてくれ」
「ありがとう!」

 直後にコマドリが飛び立ったのを確認すると、僕もジルーたちに続いた。



 まずジルーが洞窟の奥に突入して、岩場に身を隠した。
「…………」
 僕たち人間やマーフォークの目では、何があるのかほとんど見えないが、ジルーの目には様々なモノが映っているのだろう。

 彼女はやがて親指を上げると、僕らも突入していく。
 中に入ってわかったことだが、洞窟の奥には本当にオリヴィアしかいなかった。

 僕がアビリティで偵察した時も、ジルーがにおいで感知しようとしたときも、それ以外の見張りの気配がなかったが、吸血鬼側が意図的にニセ情報を流したわけではなく、本当にオリヴィアを放置していたことが明らかとなった。


 すぐに視線を、ジルーや他のマーフォークたちに送った。
 そしてオリヴィアの側に駆けよると、彼女は寝息を立てていた。本当に何事もない様子で眠っている。

「…………」
 オリヴィアをお姫さま抱っこすると、彼女は目を瞑ったまま保護を求めるように、僕の胴体に自分の身体を近づけてきた。
 少しでも楽な姿勢をさせてあげようと、腕を動かしながら彼女のアゴを僕の首元に乗せてみると、オリヴィアは両手を動かして僕に縋りついてくる。

 オリヴィアが戻ってきたことが嬉しくなり、僕は彼女の後頭部を撫でた。
「苦労をかけたね。でももう大丈夫だよ……体調がよくなるまでゆっくり休んで」

 そう伝えると、オリヴィアは口元をほころばせ、とても嬉しそうな表情をした。
「あなた……」

 おや、ここで久しぶりにオリヴィアが語り掛けてくれた。
 時間に直せば数時間ぶりの再会なのだけど、凄く濃密な時間を過ごしたからなのか、オリヴィアとずいぶん久しぶりに喋った気がする。
「なんだい?」

 そう聞き返すと、オリヴィアはゆっくりと目を開いた。
 なんというか、予想通りという感じで安心した。彼女の瞳の色は真っ赤に変色しており、更に口元には長く伸びた犬歯までオマケとしてついている。


「……な、何で……驚かないの?」
 オリヴィアは驚いた様子で僕を眺めてきたが、僕は動じることなく答えた。
「いや、30分くらい前に偵察した時に、君が拘束もされずに倒れていたからさ……あまりに不自然だと思ったんだよ」

 僕はオリヴィアを背負い直すと、挑発的に首筋が彼女の目の前に来るようにした。
「でも君が吸血鬼化していたのなら……思った通りというか、どうして放置されていたのか腑に落ちた。いや、凄く納得したと言うべきかな?」

 その直後に、オリヴィアは僕の首筋に噛みついてきた。
 ジルーや他のマーフォークたちも騒然としているなか、オリヴィアは僕の身体をしっかりと抱きしめたまま吸血をやめない。

 オリヴィアは僕の腕から降りると、僕のことを押し倒してもなお吸血を続けた。


 どれくらい血を呑んだだろうか。彼女は倒れている僕から手を放し、口元を舐めながらジルーたちを見た。
「どういうつもりかわかりませんが……ご主人様をまず私の側に来させてくれたこと……感謝します」

 彼女は不敵に笑った。
はやはり……カイト様以外に捧げられませんから」


 その言葉を聞いたジルーは、短剣を構えたまま身構えた。
 彼女は、恨み節でも言いたそうに僕を睨んできた。どうしてあっさりとオリヴィアの手に落ちたのかと、そう言いたいのだろう。


【迫りくるオリヴィア】
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