しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ

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52.ギルドへと帰還

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 グリフォンの巣を通り抜けたリック隊だが、まだまだ油断は出来ない状況が続いていた。
 仲間全員と合流した上に最大の難所も突破したわけだが、ここが魔境だということも、身を守る装備品がほとんどないということも変わっていない。

 リック隊長は、傷を癒やしているスティレットを眺めながら言った。
「今の我が部隊で、最も戦闘力があるのはスティレットさんです。彼を中心に編成を行いたいのですが、カイト隊長……いかがでしょうか?」

 オリヴィアやスティレットは、僕に視線を向けてきた。
 恐らく、判断は僕に一任してくれているのだろうが……もしそうじゃないとしても今は非常時だ。悪いけど、1人でも多くの仲間が生き残る方法を取りたいと思う。
「わかりました。リック隊長の指示に従いたいと思います」


 リック隊長は頷くと、仲間たちを見た。
「先頭はスティレットさん。二番手が私とカイトさん、真ん中がオリヴィアさんとゴワス、後方にアリーシャ、最後尾にエドワードで行きます」

 どうやらリック隊長は、スティレットを最前列に出してモンスターを威圧する作戦を取ったようだ。
「わかりました……頼んだよスティレット!」
『了解!』

 間もなくスティレットは、全身から霊力をみなぎらせながら先頭を歩いた。
 まあ、見る人が見れば単なる強がりというか……こけおどしに見えるのだろうが、ユニコーンの霊力というモノは闇の住人にとっては凶悪なシロモノで、触れただけでも瘴気が溶けるのだから絶対に近寄りたくないだろう。


「前に入った入り口には、まだまだトラップが仕掛けられている恐れがあります。迂回しましょう」
『わかった……』
 スティレットは、鼻を引くつかせると言った。
『あと、冬虫夏草にやられたアリの巣がそこにあるよ』

 彼の視線を追ってみると、確かにグロテスクなキノコがあった。
 それ以上の姿を説明すると、嫌がる人も多いと思うので割愛するけど、まあ、こういうキノコは薬にもなるので需要がある。


 リック隊長たちは、慣れた様子でキノコを回収していき、満足そうに微笑んでいた。
「これで依頼の片方だけでも達成できましたね」
 アリーシャが言うと、リック隊長もホッとした様子だった。
「ああ……スティレットさんに感謝したい!」

 インディゴメイルズは、任務達成率が部隊員の評価やボーナスの査定に影響すると聞くから、彼らも必死なのだろう。社会人として似たような経験をしてきたから苦労はわかるし、少しでも役に立てたのなら幸いだと思う。


 間もなくリック隊は、洞窟を抜けて樹海へと戻った。
 この樹海も危険な場所に変わりはないが、今までが今までだったのでずいぶんと状況が良くなったように思える。
『みんな、まだまだ気を抜いてはいけないよ』
「スティレットさんの言う通りだ。全員もう一度……気を引き締めてくれ」

 リック隊長が言うと、特にリック隊の面々が気を引き締め直した。


 この森でも、スティレットの霊力を恐れているのか、不死者たちは襲ってくるどころか近寄ることもなく、リック隊は森を抜けて冒険者街へと帰還することができた。

『はぁ……疲れたぁ……』
 冒険者街に入ると同時に、スティレットは緊張を解いた。
 よく見ると、彼の霊力は軽度の疲労状態になり、背中を見るとMPも3割ほどまで減少していた。


「お疲れ……」
 そう言いながらスティレットをねぎらうと、彼はぎこちない笑みを浮かべながら言った。
『頭の中に疲れがこびりついている感じだよ。ギルドに戻ったらすぐに寝たい』
「すまないが、身体を洗ってからにしてくれ。妙なカビがまだ体についているかもしれないからな」


 そう伝えていると、リック隊長は微笑みながら言った。
「それなら、うちのギルドに寄っていってください。いい場所があります」

 大手ギルドのインディゴメイルズには、魔導技術によって作られたシャワー室があり、僕たちは身体を清潔に保った状態で解散となった。

『インディゴメイルズの設備……凄かったね』
「ええ、これだけ色々なことをして下さったのです。また、力になりたいですよね」

 僕は、正直に言えば、これ以上はオリヴィアを危険な目に遭わせたくはなかった。
 お互いに冒険者なので、危険と隣り合わせになることは日常茶飯事なのだが、何か……僕の稼ぎを上げて、彼女を養ってあげるようなことはできないだろうか……?


【インディゴメイルズのシャワー室(その1)】
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