しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ

文字の大きさ
64 / 75

64.試験官からの二択

しおりを挟む
 間もなく受験者たちは、一列に並び始めた。
 理由はもちろん、トーナメント戦に出場するか、サイコロを振って合否を決めるかを選ぶためだ。

 遠目から眺めてみると、本当にダイスを選択する受験者が多かった。
 トーナメント表を選ぶのは、4人に1人……いや、5人に1人くらいだろう。ダイスは次々と戦士を不合格にしていくが、それでも気まぐれに合格者も出す。


 そして、この試験の罠とも言えそうなのは、気まぐれにダイスに選ばれた通過者が大声で歓声を上げることだ。
 4分の1しか合格率がないので、不合格を覚悟でダイスを振るので、これで次の予選に進めたことを大声でアピールする人間が多い。

 徐々に順番は進んでいき、遂に僕たちの番になった。
「……君はどうするのかな?」
「トーナメントを選択します」

「382番……トーナメント希望。次の君は?」
 オリヴィアも当然のように言った。
「トーナメントを希望します」

「ええと……次の、うお!? ウマ!?」
『384番のウマも、トーナメントを希望しまーす』

 その後に続く、ジルーとアイラもトーナメントの方を希望したため、フロンティアトリトンズは全員がトーナメントを選択したことになる。


 けっきょく僕たちと同じように、トーナメントを選択したリックも苦笑しながら言った。
「今日1日だけで、300人近い人間が不合格になりましたね」
「そうですね……更にトーナメントの分と考えると、ここから先の試験も先が思いやられそうです」


 旅館へと戻ると、僕らは呆然としながら仲の様子を眺めていた。
 確かに大勢の受験者が不合格になったことはわかっていたが、こうして実際にロビーや食堂を見渡してみると、この旅館だけでも多くの人が明日の馬車の予定などを、旅館の係員から聞いている。

「明日の今頃には、この旅館から人の気配がなくなっていそうな勢いだね」
「縁起でもないことを言わないでください」
 さすがにオリヴィアにも怒られるかと思いながら、僕は自分が失言したことを理解した。


 この日も僕は、オリヴィアと豪華な夕食を楽しみながら、明日に備えて身体を休めることにした。
 明日は間違いなく大事な一戦になる。ここで快勝できなければ、たとえ勝利したとしても明後日の戦いで一方的に敗北することにもなりかねない。

 隣にオリヴィアが居てくれたからか、この日もぐっすりと休むことができた。



 さて、気を取り直して……僕たちは、先日と同じように会場へと向かった。そこにはたくさんのトーナメント表が出来上がっていたのだが、受験者の数は昨日と比べれば圧倒的に少ない。

 まあ……数が少なくなっているのは当たり前だが、どこか表を見ている受験者の雰囲気も変だった。なにか妙なことでも起こってるのだろうか。
 そう思いながら表に近づくと、僕も思わず「え!?」という声を上げていた。


 なんと、トーナメント表は127個分用意されていた。
 そのため1人か、下手をしたら誰の名前も書かれていないトーナメント表しかなかったのである。
「…………」
「…………」
 これはいったい、どういうことだと思いながらオリヴィアと顔を見合わせていると、隣でスティレットがクスクスと笑っていた。

「おい、何笑ってるんだスティレット?」
『ごめんごめん』
「何か気になることでも?」
 オリヴィアが心配そうに眺めると、スティレットは言った。
『いや、だってさ……これって、勇者を選び出す試験でしょう。進んで苦難を受けさせるべきなのに、楽にサイコロで合格させるような選択肢を運営側が用意したのが……どうも引っかかってたんだ』


 スティレットの話を聞いていたアイラは、険しい顔をしながら言った。
「つまり……このトーナメント表は……」
『多分だけど、多くの人がこのカラクリに気が付いたら、これはそのまま4次試験のお題として機能する予定だったんじゃないかな。実際は、多くの人が罠であるサイコロに流れたけどね』


 近くにいたリック隊長も言った。
「つまり、この4次試験は……勇者の資質を持つ者と、極端に運の良い者を選び出す試験だったというわけか……」
『そういうことなんだろうね』

 こうして、僕たちトリトンズとリック隊の合わせて10人は、次の5次試験へとコマを進めた。


 4次試験通過者……合計209名。

【試験官の騎士】
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...