6 / 17
6.暗躍
しおりを挟む
その日の夜。
小生は、演奏家の少女と共に就寝の準備をはじめていた。
少女は焚火をつけて、近くから調達したハーブなどを入れてスープを作り、小生は時間の許す限り草を食んでいる。
「ユニコーン様、ぜひお召し上がりください」
「ありがとう!」
スープの差し入れは、とてもありがたかった。
小生のような動物は、基本的に塩を手に入れる手段がなく、自力で岩塩を探し出すか、温泉が湧き出ている場所でミネラルを取るか、海に行くくらいしか選択肢がない。
「…………」
口に含んでみると、ちょうどよい感じで塩気があり口当たりも良かった。
それに口の中に広がるハーブの風味がまた良い。美味というのはこういう味を言うのだろうとさえ思えた。
「ごちそうさま。とても美味しかったよ!」
少女はとても嬉しそうに、そして照れくさそうにしていた。こうして見ていると年相応の女の子で可愛らしいと思える。
食事を終えて横になると、なにやらまた、何かに見られているような気配を感じた。
先ほどと気配が似ているし、数も多い。
なんとなく向けられている視線の当たり方から、8から10人ではないかと思えた。
「…………」
そっと目を瞑って、細かく足音や息遣いを探ってみると、プロハンターレベルの足運びの者が最低でも2人。
残りは、それに比べれば見劣るが、とにかく人数が7から8人と多い。
このままぶつかれば、こちらもただでは済まないだろう。
「ねえ、起きて」
そう伝えると、少女は眠そうに目を開けた。
「いかがなさいました?」
「あまり素行の良くない連中が、すぐ近くまで来てる」
「な、なんですって!?」
小生は、静かにと合図を送ってから話を続けた。
「敵の中に、感覚の鋭いヤツがいるみたい。だから、ここは小生に任せて」
そう提案しても、少女は納得していない様子でこちらを見てきた。
正直、彼女との旅は楽しかった……また、一緒に旅をしたい人物だからこそ、ここで危険な目に有って欲しくはない。
小生は、しっかりと少女を見た。
「さあ、今のうちに行って……生きてさえいれば、また再会して旅ができる」
少女は寂しそうな顔をしていた。小生と離れたくないようだが、今回ばかりは彼女の願いは叶えられそうにない。
「…………」
「…………」
彼女も、現状が理解できたらしく、静かに頷いた。
「旅の神よ……彼の者に幸運を!」
「幸運を!」
こんな形でお別れになるとは不本意だが、追手の狙いは間違いなく小生だろう。
今まで、何度となくユニコーンハンターと名乗るならず者に追われてきたが、今回も空気がよく似ている。
小生はすぐに角を光らせ、森の精霊に働きかけた。
森の精霊は、一応は姿をみせてはくれたが、迷惑そうな顔でこちらを見てくる。
まあ、こういう反応になるのは仕方ない。彼女たちは樹木や動物を守護する存在だ。
炎のユニコーンである小生のことを、とても疎ましく思っている。
『なんの御用ですか、火遊び一角獣殿』
早速、トゲのある言葉が飛び出したが、向こうから声をかけてくれるのなら、まだやりやすい。
小生もまた、鼻につかず卑屈にもなり過ぎないように気を付けながら返答した。
「小生は能のないウマでね。客人が大勢いらっしゃったんだけど、あいにく炎で持て成すことしかできない」
そう告げると、森の精霊は微笑を浮かべた。
「貴方のファイアーダンスを少し見てみたい気もしますが、場所が場所ですからね……ここは、アレで手を打つのが上策でしょう」
「アレとは……?」
すこしとぼけてみると、精霊は真顔で言った。
「森の精霊が侵入者にとる方法なんて、一つしかないでしょう」
彼女は視線を、ちょうど演奏家の少女が避難した方角に向けた。
「ちょうど、渡り鳥ちゃんの避難も終わったところだしね」
【森の精霊】
【作者のひとりごと】
実はこの絵、珍しく初回でイメージ通りの絵が完成した珍しい例です。
精霊の髪の毛の色は、緑色にしようかこの色にしようか迷いました。けっきょく地面を見て、大地は茶色いから茶髪で……となりました。
ちなみに、紙の色を緑色にしたら、旅の演奏家とだいぶ似た精霊様に……
小生は、演奏家の少女と共に就寝の準備をはじめていた。
少女は焚火をつけて、近くから調達したハーブなどを入れてスープを作り、小生は時間の許す限り草を食んでいる。
「ユニコーン様、ぜひお召し上がりください」
「ありがとう!」
スープの差し入れは、とてもありがたかった。
小生のような動物は、基本的に塩を手に入れる手段がなく、自力で岩塩を探し出すか、温泉が湧き出ている場所でミネラルを取るか、海に行くくらいしか選択肢がない。
「…………」
口に含んでみると、ちょうどよい感じで塩気があり口当たりも良かった。
それに口の中に広がるハーブの風味がまた良い。美味というのはこういう味を言うのだろうとさえ思えた。
「ごちそうさま。とても美味しかったよ!」
少女はとても嬉しそうに、そして照れくさそうにしていた。こうして見ていると年相応の女の子で可愛らしいと思える。
食事を終えて横になると、なにやらまた、何かに見られているような気配を感じた。
先ほどと気配が似ているし、数も多い。
なんとなく向けられている視線の当たり方から、8から10人ではないかと思えた。
「…………」
そっと目を瞑って、細かく足音や息遣いを探ってみると、プロハンターレベルの足運びの者が最低でも2人。
残りは、それに比べれば見劣るが、とにかく人数が7から8人と多い。
このままぶつかれば、こちらもただでは済まないだろう。
「ねえ、起きて」
そう伝えると、少女は眠そうに目を開けた。
「いかがなさいました?」
「あまり素行の良くない連中が、すぐ近くまで来てる」
「な、なんですって!?」
小生は、静かにと合図を送ってから話を続けた。
「敵の中に、感覚の鋭いヤツがいるみたい。だから、ここは小生に任せて」
そう提案しても、少女は納得していない様子でこちらを見てきた。
正直、彼女との旅は楽しかった……また、一緒に旅をしたい人物だからこそ、ここで危険な目に有って欲しくはない。
小生は、しっかりと少女を見た。
「さあ、今のうちに行って……生きてさえいれば、また再会して旅ができる」
少女は寂しそうな顔をしていた。小生と離れたくないようだが、今回ばかりは彼女の願いは叶えられそうにない。
「…………」
「…………」
彼女も、現状が理解できたらしく、静かに頷いた。
「旅の神よ……彼の者に幸運を!」
「幸運を!」
こんな形でお別れになるとは不本意だが、追手の狙いは間違いなく小生だろう。
今まで、何度となくユニコーンハンターと名乗るならず者に追われてきたが、今回も空気がよく似ている。
小生はすぐに角を光らせ、森の精霊に働きかけた。
森の精霊は、一応は姿をみせてはくれたが、迷惑そうな顔でこちらを見てくる。
まあ、こういう反応になるのは仕方ない。彼女たちは樹木や動物を守護する存在だ。
炎のユニコーンである小生のことを、とても疎ましく思っている。
『なんの御用ですか、火遊び一角獣殿』
早速、トゲのある言葉が飛び出したが、向こうから声をかけてくれるのなら、まだやりやすい。
小生もまた、鼻につかず卑屈にもなり過ぎないように気を付けながら返答した。
「小生は能のないウマでね。客人が大勢いらっしゃったんだけど、あいにく炎で持て成すことしかできない」
そう告げると、森の精霊は微笑を浮かべた。
「貴方のファイアーダンスを少し見てみたい気もしますが、場所が場所ですからね……ここは、アレで手を打つのが上策でしょう」
「アレとは……?」
すこしとぼけてみると、精霊は真顔で言った。
「森の精霊が侵入者にとる方法なんて、一つしかないでしょう」
彼女は視線を、ちょうど演奏家の少女が避難した方角に向けた。
「ちょうど、渡り鳥ちゃんの避難も終わったところだしね」
【森の精霊】
【作者のひとりごと】
実はこの絵、珍しく初回でイメージ通りの絵が完成した珍しい例です。
精霊の髪の毛の色は、緑色にしようかこの色にしようか迷いました。けっきょく地面を見て、大地は茶色いから茶髪で……となりました。
ちなみに、紙の色を緑色にしたら、旅の演奏家とだいぶ似た精霊様に……
0
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
