チート能力【九尾の力】が、異世界でどこまで通用するのか試してみる ~ナインテール・アタッカー~

スィグトーネ

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1.過ちを犯した主人公(前編) ※挿絵を追加しました

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『悪い企業に捕まり、女も知らぬまま死ぬとは……哀れな仔羊じゃ』
 そう僕に言ってきたのは、頭にキツネ耳を生やした女性だった。銀髪と着物という姿で、一目でこの世の存在ではないことがわかった。

 一方、僕ことソラは、ブラック企業に勤める会社員だ。
 入社した時は、ホワイトに近いグレー企業だった。有能な上司と、面倒見の良い先輩たちに囲まれたから、僕のような劣等生でも、それなりに仕事ができるようになれたのだろう。
 しかし、令和日本という時代は少子高齢社会だ。僕の勤め先にもその波は押し寄せ、団塊の世代と呼ばれた人たちや、バブル期を生きた先輩たちが次々と会社を去り、代わりとなる若手の新入社員は入ってこなかった。
 有能な上司も体を壊して去り、残っていた僕のような社員に負担が集中したのである。
 徹夜業務や休日出勤を繰り返した僕は、遂に暴走運転をし、車体がガードレールを突き破り、車体を夜空にせり出させた。
「…………」
 そこまでは、記憶にあるが……今はどういうわけか宇宙のような空間にいるし、彼女はどんな人物なのだろう。
「君は……?」
『童は……そうじゃな。はぐれ稲荷とでも言わせてもらおう』
「はぐれ稲荷……」
 その名前は聞いたことがあるが、本物の稲荷神社とどんな関わりがあるのだろう。
 疑問に思っていると、キツネ耳の女性は、僕の疑問に答えてくれた。
『逸れ稲荷を知らんのか。これはまあ……倉稲魂命うかのみたま殿の眷属ではないのに、勝手に稲荷を名乗る不届き者じゃ』
「つまり、偽物の神様?」
 少々失礼かなと思いながら聞いてみると、彼女はよくできましたと言いたそうに微笑みながら頷いた。
『その通り。思い残すことがないのなら、極楽にでも地獄にでも行くがいい』
「…………」
 キツネ耳の女性の言葉に、僕は違和感を覚えた。
 詐欺師がわざわざ自己紹介で詐欺師と名乗らないのと同じように、私は偽者ですと自己紹介する偽稲荷はいないのではないだろうか。
 それに彼女の体の周りからは、白いモヤのような光がにじみ出ている。
 根拠はこれだけなのだが、何か事情があって偽物を名乗っている本物。いや、元々は本物の眷属だったが、何か問題を起こして解雇された眷属が、この女性なのではないかと感じた。
「貴女は、本当に偽者なのか?」
『……先からそう言っているじゃろう』
「体から、清らかな光が漏れ出ているよ」
 一瞬、これ以上先のセリフを言おうか迷ったが、思い切って問いただすことにした。
「本当は神族なんじゃないの?」
『…………』
 キツネ耳の女性は、一瞬だけ耳をピクリと動かし表情を曇らせたが、すぐに作り笑いをしながら僕を眺めた。
『悪魔は天使の姿を借りているものだ。火遊びはいかんぞ……若造』
「もし事情があって身分を明かせないなら、黙っているのも君の権利だ。だけど……僕はまだ死にたくないと思っている。何とか……ならないかな?」
『…………』
 そう。僕は恐らく死んでいるか、死の淵に立っているのかのどちらかだろう。
 神に近い力を持っている彼女の力を借りれば、奇跡的に生き延びたり、場合によっては暴走直前まで時間を戻すなんてことさえ出来そうに思えた。
 じっと眺めていると、そのキツネ耳の女性はじれったそうな顔をした。
『先から偽者と言っているじゃろう。話がそれだけなら、童は行くぞ』
「ま、まって!」
 
 追いかけようとしたとき、立ち眩みのようなものを感じてよろけてしまった。すると、キツネ耳の女性は振り返って僕を抱き寄せ、両手でしっかりと掴んで体を支えてくれた。
『急に駆け寄るでない』
「…………」
 体は暖かく柔らかいだけでなく、お日様のようないい匂いがする。
 思わず全身の力を抜き、彼女に身をゆだねていると、つい本音が口から漏れ出てしまった。
「僕は……こんなところで終わりたくない」
『そうは言われてものう……』
 彼女は困り顔になっていたが、それもまた愛らしかった。
 ここまで綺麗な彼女は高望みだが、こんな僕だって1度くらいは彼女が欲しかった。学校や職場が終わってから、せめてデートの1度くらいあっても良かったのではないか。
 何もなかった人生を振り返っていると、なんとも言えないやるせなさがこみあげてきた。
「ブラック企業に使い倒されたまま……のまま終わるのは……嫌だ」
『……仕方ない奴じゃのう』
 彼女はそういうと、僕の腰や頭に手を回した。
 キツネ耳の女性の体が密着すると僕は生唾を呑んだ。スポンジのように柔らかいし、彼女の胸が僕の体に当たって凄く女性らしさを感じる。心臓が壊れるくらいにドキドキと音を立てている。体中が緊張していく。
 女の子とキスしたことさえないやつが、寄りにもよって神様とイチャ付いてもいいのだろうか。死して巡ってきたチャンスへの興奮と、畏れ多さに指先を震わせていると、女性は言った。
『そういえば、童の体のベースとなっているのも、この谷の崖から身を投げた年頃の女じゃったな……こ奴にも、色恋ごとの1つでも体験させてやるか』

 僕は姿勢を直すと、そのまま唇を交わした。

【キツネ耳の女性】
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