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10.ソラが代表選手に
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フォセットとジルーは、ギルド寮の中を案内してくれた。
どうやらここには、ギルドメンバー専用の食堂や簡易バー、武具などを修繕する工房に、サウナなどの設備もあるようだ。
「どの施設も安値で使えるから本当に助かってるよ。全部自分で……となると、凄くお金がかかるからね」
ジルーは気楽そうに言っていたが、対照的にフォセットは難しい表情をしていた。
「ですが、Cグループに降格すると……使用料が上がったり、閉鎖される場所も出てきてしまうかもしれません」
「ま、まあね……」
詳しく聞いてみると、サファイアランスでは、全体のクエスト達成売上の半分以上を中層探索で稼いでいたらしく、中層探索が出来なくなると、ギルドが倒産したとしても不思議ではない。
「ちなみに、すでに多額の借金がギルドにあるとか……そういう悪いニュースはないよね?」
「そういう話は聞きませんね。むしろ、無借金経営を続けていたからこそ……外部から優秀な能力者をスカウトできなかったと思っています」
「考えてもみれば、私たちのお給料も安いもんね」
そんな話をしながら施設を見学していると、深刻な顔をしたフォセットの姉ロランスが歩いてきた。
「あ、ロランス隊長……どうしたんです? そんなに深刻な顔をして??」
ジルーが話しかけると、ロランスは足を止めた。
「実は困ったことがあってね……1週間後の最終戦に出場できる選手が、私を含めても5人しかいないの」
その言葉を聞いて、僕は生唾を呑んだ。
確か試合の時は控えを含めて12名いたはずである。Cグループへの脱落が決まっただけで、7人も離脱してしまうなんて驚きだ。それだけ選手たちに、ギルドへの不満が溜まっていたのだろうか。
「もし、人数を揃えられなかったら?」
そう質問してみると、ロランスは険しい表情のまま答えた。
「脱落が決まった時に脱退者が出るのは、スポンサーたちも承知してると思います。むしろ……次の最終戦で、Cグループで通用する戦力が残っているかを見ていると思います」
「な、なるほど……つまり、そこで不甲斐ない試合をすれば、彼らからも見捨てられるというワケか」
僕らだけでなく、近くにいたギルドメンバーたちも私語を止めて黙り込んでいた。
今残っているメンバーの中で、再就職先をすぐに決められるのは、ロランスやフォセットくらいなのだろう。他のメンバーは誰しもが不安そうな顔をしていた。
沈黙を破ったのはフォセットだったが、彼女も心配そうに姉を見た。
「ダンさんたちが居なくなった以上、姉さんが大将を務めるしかありませんね。先鋒は誰に?」
「Tランラ君に、お願いしようかと思っています」
変わった名前の人だなと思っていたら、簡易バーでビールを飲んでいた若いトラ獣人がむせ返っていた。どうやら、彼にとっては寝耳に水だったようだ。
「ほ、本気ですかロランス隊長……俺、補欠ヤローですよ?」
「貴方に断られると、もうジルーかマーチルに頼むしかなくなってしまうの」
そう言われると、Tランラも苦々しい表情をしたまま頭を掻いていた。彼女たちにギルドの先鋒は荷が重すぎると感じているのだろう。
「しょうがないっすね……わかりました。でも、あまり期待はしないでくださいよ」
「ありがとう。助かるわ」
ロランスは、次にフォセットを見た。
「フォセット。貴女も今まではサイドサポーターだったけれど、明日からは副将を担当して」
「わかりました。腕が鳴ります」
どうやら、次鋒に出場する2人は決まっているらしく、残るは中堅だけとなった。
いや、一番問題なのが中堅というべきか。ここはタダでさえ3対3の団体戦となるうえに、相手が名門ギルドにもなると魔獣を出してくることもある。
フォセットも心配そうにロランスを見た。
「問題は中堅戦ですよ姉さん。重戦士のムキムさんは残ってくれるそうですが……残り2人が問題です」
「そうですね……トラ獣人のマーチルは出場してくれると言ってくれていますが、残り1人が問題です」
「それなら、ジルーが出ましょうか?」
ジルーが言うと、Tランラが意見した。
「いやいや、先鋒戦ってケガがつき物なんだ。ジルちゃんが控えにいてくれねーと安心して戦えねーよ」
「確かにそうですね。ジルーは攻撃力も素早さも高い……」
話を聞いていたロランスは、悩ましい表情をしながら言った。
「今までのギルドのやり方には反しますが、私が中堅に行くしかありませんね。そうすれば……」
「いえ、姉さん……それなら姉さんは副将にいてください。私が中堅で戦います」
「いやいや、貴女たちは大事なヒーラーでしょ! ジルーがいくよ。ヒーラーに怪我されたら、治療する人がいなくなっちゃうし!」
「…………」
本音を言うと、武術大会のような危険なモノにはあまり参加したくはなかったが、ギルドでも冒険でも重要だと思われるヒーラーや、重要な控え選手であるジルーを危険な中堅戦に出すわけにはいかない。
「中堅戦なら僕が行くよ」
手を上げると、フォセットは驚いた様子で僕を見てきた。
「え? なぜ、危険な中堅戦にソラさんが!?」
「ジルーは先鋒の控えとして必要だし、君とお姉さんは、出るとしても副将戦でスタンバっておくべき人物だ」
フォセットは、まだ反対しそうなので、更に一押しすることにした。
「それに僕の特殊能力って、乱戦時にこそ力を発揮すると思うんだ。彼らは先読みが難しい動きをする」
「…………」
そう押し通すと、フォセットは不満そうな顔をしたまま黙り、話を聞いていたTランラもロランスを見た。
「隊長、彼の年俸……高めに設定してやってください」
「善処します」
こうしてギルド内の混乱は収まったが、僕の手は震えていた。
仕方なかったとはいえ、場合によっては魔獣とやり合うことにことになるのか。あのウマのような大きさのイヌが出てきたら……僕はビビらずに戦うことができるだろうか。
【ジルー ウェアウルフ19歳 女性】
固有特殊能力A:ブレイブ(レア度B:★★☆☆):敵から受ける恐怖効果を軽減する
固有特殊能力B:マイトパワー(レア度C:★☆☆):筋肉の密度を最大で、常人の250パーセントほど増幅する
固有特殊能力C:
実戦経験 C ★★★
作戦・判断 C ★★
勇猛さ B ★★★★☆☆
近接戦闘力 C ★★★☆
魔法戦闘力 E
投射戦闘力 D ★
防御力 C ★★
機動力 B ★★★★★
索敵能力 B ★★★★★
フォセット隊のアタッカーであり、先鋒を務めることの多い少女。
彼女の故郷は、男尊女卑の考えの特に強い地域だったらしく、女をモノ扱いする考えに反発。冒険者として一旗揚げるために冒険者街に出てきた経緯がある。
決して結婚の際に必要な、支度金を用意できなかった訳ではないと本人談(結婚時に、男性に払う支度金を稼ぐために、出稼ぎに出る獣人女性は多い)。
どうやらここには、ギルドメンバー専用の食堂や簡易バー、武具などを修繕する工房に、サウナなどの設備もあるようだ。
「どの施設も安値で使えるから本当に助かってるよ。全部自分で……となると、凄くお金がかかるからね」
ジルーは気楽そうに言っていたが、対照的にフォセットは難しい表情をしていた。
「ですが、Cグループに降格すると……使用料が上がったり、閉鎖される場所も出てきてしまうかもしれません」
「ま、まあね……」
詳しく聞いてみると、サファイアランスでは、全体のクエスト達成売上の半分以上を中層探索で稼いでいたらしく、中層探索が出来なくなると、ギルドが倒産したとしても不思議ではない。
「ちなみに、すでに多額の借金がギルドにあるとか……そういう悪いニュースはないよね?」
「そういう話は聞きませんね。むしろ、無借金経営を続けていたからこそ……外部から優秀な能力者をスカウトできなかったと思っています」
「考えてもみれば、私たちのお給料も安いもんね」
そんな話をしながら施設を見学していると、深刻な顔をしたフォセットの姉ロランスが歩いてきた。
「あ、ロランス隊長……どうしたんです? そんなに深刻な顔をして??」
ジルーが話しかけると、ロランスは足を止めた。
「実は困ったことがあってね……1週間後の最終戦に出場できる選手が、私を含めても5人しかいないの」
その言葉を聞いて、僕は生唾を呑んだ。
確か試合の時は控えを含めて12名いたはずである。Cグループへの脱落が決まっただけで、7人も離脱してしまうなんて驚きだ。それだけ選手たちに、ギルドへの不満が溜まっていたのだろうか。
「もし、人数を揃えられなかったら?」
そう質問してみると、ロランスは険しい表情のまま答えた。
「脱落が決まった時に脱退者が出るのは、スポンサーたちも承知してると思います。むしろ……次の最終戦で、Cグループで通用する戦力が残っているかを見ていると思います」
「な、なるほど……つまり、そこで不甲斐ない試合をすれば、彼らからも見捨てられるというワケか」
僕らだけでなく、近くにいたギルドメンバーたちも私語を止めて黙り込んでいた。
今残っているメンバーの中で、再就職先をすぐに決められるのは、ロランスやフォセットくらいなのだろう。他のメンバーは誰しもが不安そうな顔をしていた。
沈黙を破ったのはフォセットだったが、彼女も心配そうに姉を見た。
「ダンさんたちが居なくなった以上、姉さんが大将を務めるしかありませんね。先鋒は誰に?」
「Tランラ君に、お願いしようかと思っています」
変わった名前の人だなと思っていたら、簡易バーでビールを飲んでいた若いトラ獣人がむせ返っていた。どうやら、彼にとっては寝耳に水だったようだ。
「ほ、本気ですかロランス隊長……俺、補欠ヤローですよ?」
「貴方に断られると、もうジルーかマーチルに頼むしかなくなってしまうの」
そう言われると、Tランラも苦々しい表情をしたまま頭を掻いていた。彼女たちにギルドの先鋒は荷が重すぎると感じているのだろう。
「しょうがないっすね……わかりました。でも、あまり期待はしないでくださいよ」
「ありがとう。助かるわ」
ロランスは、次にフォセットを見た。
「フォセット。貴女も今まではサイドサポーターだったけれど、明日からは副将を担当して」
「わかりました。腕が鳴ります」
どうやら、次鋒に出場する2人は決まっているらしく、残るは中堅だけとなった。
いや、一番問題なのが中堅というべきか。ここはタダでさえ3対3の団体戦となるうえに、相手が名門ギルドにもなると魔獣を出してくることもある。
フォセットも心配そうにロランスを見た。
「問題は中堅戦ですよ姉さん。重戦士のムキムさんは残ってくれるそうですが……残り2人が問題です」
「そうですね……トラ獣人のマーチルは出場してくれると言ってくれていますが、残り1人が問題です」
「それなら、ジルーが出ましょうか?」
ジルーが言うと、Tランラが意見した。
「いやいや、先鋒戦ってケガがつき物なんだ。ジルちゃんが控えにいてくれねーと安心して戦えねーよ」
「確かにそうですね。ジルーは攻撃力も素早さも高い……」
話を聞いていたロランスは、悩ましい表情をしながら言った。
「今までのギルドのやり方には反しますが、私が中堅に行くしかありませんね。そうすれば……」
「いえ、姉さん……それなら姉さんは副将にいてください。私が中堅で戦います」
「いやいや、貴女たちは大事なヒーラーでしょ! ジルーがいくよ。ヒーラーに怪我されたら、治療する人がいなくなっちゃうし!」
「…………」
本音を言うと、武術大会のような危険なモノにはあまり参加したくはなかったが、ギルドでも冒険でも重要だと思われるヒーラーや、重要な控え選手であるジルーを危険な中堅戦に出すわけにはいかない。
「中堅戦なら僕が行くよ」
手を上げると、フォセットは驚いた様子で僕を見てきた。
「え? なぜ、危険な中堅戦にソラさんが!?」
「ジルーは先鋒の控えとして必要だし、君とお姉さんは、出るとしても副将戦でスタンバっておくべき人物だ」
フォセットは、まだ反対しそうなので、更に一押しすることにした。
「それに僕の特殊能力って、乱戦時にこそ力を発揮すると思うんだ。彼らは先読みが難しい動きをする」
「…………」
そう押し通すと、フォセットは不満そうな顔をしたまま黙り、話を聞いていたTランラもロランスを見た。
「隊長、彼の年俸……高めに設定してやってください」
「善処します」
こうしてギルド内の混乱は収まったが、僕の手は震えていた。
仕方なかったとはいえ、場合によっては魔獣とやり合うことにことになるのか。あのウマのような大きさのイヌが出てきたら……僕はビビらずに戦うことができるだろうか。
【ジルー ウェアウルフ19歳 女性】
固有特殊能力A:ブレイブ(レア度B:★★☆☆):敵から受ける恐怖効果を軽減する
固有特殊能力B:マイトパワー(レア度C:★☆☆):筋肉の密度を最大で、常人の250パーセントほど増幅する
固有特殊能力C:
実戦経験 C ★★★
作戦・判断 C ★★
勇猛さ B ★★★★☆☆
近接戦闘力 C ★★★☆
魔法戦闘力 E
投射戦闘力 D ★
防御力 C ★★
機動力 B ★★★★★
索敵能力 B ★★★★★
フォセット隊のアタッカーであり、先鋒を務めることの多い少女。
彼女の故郷は、男尊女卑の考えの特に強い地域だったらしく、女をモノ扱いする考えに反発。冒険者として一旗揚げるために冒険者街に出てきた経緯がある。
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