チート能力【九尾の力】が、異世界でどこまで通用するのか試してみる ~ナインテール・アタッカー~

スィグトーネ

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14.今シーズンの最終戦に向けて

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 そういえば試合当日の日に、僕は夢を見ていた。
 夢の中は霧に包まれており、僕と逸れ稲荷しかいなかったが不思議と怒りや憎しみと言った感情が沸き上がってくることはなかった。
「お、お前は……!」
『傍から見せてもらっていたが、頑張っておるな』
 僕は少し肩の力を抜くことにした。
 逸れ稲荷の色仕掛けに引っかかった僕もマヌケなんだ。ここで悪態をついていてはみっともない。なるべく、普通に応対しようと思う。
「フォセットたちの近くに送り届けてくれて感謝するよ。最初に会ったのが彼女たちでなければ、初日に脱落してもおかしくなかった」
 感謝の言葉を伝えると、逸れ稲荷は、嬉しいような困ったような表情を浮かべた。
『あれはの……童が意図してやったことではない』
「え……?」
『お主の前世が死んだ直後に、たまたまフォセット達がいたのじゃ』
 なるほど。つまり単なる巡り合わせというわけか。
『とにかく、他人との縁は大切にせよ。童を倒したければ……まずは、そこからじゃ』
 夢は少しずつ蒸発していき、僕は目覚めていた。

――――――――
――――
――

「……塩を送ってくる段階。まだまだ僕では、脅威にすらならなっていないということか」

 朝食を終えると、僕たちはすぐにミーティングとなった。
 ここでは、今日の対戦相手であるウルフアローズの情報交換や、こちら側の出場選手の調子に関しての確認を行う。まあ、コンディションの良し悪しでポジション交代をするかを、ギルド長と、チームリーダーであるロランス(フォセットの姉)を交えて話し合っているわけだ。
 ちなみに、サファイアランスのギルド長は人魚……つまりマーフォークだが、事務・経理関係から抜擢された人物らしく、戦闘力はそれほど高くないという。
「特に調子の悪い選手はいないようです」
「わかった。では、当初の予定通りの編成で試合を行おう」
「はい!」
 予定通り、先鋒はTランラ、次鋒はベテラン選手2人、中堅は僕、マーチル、ムキム、副将はロランスorフォセットという形になった。
 ギルド長は言う。
「スポンサーたちも、我らの降格と不調を憂慮しているそうだ。筆頭スポンサーからは、とにかくどこか1か所でいいからポイントを取ってくれとお言葉を頂いている」
 その一言を聞いただけでも、今のサファイアランスが苦境に立たされていることがわかる。普通のスポンサーなら、地域住民のために勝利をとか、全勝で勝てとか力強い言葉をかけてくるものだと思う。
 しかも選手たちさえ、どこか思いつめたような顔をしていた。
「…………」
 会議室の空気を目の当たりにして、このままではいけないと直感した。
 新人である僕がしっかりしなければと、突き動かされるモノが込み上げてくる。
「みんな! せめて1勝とかじゃなくって……勝とう! 応援しに来ている人たちは、ギルドが勝つために声援を送ってくれているんだから!!」
「…………」
「…………」
 一同は静まり返って僕を眺め、しばらくポカンとしていた。
 全員の視線が僕に向いた。というか刺さると表現すべき状況になって、僕は思わず自分は何か問題発言をしただろうかと考えている。いや、何も間違ったことは言ってない。言ってないはず。言ってないよ……な?
 Tランラは、頭を掻きながら言った。
「そりゃ、俺だって勝ちたいよ……だけどさ、主力に見捨てられたんだ……俺たち」
「…………」
 その現実を突きつける言葉を聞いた一行は、再び視線を下げた。ギルド長やチームリーダーのロランスさえ、困り顔になっていて、どのように声をかければいいのかわからない状況だ。
 こんな状況だからこそ、僕が、何も試合のことを知らないソラが……みんなの青空にならないと!
「主力とか実力とか、冒険者の常識なんて知らないよ。僕にとっては、代表選手がきちんと揃っている……その事実があるだけさ」
「…………」
「…………」
 再び、沈黙だ。
 頼むから、みんなでじっと僕を眺めるのをやめてくれ。この何言ってんのお前……みたいな空気が、凄く痛いんだよ。
 少し空気に耐えていると、Tランラが言った。
「はははは……まあ、お前さんのように前向きに考えないとな。サンキュ」
「そうだよね~」
「少しは、ソラ君を見習って、ポジティブに行こうか?」
「そうだな」
 Tランラが言うと、他の代表選手たちも力なく笑っていた。僕なりに空気を入れ替えるために動いてみたが、彼らの意識を燃え上がらせることはできなかったらしい。
 この後、相手チームの戦力分析なども行ったが、仲間たちはそれほど身が入らなかったらしく、如何にして負けてスポンサーや観客たちを納得させるのか、そればっかりを気にしている状況だった。

 そして17時。
 冒険者街の職人や商人たちが一仕事終えて娯楽を求めはじめるころ、ライバルであるウルフアローズが姿を現した。代表選手のうち6名がウェアウルフという、かなり尖った編成をしている。
 手強い試合になりそうだと思っていると、隣に立っていたフォセットが「あれ……?」と言いながら、相手チームを眺めていた。
「どうしたんだいフォセット?」
「それが……相手チームの人数が2人足らないのです」
 代表選手は12名をエントリーできるはずだ。ウルフアローズの現在順位は7位。一つでも多くの勝ち星を得たいときに、代表選手が2人も欠けるなんてことがあるだろうか。
 首を捻っていると、ギルドの入り口から「はい、退いて退いて!」という声が聞こえてきた。
「……? ああ!」
「え? ひっ!?」
 今のは、Tランラとフォセットの叫び声だ。特にフォセットの声は裏返っていた。
「…………」
 何かと思って視線を向けると、まだ幼いケモミミ女の子が、ウマほどの大きさの魔獣オルトロスの背に乗って、ギルドの中へと入ってきたのである。彼女の胸にはウルフアローズのバッジが光っていた。
「ま、魔獣がいるなんて聞いてねえぞ!」
 Tランラが毛を逆立てた直後、マーチルが尻もちをついて転倒してしまった。
「ま、マーチル!?」
「だ、大丈夫ですか?」
 彼女は、膝を震わせ涙目になりながら、声を絞り出す。
「ご、ごめん……中堅戦……無理!」

 僕も思わず生唾を呑んでいた。
 相手も冒険者街の上位20位以内に居続けるギルドなんだ。会議室では気合とか空気とか言ってしまったが、そんな素人判断で勝てるほど……甘い試合じゃない。


【Tランラ ワータイガー26歳 男性】

固有特殊能力A:タフガイ(レア度C:★☆☆):基礎体力を向上し、病気・ケガからの回復を早める
固有特殊能力B:テラー(レア度B:★☆☆☆):周囲の敵に恐怖心を与え、基礎能力を下げる
固有特殊能力C:
実戦経験    C ★★★★
作戦・判断   C ★★
勇猛さ     B ★★★★★
近接戦闘力   B ★★★★★
魔法戦闘力   E
投射戦闘力   D ★
防御力     C ★★★★
機動力     B ★★★★★★
索敵能力    C ★★★

 サファイアランスのベテランギルドメンバー。
 元々代表選手の補欠だったが、主力組の脱退によって押し出されるように先鋒という大役を任されることになった。
 ちなみにギルド内での役職は小隊長。彼のパーティーは全員が獣人で構成されている。
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