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35.森の奥から現れた者
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だいぶエルフの里に近づいたとき、管狐の1匹が僕の耳元でささやいてきた。
「え……? マーチルが!?」
そう言いながら後ろを振り返ると、管狐の言った通り最後尾を守っているはずのマーチルの姿がなくなっている。これには、僕だけでなくフォセットやジルー、更にはロランスさえ驚きを隠せなかったようだ。
「ほ、本当だ……マーチルがいない!」
「どこに置いてきてしまったのでしょう!?」
慌てるフォセット・ジルー・ラックドナとは対照的に、ロランスは目を細めた。
「フォセット……周囲のマナの様子を確認して」
「はい!」
フォセットは僕の体にしがみつくと、霊力を頭部へと集中した。
僕自身は彼女の姿を見ることはできないけれど、彼女の目や耳、更には鼻の辺りのオーラ量が普段の5倍ほどになっているのが伝わってくる。
およそ3秒ほどで、フォセットは言った。
「後ろです……5時半の方角から、今までに見たことのない禍々しい気を感じます」
「……陣形Cで迎え撃ちましょう。ソラを中心に戦闘態勢!」
「うん!」
「承知しました」
ロランスが号令をかけると、ジルー、ラックドナが僕の両翼に着き、更にロランスが前方を守ってくれた。
フォセットも、僕の背中で長弓をスタンバイしている。僕自身も穴あき大盾を地面に配置。その内側には管狐5匹を待機させた。
鬼が出るか蛇が出るか……そう思いながら待機していると、姿を現したのはマーチルだった。
「ごめ~~~ん、みんな」
「マーチル……どうしたのよ!?」
ジルーが緊張を解いて聞くと、マーチルは誤魔化すように笑う。
「いやいや、美味しそうな野イチゴが生えてたからさぁ~ ついつい摘まんで来ちゃった♪」
「もう、人騒がせだよぉ」
ジルー、ラックドナ、ロランスの3人は、やれやれと言いたそうに警戒を解いたが、ただひとりフォセットだけは違った。
「そこで止まってマーチル!」
「え? なあに??」
「貴女……いつの間に、尻尾が2つになったの?」
「……!」
フォセットに指摘されて、はじめて僕も気が付いた。
よく見ればマーチルの尻尾が2つ。それも、彼女はネコのような尻尾のはずなのに、片方がまるでジルーの尻尾のようにふさふさとしている。
はっきり言って、ワータイガーの種族に合っていない異物だ。
更にフォセットの追及が続く。
「それに、巧妙に誤魔化していますが……普段とマナの巡り方も違います」
「…………」
「……貴方は誰!?」
フォセットが声を荒げると、マーチルに取りついている何かはクツクツという笑い声をあげはじめた。
『いい仲間に巡り合えたようじゃな……ソラ』
「逸れ稲荷……」
『お主も、なかなか頑張っているようじゃが、この程度で満足して貰っても困るのでな……少しばかり、世間というモノを知ってもらおうと思う』
そう言うと逸れ稲荷は、マーチルに両手を広げさせた。
すると彼女の霊力が燃え上がるように広がり、まるで大きなキツネのような形状へと変化していく。すると、マーチルは白目を剥いて地面へと倒れ込み、大キツネのような霊気だけが独り歩きをはじめた。
『これで、仲間が人質に取られて満足に戦えません……なんて言い訳は通じぬぞ』
「……のこのこ出てきたのが運のツキだ。ここでお前を倒してやる!」
『おもしろい、ちょうどいい賞品も手に入ったゆえ……存分に腕を振るうがいい!』
霊体キツネが突っ込んでくると、先頭に立っていたロランスはレイピアを突き出した。
「破ァッ!」
その刃先が霊体キツネに触れると、白い筋が素早く伸びて電撃が発生。霊体キツネの体が一瞬でワンサイズ小さくなった。
霊体キツネは慌てた様子で下がると、ぞろりと牙でも見せるような動きをした。
『おお……今のは効いたぞ! 褒めて遣わす!!』
余裕たっぷりのキツネとは対照的に、ロランスの表情は一気に険しくなっていた。恐らく、初撃で仕留めるつもりだったのだろう。
「くっ……次こそ仕留める!」
『はっはっは……それは楽しみじゃな!』
そう叫びながら、大キツネは再び正面から突っ込んできた。
ロランスは先ほどと同じようにレイピアを突き出すと、大キツネは体に貫通する瞬間に、複数の管狐に分裂。合計30匹くらいの管狐が、自立行動をしながらロランスに向かってきた。
「ジルー、ドナ……姉さんの援護を!」
「うん!」
「はい!」
ジルーは素早い動きでフォローに入り、ラックドナも弓矢で1匹ずつ敵管狐を倒していくが、さすがに30匹以上も管狐がいると処理が間に合わない。
次々と敵管狐は、ロランスに噛みつきをしてきた。
「迂闊な!」
すると彼女は、自分の周囲に電気を放出して、不用意に近づいてきた敵管狐を感電させた。
一気に4匹の管狐が崩れ落ち、追い打ちをかけようとしてきた敵管狐も、引き返してロランスと距離を取っている。これで敵管狐の数は23匹だ。
ロランスもレイピアを握り直した。
「このまま数を減らしましょう!」
「うん!」
「ええ!」
『この程度で勝ったと思わぬことじゃ!』
逸れ稲荷の号令と共に、23匹の敵管狐が突っ込んできた。その狙いはロランスだ。まずは飽和攻撃で、僕たちの陣営の飛車を取りに来たという感じか。
「あなた!」
「ああ!」
僕もまた、管狐5匹に指示を出した。迎撃指示ではなく、ロランスやジルーの死角となる場所に管狐を配置するという、いわば直掩のようなイメージである。
『ギュイギュイ……ギー!』
『ギギ……ガーーーー!』
管狐たちは指示を守り、敵管狐を深追いせずに追い返すことを繰り返した。
この行動自体では敵管狐の数は減らないが、その間にロランス・ジルー・フォセット・ラックドナが敵を確実に1匹ずつ仕留めてくれるから、時間が経てば経つほど敵の頭数が減っていく。
やがて、敵管狐の数が16匹まで減ったとき、勝利の手ごたえを感じた。
すでに3割以上の敵管狐が消滅しており、一斉攻撃も脅威に感じないほどに攻撃力が下がっている。
「よし、お前たち……攻撃に転じてくれ!」
『キュイー!』
ジルーやラックドナも、僕の管狐の攻撃に合わせて攻めへと転じた。
すると、数が14、13、12と見る見る減っていく。フォセットも大弓を放ち、敵管狐の数を残り9まで減らしたとき、草むらが揺れた。
「あなた!」
フォセットが叫んだ直後、尻の辺りから痛みを感じた。
視線を腰へと向けると、そこには禍々しいオーラを纏った逸れ稲荷の管狐が、しっかりと僕の尻に食いついていた。
【大キツネ】
「え……? マーチルが!?」
そう言いながら後ろを振り返ると、管狐の言った通り最後尾を守っているはずのマーチルの姿がなくなっている。これには、僕だけでなくフォセットやジルー、更にはロランスさえ驚きを隠せなかったようだ。
「ほ、本当だ……マーチルがいない!」
「どこに置いてきてしまったのでしょう!?」
慌てるフォセット・ジルー・ラックドナとは対照的に、ロランスは目を細めた。
「フォセット……周囲のマナの様子を確認して」
「はい!」
フォセットは僕の体にしがみつくと、霊力を頭部へと集中した。
僕自身は彼女の姿を見ることはできないけれど、彼女の目や耳、更には鼻の辺りのオーラ量が普段の5倍ほどになっているのが伝わってくる。
およそ3秒ほどで、フォセットは言った。
「後ろです……5時半の方角から、今までに見たことのない禍々しい気を感じます」
「……陣形Cで迎え撃ちましょう。ソラを中心に戦闘態勢!」
「うん!」
「承知しました」
ロランスが号令をかけると、ジルー、ラックドナが僕の両翼に着き、更にロランスが前方を守ってくれた。
フォセットも、僕の背中で長弓をスタンバイしている。僕自身も穴あき大盾を地面に配置。その内側には管狐5匹を待機させた。
鬼が出るか蛇が出るか……そう思いながら待機していると、姿を現したのはマーチルだった。
「ごめ~~~ん、みんな」
「マーチル……どうしたのよ!?」
ジルーが緊張を解いて聞くと、マーチルは誤魔化すように笑う。
「いやいや、美味しそうな野イチゴが生えてたからさぁ~ ついつい摘まんで来ちゃった♪」
「もう、人騒がせだよぉ」
ジルー、ラックドナ、ロランスの3人は、やれやれと言いたそうに警戒を解いたが、ただひとりフォセットだけは違った。
「そこで止まってマーチル!」
「え? なあに??」
「貴女……いつの間に、尻尾が2つになったの?」
「……!」
フォセットに指摘されて、はじめて僕も気が付いた。
よく見ればマーチルの尻尾が2つ。それも、彼女はネコのような尻尾のはずなのに、片方がまるでジルーの尻尾のようにふさふさとしている。
はっきり言って、ワータイガーの種族に合っていない異物だ。
更にフォセットの追及が続く。
「それに、巧妙に誤魔化していますが……普段とマナの巡り方も違います」
「…………」
「……貴方は誰!?」
フォセットが声を荒げると、マーチルに取りついている何かはクツクツという笑い声をあげはじめた。
『いい仲間に巡り合えたようじゃな……ソラ』
「逸れ稲荷……」
『お主も、なかなか頑張っているようじゃが、この程度で満足して貰っても困るのでな……少しばかり、世間というモノを知ってもらおうと思う』
そう言うと逸れ稲荷は、マーチルに両手を広げさせた。
すると彼女の霊力が燃え上がるように広がり、まるで大きなキツネのような形状へと変化していく。すると、マーチルは白目を剥いて地面へと倒れ込み、大キツネのような霊気だけが独り歩きをはじめた。
『これで、仲間が人質に取られて満足に戦えません……なんて言い訳は通じぬぞ』
「……のこのこ出てきたのが運のツキだ。ここでお前を倒してやる!」
『おもしろい、ちょうどいい賞品も手に入ったゆえ……存分に腕を振るうがいい!』
霊体キツネが突っ込んでくると、先頭に立っていたロランスはレイピアを突き出した。
「破ァッ!」
その刃先が霊体キツネに触れると、白い筋が素早く伸びて電撃が発生。霊体キツネの体が一瞬でワンサイズ小さくなった。
霊体キツネは慌てた様子で下がると、ぞろりと牙でも見せるような動きをした。
『おお……今のは効いたぞ! 褒めて遣わす!!』
余裕たっぷりのキツネとは対照的に、ロランスの表情は一気に険しくなっていた。恐らく、初撃で仕留めるつもりだったのだろう。
「くっ……次こそ仕留める!」
『はっはっは……それは楽しみじゃな!』
そう叫びながら、大キツネは再び正面から突っ込んできた。
ロランスは先ほどと同じようにレイピアを突き出すと、大キツネは体に貫通する瞬間に、複数の管狐に分裂。合計30匹くらいの管狐が、自立行動をしながらロランスに向かってきた。
「ジルー、ドナ……姉さんの援護を!」
「うん!」
「はい!」
ジルーは素早い動きでフォローに入り、ラックドナも弓矢で1匹ずつ敵管狐を倒していくが、さすがに30匹以上も管狐がいると処理が間に合わない。
次々と敵管狐は、ロランスに噛みつきをしてきた。
「迂闊な!」
すると彼女は、自分の周囲に電気を放出して、不用意に近づいてきた敵管狐を感電させた。
一気に4匹の管狐が崩れ落ち、追い打ちをかけようとしてきた敵管狐も、引き返してロランスと距離を取っている。これで敵管狐の数は23匹だ。
ロランスもレイピアを握り直した。
「このまま数を減らしましょう!」
「うん!」
「ええ!」
『この程度で勝ったと思わぬことじゃ!』
逸れ稲荷の号令と共に、23匹の敵管狐が突っ込んできた。その狙いはロランスだ。まずは飽和攻撃で、僕たちの陣営の飛車を取りに来たという感じか。
「あなた!」
「ああ!」
僕もまた、管狐5匹に指示を出した。迎撃指示ではなく、ロランスやジルーの死角となる場所に管狐を配置するという、いわば直掩のようなイメージである。
『ギュイギュイ……ギー!』
『ギギ……ガーーーー!』
管狐たちは指示を守り、敵管狐を深追いせずに追い返すことを繰り返した。
この行動自体では敵管狐の数は減らないが、その間にロランス・ジルー・フォセット・ラックドナが敵を確実に1匹ずつ仕留めてくれるから、時間が経てば経つほど敵の頭数が減っていく。
やがて、敵管狐の数が16匹まで減ったとき、勝利の手ごたえを感じた。
すでに3割以上の敵管狐が消滅しており、一斉攻撃も脅威に感じないほどに攻撃力が下がっている。
「よし、お前たち……攻撃に転じてくれ!」
『キュイー!』
ジルーやラックドナも、僕の管狐の攻撃に合わせて攻めへと転じた。
すると、数が14、13、12と見る見る減っていく。フォセットも大弓を放ち、敵管狐の数を残り9まで減らしたとき、草むらが揺れた。
「あなた!」
フォセットが叫んだ直後、尻の辺りから痛みを感じた。
視線を腰へと向けると、そこには禍々しいオーラを纏った逸れ稲荷の管狐が、しっかりと僕の尻に食いついていた。
【大キツネ】
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