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36.霊力と妖力の戦い
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逸れ稲荷の管狐は、僕の尻に噛みついたまま不敵な笑みを浮かべていた。
その表情はどうみても、僕の慢心をあざ笑っている。悔しさと情けなさで体が熱くなったとき、逸れ稲荷の管狐の口からおぞましい瘴気が流れ込んできた。
僕の腰の辺りは、一瞬でコントロール能力を失い、続いて右足がやられ、次に左足と、次々と瘴気に負けて僕の体が陥落していく。
「…………」
このまま、体が乗っ取られてしまうと弱気に思ったとき、僕を抱きしめてくれる存在がいた。
フォセットだ。感覚の鋭い彼女は、一瞬で僕が弱気になったことを察して、励ましてくれている。その気持ちがとても有難いし暖かい。
僕は、絶対に負けるものかと強く思った。
霊力を燃え上がらせると、今まで優勢だった妖気は少しずつ後退しはじめた。
おかげでへその下あたりまで僕自身の体を取り返すことが出来たけれど、ここで逸れ稲荷の管狐は、再び僕の体のコントロールを得ようと妖気を送り込んできた。
もちろん僕も負けるつもりはない。更に霊力を捻りだそうとすると、フォセットは優しく僕の両耳の下の首筋を触ってきた。アヴェリーノの話によると、確か霊力のツボがあって、ここを触るとリラックスさせることができるという。
これはつまり、慌てるなと言いたいのか。でも、その意図は何だろうと思っていると、ラックドナが敵管狐の1匹を射抜いた。
どうやら敵管狐たちは、いつの間にか正面から戦うことを諦めて、時間稼ぎに戦術を変更したらしい。僕の5匹の管狐やジルーは、次々と敵管狐を追い立てたが、元々この生き物はかく乱が得意な生き物である。
僕はしばらくの間、仲間と敵のやり取りを眺めていたが、やがてフォセットの意図がわかったように思えた。
恐らく彼女は、仲間が応援に来るまで守りを固めるべきと言いたいのだろう。直接口に出さなかったのは、逸れ稲荷に聞かれると面倒だからだろう。
助言通りに僕自身も持久戦をはじめると、尻に噛みついている管狐は意地になって妖気を送り込んできた。仲間たちが時間稼ぎをしている間に、僕の体をコントロールしてしまおうという魂胆なのがわかる。
負けてたまるかという気持ちが沸き起こったが、あくまで僕がやることは持久戦だ。仲間たちが別動隊を倒し終えるまで持たせればいい。少しずつ妖気が腹部を上がっていくが、僕は霊力を捻りだして押し返しにかかった。
「…………」
しばらく敵管狐と霊気と妖気の押し合いを続けると、相手の管狐の力が弱りはじめた。
そう言えば管狐は、主が近くにいて霊力を補充し続けないと、少しずつ力を失っていくんだった。ごくごく当たり前のことを思い出して押し返しにかかると、フォセットは驚いた様子で弓を藪に向けた。
矢が放たれると、藪から飛び出した敵管狐の頭に命中して、そのまま体は崩壊した。
すると体から流れ出た瘴気が煙幕のようになり、そこから別の敵管狐が飛び出してきて、僕の左尻の部分に食いつかれた。
「ああっ!」
フォセットが動揺した声を上げると、空で戦っていた僕の管狐たちは次々と僕の所へと救援に来た。
すると、敵管狐は散り散りになって逃げだしていく。僕の管狐は僕の尻に食いついている敵管狐の体に食いついたが、次々と瘴気を帯びて崩壊していく。
一方、敵の管狐は2対1の状況を利用して、一気に僕の体を乗っ取りにかかった。
「く……くそっ!」
敵管狐の妖気は、僕の腹部を攻略すると、次に肺や心臓部の攻略を開始した。
ここを取られたら、僕の体は完全にコントロールを奪われてしまう。じりじりと臓器が攻略されていくなか、僕はふと少し昔のことを思い出した。
――そういえば、僕はもともと逸れ稲荷に体のコントロールを奪われかけていたんだった
そんな状態でも、何不自由なく生活はできていたし、何なら奴の技まで使える状況になっている。
この敵管狐も、基本的には僕の管狐と大した違いはないのではないだろうか。そう思ったとき、僕の尻に食いついている敵管狐を掴んでいた。
『??……!?』
管狐たちは、しばらく混乱した様子だったが、僕は構わず敵管狐の体に自分の霊力を送り込むことにした。
肺が乗っ取られようが、心臓が奪われようが、この管狐たちを自分の管狐だと考えると、コントロールを取られることに恐ろしさは感じなかった。
それどころか、自分にも尻尾が生えたと考えると、なんだか可愛い奴らにも思えてくる。
すでに心臓のコントロールは奪われ、肩甲骨や肋骨の辺りまで妖気が迫ってきたが、僕は構わず管狐たちの首筋を掴み続けた。自分の体の一部だとイメージすると、こいつらの頭は徐々になくなっていき、本当に透き通った僕の尻尾のように形状が変化していく。
その時に、フォセットが僕の手を優しく掴むと、敵管狐の首のあたりまで動かした。
「…………」
「…………」
「そ、ソラ君の……体……」
「浄化……されていきますね……」
ジルーやラックドナが言う通り、僕の体の中では敵管狐を浄化して得た新たな霊気の再構築を行っていた。
この配分をミスすると、僕の体のバランスが崩れて病気になったりもするのだが、背中にフォセットがいるおかげでサポートを受けることができた。
「あなた、とりあえず応急処置は終わりました。故郷に戻ったらすぐに休んでください」
「ありがとう」
ジルーたちも、倒れているマーチルを抱き起すと、すぐに移動を再開した。
【ソラ ヒューマン27歳 男性】
固有特殊能力A:ナインテール(レア度S:★★★☆☆☆☆):複数の管狐を使役できる
固有特殊能力B:ステータス看破(レア度A:★★☆☆☆):ターゲットの能力を暫定的に調べる
固有特殊能力C:不明
実戦経験 C ★★★★
作戦・判断力 B ★★★★★☆
勇猛さ B ★★★★☆
近接戦闘力 B ★★☆☆☆
魔法戦闘力 B ★★★☆☆☆
投射戦闘力 B ★★☆☆☆
防御力 B ★★☆☆☆
機動力 B ★★☆☆☆
索敵能力 B ★★☆☆☆
コボルド使いとの戦いを行き抜き、更に、逸れ稲荷がけしかけてきた管狐を取り込んだソラ。
彼が霊力を放つと、キツネの尻尾のような霊力の塊が2.5本現れ、それぞれから管狐を放つことも、尻尾自体を大きな鞭や盾として運用することができる。
どの程度の数の管狐を操れるようになったのかは、まだわかっていない。
その表情はどうみても、僕の慢心をあざ笑っている。悔しさと情けなさで体が熱くなったとき、逸れ稲荷の管狐の口からおぞましい瘴気が流れ込んできた。
僕の腰の辺りは、一瞬でコントロール能力を失い、続いて右足がやられ、次に左足と、次々と瘴気に負けて僕の体が陥落していく。
「…………」
このまま、体が乗っ取られてしまうと弱気に思ったとき、僕を抱きしめてくれる存在がいた。
フォセットだ。感覚の鋭い彼女は、一瞬で僕が弱気になったことを察して、励ましてくれている。その気持ちがとても有難いし暖かい。
僕は、絶対に負けるものかと強く思った。
霊力を燃え上がらせると、今まで優勢だった妖気は少しずつ後退しはじめた。
おかげでへその下あたりまで僕自身の体を取り返すことが出来たけれど、ここで逸れ稲荷の管狐は、再び僕の体のコントロールを得ようと妖気を送り込んできた。
もちろん僕も負けるつもりはない。更に霊力を捻りだそうとすると、フォセットは優しく僕の両耳の下の首筋を触ってきた。アヴェリーノの話によると、確か霊力のツボがあって、ここを触るとリラックスさせることができるという。
これはつまり、慌てるなと言いたいのか。でも、その意図は何だろうと思っていると、ラックドナが敵管狐の1匹を射抜いた。
どうやら敵管狐たちは、いつの間にか正面から戦うことを諦めて、時間稼ぎに戦術を変更したらしい。僕の5匹の管狐やジルーは、次々と敵管狐を追い立てたが、元々この生き物はかく乱が得意な生き物である。
僕はしばらくの間、仲間と敵のやり取りを眺めていたが、やがてフォセットの意図がわかったように思えた。
恐らく彼女は、仲間が応援に来るまで守りを固めるべきと言いたいのだろう。直接口に出さなかったのは、逸れ稲荷に聞かれると面倒だからだろう。
助言通りに僕自身も持久戦をはじめると、尻に噛みついている管狐は意地になって妖気を送り込んできた。仲間たちが時間稼ぎをしている間に、僕の体をコントロールしてしまおうという魂胆なのがわかる。
負けてたまるかという気持ちが沸き起こったが、あくまで僕がやることは持久戦だ。仲間たちが別動隊を倒し終えるまで持たせればいい。少しずつ妖気が腹部を上がっていくが、僕は霊力を捻りだして押し返しにかかった。
「…………」
しばらく敵管狐と霊気と妖気の押し合いを続けると、相手の管狐の力が弱りはじめた。
そう言えば管狐は、主が近くにいて霊力を補充し続けないと、少しずつ力を失っていくんだった。ごくごく当たり前のことを思い出して押し返しにかかると、フォセットは驚いた様子で弓を藪に向けた。
矢が放たれると、藪から飛び出した敵管狐の頭に命中して、そのまま体は崩壊した。
すると体から流れ出た瘴気が煙幕のようになり、そこから別の敵管狐が飛び出してきて、僕の左尻の部分に食いつかれた。
「ああっ!」
フォセットが動揺した声を上げると、空で戦っていた僕の管狐たちは次々と僕の所へと救援に来た。
すると、敵管狐は散り散りになって逃げだしていく。僕の管狐は僕の尻に食いついている敵管狐の体に食いついたが、次々と瘴気を帯びて崩壊していく。
一方、敵の管狐は2対1の状況を利用して、一気に僕の体を乗っ取りにかかった。
「く……くそっ!」
敵管狐の妖気は、僕の腹部を攻略すると、次に肺や心臓部の攻略を開始した。
ここを取られたら、僕の体は完全にコントロールを奪われてしまう。じりじりと臓器が攻略されていくなか、僕はふと少し昔のことを思い出した。
――そういえば、僕はもともと逸れ稲荷に体のコントロールを奪われかけていたんだった
そんな状態でも、何不自由なく生活はできていたし、何なら奴の技まで使える状況になっている。
この敵管狐も、基本的には僕の管狐と大した違いはないのではないだろうか。そう思ったとき、僕の尻に食いついている敵管狐を掴んでいた。
『??……!?』
管狐たちは、しばらく混乱した様子だったが、僕は構わず敵管狐の体に自分の霊力を送り込むことにした。
肺が乗っ取られようが、心臓が奪われようが、この管狐たちを自分の管狐だと考えると、コントロールを取られることに恐ろしさは感じなかった。
それどころか、自分にも尻尾が生えたと考えると、なんだか可愛い奴らにも思えてくる。
すでに心臓のコントロールは奪われ、肩甲骨や肋骨の辺りまで妖気が迫ってきたが、僕は構わず管狐たちの首筋を掴み続けた。自分の体の一部だとイメージすると、こいつらの頭は徐々になくなっていき、本当に透き通った僕の尻尾のように形状が変化していく。
その時に、フォセットが僕の手を優しく掴むと、敵管狐の首のあたりまで動かした。
「…………」
「…………」
「そ、ソラ君の……体……」
「浄化……されていきますね……」
ジルーやラックドナが言う通り、僕の体の中では敵管狐を浄化して得た新たな霊気の再構築を行っていた。
この配分をミスすると、僕の体のバランスが崩れて病気になったりもするのだが、背中にフォセットがいるおかげでサポートを受けることができた。
「あなた、とりあえず応急処置は終わりました。故郷に戻ったらすぐに休んでください」
「ありがとう」
ジルーたちも、倒れているマーチルを抱き起すと、すぐに移動を再開した。
【ソラ ヒューマン27歳 男性】
固有特殊能力A:ナインテール(レア度S:★★★☆☆☆☆):複数の管狐を使役できる
固有特殊能力B:ステータス看破(レア度A:★★☆☆☆):ターゲットの能力を暫定的に調べる
固有特殊能力C:不明
実戦経験 C ★★★★
作戦・判断力 B ★★★★★☆
勇猛さ B ★★★★☆
近接戦闘力 B ★★☆☆☆
魔法戦闘力 B ★★★☆☆☆
投射戦闘力 B ★★☆☆☆
防御力 B ★★☆☆☆
機動力 B ★★☆☆☆
索敵能力 B ★★☆☆☆
コボルド使いとの戦いを行き抜き、更に、逸れ稲荷がけしかけてきた管狐を取り込んだソラ。
彼が霊力を放つと、キツネの尻尾のような霊力の塊が2.5本現れ、それぞれから管狐を放つことも、尻尾自体を大きな鞭や盾として運用することができる。
どの程度の数の管狐を操れるようになったのかは、まだわかっていない。
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