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31.ハヤトの底力
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武術大会3回戦の先鋒戦。
先鋒戦として出場していた僕は、敗北寸前まで追い込まれていた。
すでに転倒している僕は、左腰の小翼以外の全てを破損している。
それだけでなく、対戦相手の風の大翼は、まさにいま……僕に襲い掛かろうとしていた。
「…………」
大翼がいま……僕を目掛けて突っ込んでくる!
そう思ったとき、僕は霊力を強く放出し、その多くを左の小翼に注ぎ込んだ。
すると、小翼の形状は変わり1メートルほどまで伸びて、対戦相手の大翼を貫いた。大翼の周囲にはヒビが広がっていき、やがてバラバラに崩れ落ちたが、僕はそんなものよりも対戦相手を睨んだ。
転倒している僕は、対戦相手の振り下ろしてくるレイピアを避けると、ダウンから中腰になり、更に攻撃を避けて立ち上がり、次の一撃を小翼レイピアで切り払った。
相手が体勢を崩したので、今度はこちらが攻め込む番だ。
僕の一撃は相手選手の肩の一部に刺さってダメージを与え、相手選手は体勢を立て直して応戦してきたが、僕は再び切り払い、次の一撃は相手選手の腕に当たり、更に一撃が相手選手の頬を掠めた。
お互いにレイピアを握り直したところで、審判が声を上げた。
「そこまで! 5分を経過したので……判定とします!」
観客席は静まり返り、僕はゴクリと唾を呑んだ。
結果は……
主審は、リッカシデン隊の旗を上げ、
副審の片方は、両方の旗を上げ。
副審のもう片方は、リッカシデン隊の旗を上げた。
どうやら、2ー0で辛くも勝利できたようだ。
「では、各チームの次鋒……前へ!」
汗をぬぐいながら引き返していくと、何と次鋒はフリーダだった。
「……! 頑張って」
「行って参ります」
フリーダに次鋒を頼むとは、ロドルフォたちも勇者パーティーを強敵と判断したということか。
まあ僕も、リッカシデン号を出す寸前まで追いつめられていたし、対戦相手の先鋒はフリーダと同等かそれ以上の力があった。
ロドルフォが警戒するのも当然だろう。
さて、対戦相手である田舎勇者チームの次鋒は、鹿獣人の戦士だった。
どうやらロドルフォの狙いは当たったらしく、試合開始と同時にフリーダは空へと飛びあがり、上空というアウトレンジから相手選手の次鋒を狙い撃ちにしていく。
次鋒戦は3分ほどでフリーダが勝利をおさめ、僕たちは勝利に大手をかけた。
「相手の裏をかくとは、さすがだね……」
そうロドルフォに言うと、彼は前を睨みながら答える。
「貴方さまが、初戦で勝ち星を挙げて下さったことが、私にとって自信になりました」
隣で話を聞いていたシャーロットも頷いた。
「そうね。私たちと相手チームの大きな差は有翼人の有無」
「その通りです」
さて次は中堅戦だが、ロドルフォはここで奇策に打って出た。
何と選んだのはスィグワロス号である。
『……ヒヒーン?』
全員に指を差されると、スィグワロス号は仕方なさそうに歩いて行ったが、対戦相手の姿が見えたところでロドルフォは不敵に笑っていた。
相手チームは、チームリーダーと思しきヒューマンの青年が出てきたのである。
「あの霊力の高さ……もしかして!」
「ええ、田舎勇者の愛称で知られる……寒村のベンジャミンさまでしょう。実は……次鋒戦の時から、俺が出たいという声が聞こえてきていまして」
そっと田舎勇者の表情を確認してみると、顔を真っ赤にしながらスィグワロス号を睨んでいた。
チーム最強の自分が、人数合わせのウマとマッチングさせられたことに、激しい憤りを感じていると見える。
「では、中堅戦……はじめ!」
『ひ、ヒヒーン!』
試合が始まると同時に、スィグワロス号はダッシュで逃げていき、さすがの田舎勇者も攻撃を仕掛けるよりも先にスィグワロス号は場外へと逃亡。
わずか3秒で中堅戦は終了した。
「……ゴホン、対戦相手の戦意喪失により、中堅戦は田舎勇者チームの勝利!」
「こんな嬉しくねえ勝利……いらねえ!」
対戦相手の勇者には申し訳ないが、あえて思わせてもらおう。
意外とあのウマ……役に立つ。
副将戦になると、こちら側は竜人アルマン。対戦相手はウェアウルフの戦士を出してきた。
田舎勇者チームの副将は、田舎勇者ほど強力な霊力は纏っていないので、大きなミスをしない限りはアルマンが勝ってくれるだろう。
フリーダも感心した様子でロドルフォに言った。
「さすがですね。いくらアルマンでも、寒村の勇者さまが相手なら……良くて5分でしょう」
「ええ、あの霊力を考えると、たとえ勝てたとしても……負傷で次の戦いには参戦できないコンディションにもなり得ます」
僕もまた、納得しながら頷いた。
これはあくまでトーナメント戦なんだ。ただ勝ち上がるだけでなく、次の試合でも、なるべくベストコンディションで戦えるように考えないといけない。
全員が見守るなか、副将戦は2分ほどで決着がついた。
アルマンは始終有利に試合を進めていき、得意のテールアタックで相手選手を場外へとはじき出したのである。
「副将戦……リッカシデン隊の勝利! 3勝1敗で……リッカシデン隊の勝利です!」
難しい戦いだったが、他の試合はどのような結果となるだろう。
僕は会場に残って、それぞれの勇者たちの戦いを見学することにした。
先鋒戦として出場していた僕は、敗北寸前まで追い込まれていた。
すでに転倒している僕は、左腰の小翼以外の全てを破損している。
それだけでなく、対戦相手の風の大翼は、まさにいま……僕に襲い掛かろうとしていた。
「…………」
大翼がいま……僕を目掛けて突っ込んでくる!
そう思ったとき、僕は霊力を強く放出し、その多くを左の小翼に注ぎ込んだ。
すると、小翼の形状は変わり1メートルほどまで伸びて、対戦相手の大翼を貫いた。大翼の周囲にはヒビが広がっていき、やがてバラバラに崩れ落ちたが、僕はそんなものよりも対戦相手を睨んだ。
転倒している僕は、対戦相手の振り下ろしてくるレイピアを避けると、ダウンから中腰になり、更に攻撃を避けて立ち上がり、次の一撃を小翼レイピアで切り払った。
相手が体勢を崩したので、今度はこちらが攻め込む番だ。
僕の一撃は相手選手の肩の一部に刺さってダメージを与え、相手選手は体勢を立て直して応戦してきたが、僕は再び切り払い、次の一撃は相手選手の腕に当たり、更に一撃が相手選手の頬を掠めた。
お互いにレイピアを握り直したところで、審判が声を上げた。
「そこまで! 5分を経過したので……判定とします!」
観客席は静まり返り、僕はゴクリと唾を呑んだ。
結果は……
主審は、リッカシデン隊の旗を上げ、
副審の片方は、両方の旗を上げ。
副審のもう片方は、リッカシデン隊の旗を上げた。
どうやら、2ー0で辛くも勝利できたようだ。
「では、各チームの次鋒……前へ!」
汗をぬぐいながら引き返していくと、何と次鋒はフリーダだった。
「……! 頑張って」
「行って参ります」
フリーダに次鋒を頼むとは、ロドルフォたちも勇者パーティーを強敵と判断したということか。
まあ僕も、リッカシデン号を出す寸前まで追いつめられていたし、対戦相手の先鋒はフリーダと同等かそれ以上の力があった。
ロドルフォが警戒するのも当然だろう。
さて、対戦相手である田舎勇者チームの次鋒は、鹿獣人の戦士だった。
どうやらロドルフォの狙いは当たったらしく、試合開始と同時にフリーダは空へと飛びあがり、上空というアウトレンジから相手選手の次鋒を狙い撃ちにしていく。
次鋒戦は3分ほどでフリーダが勝利をおさめ、僕たちは勝利に大手をかけた。
「相手の裏をかくとは、さすがだね……」
そうロドルフォに言うと、彼は前を睨みながら答える。
「貴方さまが、初戦で勝ち星を挙げて下さったことが、私にとって自信になりました」
隣で話を聞いていたシャーロットも頷いた。
「そうね。私たちと相手チームの大きな差は有翼人の有無」
「その通りです」
さて次は中堅戦だが、ロドルフォはここで奇策に打って出た。
何と選んだのはスィグワロス号である。
『……ヒヒーン?』
全員に指を差されると、スィグワロス号は仕方なさそうに歩いて行ったが、対戦相手の姿が見えたところでロドルフォは不敵に笑っていた。
相手チームは、チームリーダーと思しきヒューマンの青年が出てきたのである。
「あの霊力の高さ……もしかして!」
「ええ、田舎勇者の愛称で知られる……寒村のベンジャミンさまでしょう。実は……次鋒戦の時から、俺が出たいという声が聞こえてきていまして」
そっと田舎勇者の表情を確認してみると、顔を真っ赤にしながらスィグワロス号を睨んでいた。
チーム最強の自分が、人数合わせのウマとマッチングさせられたことに、激しい憤りを感じていると見える。
「では、中堅戦……はじめ!」
『ひ、ヒヒーン!』
試合が始まると同時に、スィグワロス号はダッシュで逃げていき、さすがの田舎勇者も攻撃を仕掛けるよりも先にスィグワロス号は場外へと逃亡。
わずか3秒で中堅戦は終了した。
「……ゴホン、対戦相手の戦意喪失により、中堅戦は田舎勇者チームの勝利!」
「こんな嬉しくねえ勝利……いらねえ!」
対戦相手の勇者には申し訳ないが、あえて思わせてもらおう。
意外とあのウマ……役に立つ。
副将戦になると、こちら側は竜人アルマン。対戦相手はウェアウルフの戦士を出してきた。
田舎勇者チームの副将は、田舎勇者ほど強力な霊力は纏っていないので、大きなミスをしない限りはアルマンが勝ってくれるだろう。
フリーダも感心した様子でロドルフォに言った。
「さすがですね。いくらアルマンでも、寒村の勇者さまが相手なら……良くて5分でしょう」
「ええ、あの霊力を考えると、たとえ勝てたとしても……負傷で次の戦いには参戦できないコンディションにもなり得ます」
僕もまた、納得しながら頷いた。
これはあくまでトーナメント戦なんだ。ただ勝ち上がるだけでなく、次の試合でも、なるべくベストコンディションで戦えるように考えないといけない。
全員が見守るなか、副将戦は2分ほどで決着がついた。
アルマンは始終有利に試合を進めていき、得意のテールアタックで相手選手を場外へとはじき出したのである。
「副将戦……リッカシデン隊の勝利! 3勝1敗で……リッカシデン隊の勝利です!」
難しい戦いだったが、他の試合はどのような結果となるだろう。
僕は会場に残って、それぞれの勇者たちの戦いを見学することにした。
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