上 下
32 / 41

32.ベスト4が出揃う

しおりを挟む
 武術大会3回戦を3勝1敗で通過した僕たちは、観客席から様子を眺めていた。

 本日の第二試合は、例の聖剣持ちの勇者チームが入場している。
「エルフにドワーフに有翼人……バランスのいいチームだね」
 そう呟くように話しかけると、ロドルフォも頷く。
「そうですね。よく考えられた編成ですし……個々の霊力も高い」

 対戦相手も勇者チームだけあり、その実力は田舎勇者チームと同等。
 いや、編成や武装を考えると、この対戦相手の方が強いかもしれない。

 しかし、試合が始まると……その戦闘力差に驚かされた。
 先鋒戦は、45秒で相手選手をKO。
 次鋒戦も、30秒で相手を場外にはじき出して勝利。
 そして残った中堅戦……相手チームは勇者自らが登場したようだ。
 だけど、聖剣持ちの勇者は動かず、動いたのは2人いたウェアウルフの戦士の1人だ。僕たちと同じ捨て駒作戦だろうか。
「い、いや……違う!」

 そのウェアウルフは、素早い動きと強力な槍攻撃で、相手チームの勇者と互角以上に渡り合い、5分の激闘の後に判定勝ちをもらうという快挙を成し遂げた。
 彼の善戦ぶりには、シャーロットやマーチルも驚きを隠せないようだ。
「私たちサイドキッカーが、勇者を倒すなんて……あり得ないわ!」
「うん、勇者を倒せるのは勇者だけだもんね……普通」
「勇者同士でも……だいぶ、被害を受ける……」
 アルマンも表情を変えているのだから、この状況がどんなに異常かよくわかる気がした。


 勇者チームを相手に、ストレート勝ちをしたのは聖剣勇者チームただ一つだった。
 次に行われた、真インディゴメイルズと言えるバルド隊は、僕たちと同じように先鋒、次鋒と連勝した後に、相手チームの勇者を出させ、弱い使い手でわざと勝ち点を落とした後に、副将戦を拾う形で勝利。

 そして、僕たちの対戦相手となるCブロックも、勇者チーム同士の戦いが行われていく。
「こっちは、一進一退だ……」
「はい、勇者さま」

 観戦していたが、さすがに両チームとも勇者同士での一戦を避けているようだ。
 2勝2敗で折り返し、遂に大将戦となっていく。
「これは……勝負あったね」
 思わずそう言うと、ロドルフォも頷いた。
 すでに勇者チームの片方は勇者を出してしまっているが、このシード枠から出た勇者チームは、大将戦まで勇者を温存していたからである。

 その実力差は圧倒的だったが、それでも勇者も慎重に戦いを進めたためか、3分ほどの時間を費やしてという結果となった。
「そこまで! 3勝2敗で……ビーストユニオンの勝利!」


 結果を聞いて、僕たちも頷いた。
 聖剣勇者率いるアルデバランズ、実質インディゴメイルズとも言えるバルド隊、確実に勝ちを狙ったビーストユニオン、そして僕たちリッカシデン隊。
「次の対戦相手は、ビーストユニオンかぁ……どう思う、ロドルフォさん?」
 マーチルが聞くと、ロドルフォは答えた。
「難しい戦いになるだろう。有翼人こそいないが……ビーストユニオンは個人技と身体能力がずば抜けている」

 それは僕も今日の試合を見て感じたことだ。
 チームリーダーのヒョウ族の戦士のスピードは相当なものだし、更に勇者という強みがある。うちのチームで最強と言えるロドルフォでも勝てるだろうか?
「ロドルフォさん。ヒョウ族の勇者には……勝てそうかい?」

 ロドルフォは険しい表情をした。
「むう……正直に申しまして自信は持てません。今日のように受け流せれば……或いは……」

 確かに、一番危険な勇者戦をスィグワロス号で受け流し、他で3勝を挙げるのが現実的な感じがする。
 だけどそれは、今回僕たちがやった手なので、同じ方法が2度も使えるだろうか。

 今日見た感じでは、ビーストユニオンも駆け引き上手な印象があるので、下手なことをすれば逆に裏をかかれそうな感じさえする。
「なるほどね。今まではずっと僕が先鋒を務めて来たけど……あえて準決勝からは、違う手で行くというのも作戦かもしれない」

 そう言うと、ロドルフォもしっかりと頷いた。
「その通りですね。その点も視野に入れて……策を講じることにしましょう」


【某時刻 某所】
 ビーストユニオンのメンバーは、冒険者ギルド【獣の牙】へと戻ると、すぐにネコのような少女がヒョウ族のリーダーに声をかけた。
「あのあの……チーターの勇者さま?」
「ん? どうしたんだ?」
「使い魔から報告がありまして……どうやら、次の対戦相手のリッカシデン隊……先鋒の選手を変えてくるかもしれません」

「ああ、確かに……1回戦も2回戦も今日も……あの風の翼のヒューマンが先鋒だもんな」
 チーター勇者がそう言っていると、隣にいたライオン族の女性も質問した。
「ちなみに、誰がウマ勇者なのかわかったかい?」
「ごめんなさい奥さん……そこまでは……」

 その言葉を聞いたライオン族の女性は、小さくため息をついた。
「なかなか尻尾を出さないねぇ……」
「本命はロドルフォ、対抗は棄権した黒いウマ、穴はエルフのゴーレム使い、大穴は先鋒ヒューマンだろう」

 チーター勇者が言うと、部下の何人かが笑っていた。
「えー? ウマとかヒューマンはないでしょ!」
「そうですよ。何で勇者ともあろう者が3度も先鋒に出て来るんですか。それに……彼の技は翼を出す能力でしょ?」

 部下たちの話を聞いていたチーターは、ティーカップに入ったお茶の匂いを楽しみながら答える。
「その俺たち冒険者の常識というモノが通じないのが……真の勇者ってものだろう?」

しおりを挟む

処理中です...