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21.マーズヴァン帝国の罠
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僕は額から脂汗を流していた。
よく考えればわかる話だった。いくら鍛えたペガサスと言っても何時間も飛び続ければ、戦闘を行う前に疲労困憊になってしまうはずである。
だから、敵はこちらには気づかれないように前線基地を作り、もし……僕たちが攻勢に転じたら長距離を飛行させた上に、前方と後方から挟み撃ちにする腹積もりなのだろう。
「こ、このままじゃ……先行したブリジット隊長たちは……」
彼女たちがどうなるかは明らかだ。
ただでさえ、30分以上飛んでいるうえに、前方と背面から同時に敵が現れたら、臆病なペガサスたちが混乱してコントロールが効かなくなるだろう。
だけど……このまま隊長たちのところに戻れば、僕は確実にMP切れだ。
「お兄ちゃ……いいえ、リュド兄さん」
その言葉に、僕は身震いを感じていた。
今までは幼さやもろさを残していたイネスの声のトーンが低くなっている。これは……彼女の中でも、様々な葛藤があったのかもしれない。
視線を向けると、彼女は言った。
「知らせに行きましょう……ブリジット隊長に!」
彼女の決意に、僕も腹をくくる決意ができた。
『……威厳のある声も……出せるようになったんだね』
「……兄さん?」
その直後に敵天馬騎士と目が合った。
これは、もう……迷っている場合ではない。
『しっかり掴まってて!』
指示通りイネスは僕にしがみついてきた。これなら多少強引に飛んでも落ちることはないだろう。
僕は素早く体の動きを変えると、再びブリジット隊長たちのいる第4天馬大隊を目指して移動することにした。
敵の天馬騎士も、僕の動きを警戒したのだろう。急上昇しながら向かってきた。
しかし、素早さではこちらも負けるつもりはない。僕は速度を上げると、8秒間にMP1を消費する速度で敵を振り切ることにした。
この速度は、戦闘中か模擬戦くらいでしか使わない全速力に近いスピードだ。
僕のMPは、僅か1分の間に8も消耗していた。
その甲斐あって、敵はすぐに追撃を諦めたようだが、僕はまだまだ頑張らなければならない。おおよそ10分かけて飛び続けると、やっとブリジット隊長のいる第4天馬大隊へと追いついた。
ブリジット隊長は僕の存在に気が付いたようだ。
どうして戻ってきたのかと言いたそうに見てきたので、僕はイネスに手信号を頼んだ。
彼女が手信号で伝えると、ブリジット隊長はしっかりと手信号で【了解】と返答をしてすぐに第4天馬連隊長に伝えた。
連隊長もイネスの手信号を見ており、すぐに進路変更を指示。
第4天馬大隊は、攻撃目標を変更して僕たちを目指して進んできた。
正直に言うと、すでに僕のMPは60を下回っていたが、このまま彼らを案内しないと、正確な位置を第4攻撃隊が知らないまま、下手をすれば敵から奇襲攻撃を受けることになる。
すでに脳裏には、まるでこびりつくように眠気や疲れが溜まりはじめているが、僕は気力を振り絞りながら、仲間たちを先導した。
15分ほどかけて、再び敵の拠点に近づいていくと、MPはいよいよ一桁になろうとしていた。
もはや視線も定まらずに、まともに身体の向きを維持することもままならない。僕は隣を飛ぶルドヴィーカにイネスを託すと、いよいよ高度も維持できなくなって墜落をはじめた。
今の状況はまるで、数日徹夜をして起きているのか眠っているのかわからない状況だ。
それでも、身体は風を感じているので空中にいることはわかるし、着地しないと危ないことも理解している。
まぶたがつきそうになったところで、第4天馬大隊の1人が声を上げた。
「敵発見……数12です!」
「よし、アジトも目視した。攻撃を開始せよ!」
それが、僕が聞いた最後の言葉だった。
僕は辛うじて目を半開きにさせながら、川があることに気付くと、そのまま一か八かと思いながら、川に飛び込むことを思い付いた。
水しぶきが跳ねる音が聞こえてきたが、水特有の冷たさを感じなかった。身体の感覚はすでになかったのかもしれない。
どうやら完全に……僕は精神力を使い果たしてしまったようだ。
――――――――
――――
――
―
そっと目を覚ますと、そこは前世の人生が終わった直後に見た不思議な空間だった。
僕はもう終わったのだろう。そう思うといよいよ天国か地獄に送られるのだと感じた。
まあ、イネスの成長を見届けられなかったのが残念だったが、僕にしてはよくやった方か……そう考えていると、目の前に見覚えのある女神さまが姿を現した。
「リュドよ……思った以上に頑張っているようですね」
『うん、僕としてはまだまだ物足りない人生だったけどね……』
そう伝えたら、女神様は不思議そうな表情をした。
「何を言っているのですか? 貴方の延長戦はまだまだ終わっていませんよ?」
女神さまの言葉を聞いて、僕は意外に思っていた。
だって意識のない状態で川に突っ込んだんだ。あれはどう見ても終わったのではないだろうか?
そう言いたかったが、女神さまは微笑みながら言う。
「貴方は水麒麟なのです。水神の加護を得ている一角獣が溺れるはずがないではありませんか」
「そ、そうなの!?」
そう聞き返すと、彼女は目の前に文字や数字を映し出した。
それ自体は、僕自身のステータス表示だったのだけど……よく見ると、アビリティに3つ目の能力が表示されていた。
名前:リュドヴィック
種族:ヒューマン16歳
アビリティA:ユニコーンケンタウロス
アビリティB:メンタルタイマー
アビリティC:サファイアユニコーン
遂に3つ目の能力が開花したのか……と驚いていると、女神様は言った。
「では、そろそろ目覚める頃でしょう。リュドヴィックに幸運を……!」
――――――――
――――
――
―
そっと目を開けると、何やら身体が揺れていることに気が付いた。
どうやら僕は、荷車……いや、船のようなモノに乗せられて運ばれているらしい。
更によく見ると、目の前には若いマーメイドがオールを使って舟を器用に操っていたが、やがて僕を見た。
【不思議な空間で会った女神】
よく考えればわかる話だった。いくら鍛えたペガサスと言っても何時間も飛び続ければ、戦闘を行う前に疲労困憊になってしまうはずである。
だから、敵はこちらには気づかれないように前線基地を作り、もし……僕たちが攻勢に転じたら長距離を飛行させた上に、前方と後方から挟み撃ちにする腹積もりなのだろう。
「こ、このままじゃ……先行したブリジット隊長たちは……」
彼女たちがどうなるかは明らかだ。
ただでさえ、30分以上飛んでいるうえに、前方と背面から同時に敵が現れたら、臆病なペガサスたちが混乱してコントロールが効かなくなるだろう。
だけど……このまま隊長たちのところに戻れば、僕は確実にMP切れだ。
「お兄ちゃ……いいえ、リュド兄さん」
その言葉に、僕は身震いを感じていた。
今までは幼さやもろさを残していたイネスの声のトーンが低くなっている。これは……彼女の中でも、様々な葛藤があったのかもしれない。
視線を向けると、彼女は言った。
「知らせに行きましょう……ブリジット隊長に!」
彼女の決意に、僕も腹をくくる決意ができた。
『……威厳のある声も……出せるようになったんだね』
「……兄さん?」
その直後に敵天馬騎士と目が合った。
これは、もう……迷っている場合ではない。
『しっかり掴まってて!』
指示通りイネスは僕にしがみついてきた。これなら多少強引に飛んでも落ちることはないだろう。
僕は素早く体の動きを変えると、再びブリジット隊長たちのいる第4天馬大隊を目指して移動することにした。
敵の天馬騎士も、僕の動きを警戒したのだろう。急上昇しながら向かってきた。
しかし、素早さではこちらも負けるつもりはない。僕は速度を上げると、8秒間にMP1を消費する速度で敵を振り切ることにした。
この速度は、戦闘中か模擬戦くらいでしか使わない全速力に近いスピードだ。
僕のMPは、僅か1分の間に8も消耗していた。
その甲斐あって、敵はすぐに追撃を諦めたようだが、僕はまだまだ頑張らなければならない。おおよそ10分かけて飛び続けると、やっとブリジット隊長のいる第4天馬大隊へと追いついた。
ブリジット隊長は僕の存在に気が付いたようだ。
どうして戻ってきたのかと言いたそうに見てきたので、僕はイネスに手信号を頼んだ。
彼女が手信号で伝えると、ブリジット隊長はしっかりと手信号で【了解】と返答をしてすぐに第4天馬連隊長に伝えた。
連隊長もイネスの手信号を見ており、すぐに進路変更を指示。
第4天馬大隊は、攻撃目標を変更して僕たちを目指して進んできた。
正直に言うと、すでに僕のMPは60を下回っていたが、このまま彼らを案内しないと、正確な位置を第4攻撃隊が知らないまま、下手をすれば敵から奇襲攻撃を受けることになる。
すでに脳裏には、まるでこびりつくように眠気や疲れが溜まりはじめているが、僕は気力を振り絞りながら、仲間たちを先導した。
15分ほどかけて、再び敵の拠点に近づいていくと、MPはいよいよ一桁になろうとしていた。
もはや視線も定まらずに、まともに身体の向きを維持することもままならない。僕は隣を飛ぶルドヴィーカにイネスを託すと、いよいよ高度も維持できなくなって墜落をはじめた。
今の状況はまるで、数日徹夜をして起きているのか眠っているのかわからない状況だ。
それでも、身体は風を感じているので空中にいることはわかるし、着地しないと危ないことも理解している。
まぶたがつきそうになったところで、第4天馬大隊の1人が声を上げた。
「敵発見……数12です!」
「よし、アジトも目視した。攻撃を開始せよ!」
それが、僕が聞いた最後の言葉だった。
僕は辛うじて目を半開きにさせながら、川があることに気付くと、そのまま一か八かと思いながら、川に飛び込むことを思い付いた。
水しぶきが跳ねる音が聞こえてきたが、水特有の冷たさを感じなかった。身体の感覚はすでになかったのかもしれない。
どうやら完全に……僕は精神力を使い果たしてしまったようだ。
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そっと目を覚ますと、そこは前世の人生が終わった直後に見た不思議な空間だった。
僕はもう終わったのだろう。そう思うといよいよ天国か地獄に送られるのだと感じた。
まあ、イネスの成長を見届けられなかったのが残念だったが、僕にしてはよくやった方か……そう考えていると、目の前に見覚えのある女神さまが姿を現した。
「リュドよ……思った以上に頑張っているようですね」
『うん、僕としてはまだまだ物足りない人生だったけどね……』
そう伝えたら、女神様は不思議そうな表情をした。
「何を言っているのですか? 貴方の延長戦はまだまだ終わっていませんよ?」
女神さまの言葉を聞いて、僕は意外に思っていた。
だって意識のない状態で川に突っ込んだんだ。あれはどう見ても終わったのではないだろうか?
そう言いたかったが、女神さまは微笑みながら言う。
「貴方は水麒麟なのです。水神の加護を得ている一角獣が溺れるはずがないではありませんか」
「そ、そうなの!?」
そう聞き返すと、彼女は目の前に文字や数字を映し出した。
それ自体は、僕自身のステータス表示だったのだけど……よく見ると、アビリティに3つ目の能力が表示されていた。
名前:リュドヴィック
種族:ヒューマン16歳
アビリティA:ユニコーンケンタウロス
アビリティB:メンタルタイマー
アビリティC:サファイアユニコーン
遂に3つ目の能力が開花したのか……と驚いていると、女神様は言った。
「では、そろそろ目覚める頃でしょう。リュドヴィックに幸運を……!」
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そっと目を開けると、何やら身体が揺れていることに気が付いた。
どうやら僕は、荷車……いや、船のようなモノに乗せられて運ばれているらしい。
更によく見ると、目の前には若いマーメイドがオールを使って舟を器用に操っていたが、やがて僕を見た。
【不思議な空間で会った女神】
応援ありがとうございます!
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