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27.ユニコーンの聖水

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 間もなく僕は、ケガが重症化したウェアウルフの様子を1人1人調べた。
 15人のうち、ヒーリングによって回復できそうなのは4人。彼らには幸いにもLPと呼ばれる値が多く残っているので、少しヒーリングをかけるだけでも病状が大きく回復する。

 問題は、アルフレートの弟さんを筆頭とした3人だ。
 彼らの深刻なところは、すでにLPの値が1。弟さんの場合は0まで低下してしまっているので、HPがなくなれば本当に死亡してしまうところまで追いつめられている。


 僕が弟さんの状況を見たとき、すぐに聖水という言葉が浮かんでいた。これも恐らくだけど、ユニコーンの力によるものだろう。
『アルフレート殿』
「な、なんでしょう?」
『貴殿の弟さんをはじめとして、危険な者が3名いる』

 その言葉を聞いて、アルフレートは不安そうな顔をした。もしかしたら僕に見捨てられるのではないかと恐怖しているのかもしれない。
 彼を安心させる意味でも、僕は早く続きを言うことにした。
『治療のために、作りたいものがある』
「は、はい! 何を用意すれば!?」
『綺麗な水を持ってきて欲しい』

「どれくらいの量なの?」
 イネスも聞いてきたので、僕はすぐに答えた。
『そうだな……桶1杯……だいたい2リットルから3リットル分は欲しい』
「す、すぐに準備をします!」

 僕の指示を聞いたアルフレートたちは、すぐに水を調達しに走った。
 本当は水は角から出せるのだが、さすがに2リットルも出していたら、僕自身のMPがなくなってしまうし、この建物の中の湿度がゼロになってしまう恐れもある。
『じゃあ、今のうちに……ウォーミングアップと行こうか』

 彼らが戻るあいだ、僕はけが人だらけの小屋の中心に座ると、角を少しだけ光らせた。
 こうすることで、けが人たちの感じる痛みが和らいでいき、中には少しでも眠って体力を回復できる人も現れるだろう。
 まあ、本当に素人ユニコーンの思い付きなんだけど、意外にも効果があったようで、けが人の多くが穏やかな表情になり、中には笑顔で眠っているウェアウルフもいるほどだ。


「ユニコーン様、持ってまいりました」
 アルフレートは、村にある湧き水を組んできてくれたようだ。
 僕はその水を目の前に置いてもらうと、角を近づけてから強めに光らせた。

 ユニコーンホーンには浄化能力があるので、これでまず雑菌を消毒してきれいな水に変え、更に霊力も注ぎ込むことで、少しずつ清浄な気を出すシロモノへと変わっていく。
 今までは休んでいたケガ人ウェアウルフたちも、体力のある人たちは起き上がって僕の様子を眺めている。やはり聖水づくりは珍しいようだ。


『これくらい霊力を注ぎ込めば十分だろう。では、コップに移してケガ人に飲ませて欲しい』
「は、ははっ!」
 アルフレートは指示通りに、けが人……特に重症の人に優先的に配ると、最初に彼の弟が即席の聖水を飲んだ。

 すると、僕のヒールが体の内側から発動し、彼の表情が目に見えて良くなっていく。
「す、凄すぎる!!」
 彼は驚きながらも、笑顔になって兄や僕を見てくる。
「飲んだ瞬間に、身体の痛みがぐっと引いた……それに、熱も少し下がったように感じる!」


 僕はそっと彼の背中を見て、聖水づくりに成功したことを実感した。
 今までLPはゼロだったが、聖水を飲んだことで1だけだが回復しているのだ。今までは本当に薄皮1枚で辛うじて生きていた感じだったけれど、大きく改善されている。
『残った水も、少しずつでいいからきちんと飲んでくれ』
「は、はい!」

「さあ、次はお前だな」
 ケガをしたウェアウルフたちは僕の作った聖水を飲むと、次々のLPを回復させていった。
 特に元から健康だったウェアウルフは、2もLPが回復しているからその時の状態によって効果も大きくなることがわかる。


 全員の体調は、これで回復しただろうけど、まだ体力が回復しきっていないことが気掛かりだ。
 僕はアルフレートを見た。
『これで、全員が回復に向かうとは思うが、受けたダメージが大きい者が心配だ。今日はここで1晩ゆっくりさせてもらおう』
「あ、ありがとうございます……一角獣様のお心遣い、痛み入ります」

 この日、僕はけが人がいる小屋で、ぐっすりと眠ることにした。
 気絶して運ばれているときに、MPが少しだけ回復したと言っても、今の状態でもMPを大きく損なった状態だったので、久しぶりに深い眠りについたと思う。


 翌朝に目覚めたとき、僕のMPは7割ほどまで回復していた。
 頭は少し重い感じこそしたが、一時期は本当にゼロまで使い切ってしまったので、ここまで回復すれば御の字と言えるだろう。

 周りの戦士たちを見ると、傷はほとんどが回復しており、重傷だった戦士たちのLPも3まで回復している。
 役に立って良かった……などと考えていたら、起き上がったウェアウルフたちは、全員が僕に平伏して言った。

「一角獣様……貴方様こそ、我ら森の神に違いない!」
「ぜひ、主君と呼ばせてください!」
 な、何だか凄いことになってきているような気がするのだが、まあいいか。
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