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第七章 孤独な鳶は月に抱かれて眠る
98 ガレノス一族
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「うおぉ!本物の『カイト』だ……!」
「信じられない……存在したのか……」
何回目かの同じやり取りを、カイトは口許を引きつらせながら聞く。
バルボア家の広間では人がぎゅうぎゅうに詰めになりながら、大事な大事な客人をもてなすための夕食会が開かれている。
カイトとユエがこの館に通されてからすぐに、仕事場からわざわざ戻ってまで客人を見物しにきたのは、現町長でもあるバルボア家の長男とその息子が二人。さらに午前中に長男の奥方に息子の嫁にまだ乳飲み子の子どももやってきた。
それから午後になって、隣町に住んでいるという親族が続々と増えた。
今ではもう、この家にいったい何人が大集合したのか数え切れないほどだ。
自分の存在がこれほど大々的に広まっていることにも頭が痛いが、それより何より苦言を呈したいのは、背後の壁にかかっている巨大な絵である。
「……頼むからこの絵をどこかへやってくれ」
カイトが背負っているのは、自分の肖像画だ。
バルボア一家は絵と本人を並べて見比べて「おお!そっくりだ」と楽しそうだが、カイトはそれを楽しめるほど自己陶酔的な性格ではない。
しかしその本気の懇願も、にぎやかなバルボア一家にかかれば「またまた~」と笑い飛ばされてしまう。
隣の席のユエがポンポンと腕を叩いてくれたことだけが、唯一の慰めだった。
そんな夕食会の場はとてもではないが会話にはならなかったため、その後ルイスひとりをともなって場所を移して、カイトとユエは耳を休ませることができた。
扉を隔てた向こうでは、『カイト』を見るだけ見て満足したのか、本来のこの家の住人以外はあっさりと帰っていく。
ただそれほど酒も入っていないはずなのに熱に浮かされたような興奮は冷めやらず、この調子で外を歩けばきっと、「町長の家でなにかお祝い事があったらしい」という噂が小さなこの町中に広がっていることだろう。
この無遠慮さに騒がしさに非常識さ──ガレノスとの血のつながりをそんなところで感じたカイトは、苦笑いながらもまとう空気は柔らかい。
それをそのままルイスに言えば、「いやぁ、うれしいね」と誉めたつもりはなかったのに照れられてしまう。
今日はこれまでまともに質問する隙はなかったけれど、大勢が好き勝手しゃべってくれたことでいくつかの疑問に答えは出ていた。
バルボア家だけでなく、近くに住む親類縁者から国も違う遠縁まで、アスクレア・ガレノスの血を引く『ガレノス一族』全体で『カイト』の情報を共有し、受け継いできたこと。
あの壁にかかっていた肖像画は、ガレノスの子どもに当たる二代目が描かせたもの。
いわれとして伝えられてきたのは、これは『カイト』という名のガレノス一族の恩人であること、そのためもしこの肖像画の面影を持った人物が訪ねてきたら、何を持ってしても力になるべし、と。
そしてそのいわれの中に隠された真実もまた、密かながら、脈々と伝えられてきたのだという。
初代アスクレア・ガレノスが残した研究資料の中にある、『ノクス』と呼ばれる不老の存在──それと同一人物であること。
「戦争で離散することもあったけど、今でもガレノス一族の結束が強いのは、カイト、あなたのおかげだよ。わたしだけでなく、先祖代々待ちわびていた。不老のあなたならいつかここへ帰ってくるかもしれない、とね」
だからこのくらいのお祭り騒ぎは許しておくれ、とバルボアは笑う。「一族にとっての悲願が叶った日なんだから」
「……まさか、」カイトはそう言ったきり言葉を詰まらせた。──まさか、待っていてくれたとは。
ガレノスの死後、スミュルナを離れる際にその子どもや孫たちに確かに「また来て」と言われた。しかしカイトは行けなかった。
彼らの死を直視することができなかったからだ。
あれから二百年以上──二百年越しの再会を悲願と言ってくれることが、なによりカイトの胸に迫る。
「……ずいぶん、待たせたな」
もっと早く……という後悔もあったが、やはり今でなければここへは来られなかったと思うから、謝ることをカイトはやめた。
バルボアも不義理を責めはしないで、「来てくれただけでいいんだ。それに……あなたがひとりじゃなかったことが、うれしいよ」とユエにも同じだけの愛情を向ける。
「墓地で言ったように、あなたに会ってみたいという想いと……二百年も経つと、あなたが生きていることを望んでもいいのかという葛藤もあった。不老という秘密を抱えて孤独に生きるよりも、こんな言い方は悪いが、ちゃんと死ぬことができた方が幸せなんじゃないか、って」
けれどもう、バルボアの中にその葛藤はない。ユエの存在のおかげで、カイトが生きていたことをただ喜ぶことができる。
「ありがとう、カイトと一緒に来てくれて」
「こちらこそ……っ、カイトを待っていてくれて、ありがとうございます……!」
バルボアがユエに取る態度はまるで、息子が連れて来た婚約者に対する父親のよう。
そしてそれはあながち間違ってはいないから、カイトも妙な気恥ずかしさを持ちながら二人を見ていた。
この時点ではカイトとユエのことを普通の友人関係だと思っていたバルボアだが、すぐにカイトの失言によって、本来の関係を知ることとなる。
夜の早い田舎の時間に従って本題は明日また改めることになり、休む部屋を用意してくれたという奥方に、ついいつものように「部屋はひとつでいい」と言ってしまったのだ。
『カイト』の出現だけでも人生最大の驚きだったのに、連れて来たのが男の恋人だったとは……!──その新事実にバルボア家の女性陣から「やだ……!鼻血出そう」とよくわからない興奮をされ、せっかく落ち着いていた館がもう一度騒ぎになってしまったのだった。
******
翌日やっと、スミュルナを訪ねた理由を説明できた。
ガレノスが残した資料は戦火で一部が焼けてはいたが、おおむね無事に残っていて、そのほとんどがバルボアの館に保管されているというから、さっそく見せてほしいとカイトは頼む。
「それじゃあ、昨日はゆっくりできなかったし、どうせだから二人も一緒に取りに行こう」
バルボアはそう言って、なぜか二人を家の外へと連れ出した。
「『赤の大聖堂』内部の地図に『ノクス』の情報となると、うちに置いておくには危ないからね」
どうやら他人に見られてはまずい危険な資料は、別にしてあるらしい。
向かったのは最初に出会った墓地だ。
ガレノスの墓に参ってから、大楓をぐるりと裏側へと回る。積もった葉を手で払って地面を探ったバルボアは、「……久しぶりだから、ちゃんと開くかな」と心配顔になる。
二人もしゃがんで見てみると、地面に同化して両開きの扉があった。
三人で協力して重たいそれを持ち上げると、中には下へと続く階段があり、カイトがハッとなって「確か、貯蔵庫が……」とつぶやく。
「ああ!やっぱりここ、初代の家の貯蔵庫なんだね。三代目の時の戦争で家は焼けてしまったんだけど、ここと大楓だけは残ったんだね。それでちょうどいいからと、何代目かが資料の保管庫にしたらしい」
懐かしみながらカイトが降りると、ほとんど記憶と変わらないそれほど深くも広くもない空間に、瓶が三つ置いてある。
中には年季の入った紙の束が詰まっていた。
ユエにはひとつ持つので精一杯なその瓶を、カイトはひょいとひとつは肩にもうひとつは脇に抱えて、三つともバルボア家へと持ち帰る。
中身をすべて書斎に広げると、ガレノスと過ごした過去へカイトの心は一気に連れ戻された。
没頭するカイトの邪魔にならないようバルボアとユエがそっと部屋を出ると、待ち構えていた女性陣に捕まって、昨日のうちに聞き出せなかったあれやこれやを根掘り葉掘り聞き出される。
どこまで話していいかわからないユエが悩んでいると、バルボアが「話したくないことは話さなくていいからっ」と助け舟を出してくれる。
「話したくないんじゃなくて……話すことでみなさんを危険に巻き込んでしまうかもしれなくて」
カイトもそれを考慮して、バルボアになぜ資料が必要なのかという理由は話していないし、バルボアもくわしくは聞かなかった。
女性陣が知りたがっているのは二人のなれそめなのだが、それも世界の秘密抜きに話すことは、カイトにはできるだろうがユエには無理だ。
昨夜のうちに話し合って、どこまで話すかはバルボア家の人たち次第だと決めていたから、そうユエが忠告すると、バルボア一家は一瞬も迷わずに「ぜんぶ話して」と即答した。
「ほんとうにいいんですか?聞いてしまったら──」「だって事情を知らなければ、あなたたちを助けられないじゃない」
長女がきっぱりと、当たり前のように言うと、他も当たり前のようにうなずいてくれる。
「……ありがとう、ございます。みなさんもカイトの味方になってくれると、うれしいです」
にじんだ嬉し涙をごまかして、ユエは長い長い物語を語り始めた。
***
「……カイト?」
昼を過ぎても書斎から出てこないカイトに、ユエがサンドイッチを差し入れに行くと、「ああ」とうわの空の返事で顔を上げもしない。
集中しているカイトがこうなることは知っているから、ユエは気にせず皿をテーブルに置いて、床に直に座って片膝を立てている背中にふわっと抱きつく。
「カイト……」
「ああ」
やはり反応は鈍いが、これでも声は頭に届いているはずなので、そのまま話を続ける。
「ガレノスさんの子孫さんたち、みんないい人だね」
「……ん」
「ぜんぶ話したんだ、俺たちのことも世界のことも」
「うん」
「驚いてたけど、人魚のおれのこともすぐ受け入れてくれて」
「そうか」
「カイトを助けるために、できることならなんでもしてくれる、って」
「……ありがたいな」
ユエの腕をカイトの手がすり、となでていく。指を絡めてその手を握って、昨日からあふれてばかりのくすぐったいような感情を、二人の手のひらの間に閉じ込める。
「地図はあった?」
「ああ、見つけた」
「よかった……それでね、バルボアさんからちょっと気になる話を聞いたんだ」
そこでやっと、カイトの目が床に散らばった紙から離れる。
「おれだけじゃ判断つかないから、カイトも聞いてくれる?」
ついでに空腹を思い出したカイトが顔を上げると、開けっ放しの扉からそんな二人のやり取りを何人もが目撃していて、「ごちそうさまです」とにやにやされてしまった。
******
「メーディセイン?」
カイトがおうむ返しにしたのは初めて聞く地名だ。しかし口に出してみると、不思議と馴染みがある気がした。
その理由は間違いなく、自分に所縁ある場所だという先入観があるからだろう。
「そう。カイト、あなたの故郷は今ではそう呼ばれているらしい。『封印された地・メーディセイン』と」
バルボアは新しい地図を机に広げると、約二百年前にガレノスが作った地図と見比べるように二人にうながした。「ここだよ」
「……こんなに『赤の大聖堂』に近かったのか」
今の地図でいくと、カイトの故郷に当たる場所は聖会の権力圏内に完全に飲み込まれている。縮尺された地図上ではほんの目と鼻の先に見えるほど。
「大山脈の麓だね」
「それより、大山脈の合間、と言ったほうが正しいと思う」
「合間?」
首をかしげたユエに、バルボアは手で二つの山を作ってみせて「山と山の合間──谷間だね」とぶつかった指の先を示した。
「谷間……」カイトは繰り返した。
「谷間にあった村が山津波に呑まれて、埋まってしまった。土砂が堰堤のようになって谷には水が溜まって、今は湖のようになっているらしい。すべては水の底だ」
「……だから『封印された地』、か」
うなずいたバルボアはここからが本題だと気を引き締める。
「誰も足を踏み入れることのできない、『封印された地』……しかし近年、メーディセイン近郊でなにやら怪しい動きがある。なにをやっているかまではわからないけれど、『どこの誰か』ははっきりしている。──聖会の連中だ」
カイトの故郷で暗躍する聖会──バルボアからの情報提供に、カイトもユエも背筋が寒くなる。
田舎のいち町長に過ぎないバルボア家が、ベレン卿やヘイレンすら知らない情報を握っているのには、こんな訳がある。
ガレノス一族はバルボア曰く「出世が苦手」で、なにせバルボア家が一番の出世頭という有様なのだけれど、それぞれが広範囲に散らばっていて、さらに医の道に従事している者が多いことから、他にはない情報を得ることができるのだ。
そして強い結束力で、情報は本家であるバルボア家へと自然に集まってくる。
そのため権力や資金力に似合わず、この地域の情報収集という点では大貴族ベレン卿にも勝るとも劣らない。
「なかでも、ガレノス一族は『カイト』関連の情報には強いよ。一族郎党、あなたの信奉者だからね」
大げさだと笑い飛ばしたいところだが、昨日の夕食会を思うと決して誇張でも何でもない。
「特に当代に熱烈な信者がひとりいてね、彼女がこの情報をもらたしたんだ。カイト縁の地を巡る『聖地巡礼』、とか言って自分の目で見てきたらしいから、確実な情報だ」
「信者って……」
バルボアの口調が冗談交じりだったから、カイトも苦笑いで聞き流しておく。
「しかし、ということはほんのつい最近のことなんだな」
「彼女が訪ねたのは四、五年前のはずだ。だが近くの村の人の話では、どうやら二十年ほど前から聖会の人間が出入りするようになって、今では常駐しているとか」
「二十年……今さら『ノクス』の再調査を始めたとでもいうのか……?」
カイトのひとり言のような疑問に、バルボアは「どうだろうね。見た感じではなにかを調べているというより、見張っているという雰囲気だったらしいけど」と又聞きを伝える。
そしてカイトとユエの目的を知った上で、もっともな忠告を送る。
「だからね、故郷を訪ねるにしても今はやめたほうがいい。やつらの目的はわからないけれど、あの場所にいる聖会所属の人間が、まさか『ノクス』を知らないなんてことはないだろうし。行けば、危険なのは間違いない」
カイトとしてはただ故郷の場所を思い出せればよかっただけで、すぐさま訪ねてみようという気はなかったのに、むしろこの符合が引っかかって気持ちが揺らぐ。
──故郷へ帰れと、なにかに導かれているようで。
明日にでも出発しそうなカイトを、ユエの冷静な提案が押しとどめる。
「あの……メーディセイン?を訪ねた女性から、直接話を聞くことはできないですか?」
「彼女は……」バルボアはかなり悩んでから「ちょっと待ってて」と席を外すと、次女を連れて戻ってきた。
「フローラ、だったかな」
「そうよ、フローラ・ガレノス。あそこはうちの一族でもそこそこ安定した助産師の家系だったのに、なにを血迷ったのか『冒険家になる』とか言って家を飛び出した放蕩娘よ」
言葉だけ聞くと辛らつな評価に思えるが、口調や表情はいかにも愉しそうで、次女がその女性の生き方を肯定していることが伝わってくる。
「それで、フローラに連絡をつけたいのよね?あの娘は年中ふらふらしてるから、今どこにいるかは……あ、でも、お金がなくなるとどこか一族の家で食べさせてもらうらしいから、連絡回しておけばそのうち捕まるんじゃない?」
逃亡犯を捕まえるような物言いだったが、バルボアは「なるほど」と普通に納得している。
「っていうか、『カイト』がうちにいるって聞けば、あっちから勝手に来るんじゃないかしら」
「……なるほど」
親子はエサを見るような目でカイトを見つめた。
***
エサとなることをカイト自身が許可したため、フローラをおびき寄せるべく一族に広く連絡を回すことになった。
──『カイト』が今、バルボア家に滞在している、と。
「わたしたちが言うのはなんだけど、いいのかい?あなたの居場所を宣伝してしまって」
連絡を回す準備をしながら、バルボアは最後に確認をとる。
それにカイトは「構わない」と端的に答えた。
秘密主義だった以前を知る者なららしくない無警戒さだと驚くかもしれないが、これはカイトの生き方が変わったという証だった。
ひとりで生き延びることから、ユエとともに生きることへと。
そのため今のカイトは、使えるものなら何でも使うつもりだ。ヘイレンでもベレン卿でも、人魚の族長でも教会の代表者でも。
実際にその四者にはすでに、不老の『ノクス』としての素性を明かし、協力を取りつけてある。
カイト=『ノクス』だと感づいていたベレン卿でも、それをわざわざ明言したことは衝撃的だったらしく、珍しくうろたえていたのがカイトにはおかしかった。
それでいくと、ラフィール司教の方がよほど冷静で、くわしく語る前にカイトと亡きアディーン大司教の関係をすぐに悟って納得していた。
人魚には『ノクス』の情報が流れていなかったために、東の族長に信じてもらうにはかなりの時間を要することになった。
それどころか最初は、ユランの名を利用して人魚の信用を得ようとしている、とか、バカバカしいウソをついてユエを騙している、だとか非難の嵐だったくらいだ。
最終的にはユエの懸命な説明と、人魚でも一部しか知らないユランの逸話を披露することによって、何とか信じてもらうに至った。
以前、クウェイルに語ったことがあるように、カイトが考える秘密の守り方の最善策は、誰にも語らないこと、だ。
秘密を知る者を最小限にし、知られた相手を排除するくらいの覚悟を持て、とカイトも自分に言い聞かせてきた。
しかしそれを維持できない場合、中途半端に漏れることがもっとも危険だと、カイトは長年の経験で知っていた。
うわさが流れると、人はどうしても探りたくなるもの。
『知りたい』という欲求に火をつけては、もう消すことはできない。
ならばどうするか──カイトの持論はこうだ。──秘密を秘密でなくしてしまえばいい。
つまり、自ら公にしてしまえ、というのだ。
他人に探られて不正確な情報が流布するよりは、自分で言ってしまった方がいい。
敵が明確になる分だけ、味方も増えるはず。
例えばどこかの貴族に狙われても、ベレン卿の保護下にあることが伝われば、無茶をする輩は減る。
バケモノだと怖れられても、教会が認めていることが知れれば、あからさまな差別はできない。
もちろんやたらめったらと公言はしないが、必要ならばためらわず明かすつもりでいる。
そのため、バルボアの提案にこうもあっさり乗ったのだ。
***
ガレノス一族に連絡を回すついでに、カイトは『赤の大聖堂』に乗り込んだ仲間たちへ向けて手紙を届けてくれるよう頼んだ。
そこには、まだたった二日ながら、バルボア家で得た濃密な情報が記されている。
フローラを待つことが決まって、カイトは急く気持ちを鎮めるように目を閉じて寝台で横になった。
しかしゆっくりした呼吸を心がける胸の上に、それをかき乱す熱っぽい身体が乗り上がってくる。
「……どうした」
用意されたバルボア家の客室の寝台は、男がふたり並んでも十分な広さがある。それなのに横に潜り込むのではなく、わざわざ身体を重ねてきたユエは、『た』の形に開いた口に唇も重ねてきた。
ユエが仕掛けたのはただ熱を分け合いたいという親愛の口づけだったから、カイトも悦を昂らせることはしない。
表面を擦りつけて、優しく吸うだけの軽い口づけを堪能すると満足したのか、ユエは寝る時の定位置へと移動した。
カイトの左腕を枕にして、「フローラさんって、どんな人だろうね」と夢に入る前のふわふわした口調で言う。
「変人揃いのガレノス一族でも、特に変わっているんだろうな。女の身で、この地方でひとり旅をしているんだから、剣の腕もいいんだろう」
「……カイトの信奉者ってことは、フローラさんもカイトのこと、好きなんだね」
それは何か含みのある言い方で、カイトは嫉妬でもしてくれたのかと抱き寄せる腕にいつもより力が入ったが、ユエの心情はもう少し複雑だった。
******
フローラ・ガレノスが登場したのは、それからわずか三日後のことだ。
どのくらいの距離を走ってきたのか、バルボア家の玄関をくぐった瞬間に崩れ落ちたほど。ゴホゴホとせきを繰り返しながら息を整え、バルボアが差し出した水を一気に飲み干して、またせき込む。
「かっ、カイ……っカイっ……!」
「ちょっと落ち着きなさい」
バルボアがさすっている背中は、長旅の疲れを感じさせる色あせた外套の上からもわかるほど、女性にしてはかなりがっちりしている。
騒がしい訪問者に集まってきた家人の中に、見慣れぬ脚を二組見つけて、彼女の動きが止まる。
動きどころか呼吸も止めているのではないかという硬直に、心配になってのぞき込んだバルボア越しに『カイト』を見つけて──フローラの目から涙がぶわっと溢れた。
「う……ううっ……!」
土だらけの床も気にせずに、ガバッと伏せる。うずくまった背中は震え、嗚咽が漏れている。
「うう……、ほんっ、ホンモノ……本物の『カイト』……っ!」
フローラはしばらくその態勢から動かなかった。
やっと顔を確認できるようになると、そこには化粧っけのないさっぱりした女性がいた。
「失礼」声は小さいのに、鼻をかむ音は豪快だ。泣きはらした目を伏せて、未だにカイトの顔をまっすぐ見られないらしい。
そのため話を聞き出す役目はユエが担うことになった。
「メーディセインは『境界』なんですって」
フローラは地元の人間と仲良くなって雑談した内容を話してくれる。
「あの辺りではまだ大山脈信仰が根付いていて、足を踏み入れないどころか、木の実や山菜なんかも採らないくらい徹底しているらしいです。その中でメーディセインが大山脈──つまり神の世界と人間の世界の境界と考えられていて、だから地元の人たちは、土足で荒らすような真似をする聖会に怒っていましたよ」
「聖会の目的は、近くの人も知らないんですか?」
こちらの紹介もそこそこに話を急かしてしまったから、フローラはまだユエのことを単なる同行者だと思っているよう。
カイトの声には「ひえっ」と声が裏返っていたが、ユエの質問にはすっと声が出る。
「何にも説明はなかったみたいです。まあ、聖会はいつもそんなもんですけどね。偉ぶって、もったいぶって。……あ、でもいつもの横暴と少し違ったのは、コソコソしてるところですかね」
「コソコソ?」
「はい。注目されたくないって感じで。普通、聖会の人間って、一般の人を同じ人間だと思っていないから、平気で奴隷のように使ったりするんですけど、メーディセインでは雑用すら頼まないらしいです」
「……だから情報が漏れてこないというわけか」
「ひえっ……!」
カイトはフローラの対応にそろそろ慣れてきて、おかしな悲鳴を気にせず考察を続ける。
「二十年前から、というのが気になる。それほどの期間となると、なにかを探しているのか……?それとも『どこか』……いや、なにかを待っている……『誰か』か?……まさか俺が帰ってくるのを待っているとでも……」
ブツブツひとり言のように考えをまとめるカイトに、初めて見るバルボアやフローラは困惑しているが、慣れているユエは構わず「他になにか思い出せることは?」
「えっ?あ、はい!そうですね……あー、でもこれは、あんまり信用できる証言じゃないからな……」
言おうか迷うフローラを、「どんなささいなことでもいいから」とうながす。
「えー……これは耳の遠そうなお年寄りひとりの証言で、ちょっと信じがたい内容なので話半分に聞いてくださいね」
「うん、それで?」
「聖会の連中がひとりのおじいさんのことを、『法王様』って呼んだって云うんです」
「『法王様』?」
その敬称にピンとこないユエに代わって、カイトが「法王?」と声を大きくした。
「ひえっ!」
「つまりメーディセインに法王が来ていた、と?」
「ひ、ひゃいっ!」
「まさか……いくら『ノクス』の故郷だとて、聖会の最高権力者がわざわざ出向くなど……」
それだけ言うとカイトはしばらくひとり言もなく思考に沈み、それからおもむろにバルボア家の書庫を見せてくれと頼んだ。
そこにはガレノスの資料の一部と、その子孫たちが綿々と収集し続けてきた情報が、新旧合わせて蓄積されているという。
手伝いはバルボアだけで充分だとカイトに置いていかれたふたりは、その時になって初対面だったことを思い出したように、今さらな自己紹介を始めたのだった。
***
「えぇっ?!それじゃああなた、『カイト』の恋人なのっ、ですかっ?!」
フローラはユエよりも短い髪を振り乱して、大きな動作で驚きを表す。
「そう、です」
次に何を言われるか身構えたユエに、彼女はくりくりした見開いた目のまま、「……いい」とぼそりつぶやく。
「えっと、なんて?」
「……いい……っ、いいですっ!最高です!!」
「へ?」
フローラはガシッとユエの手を握ると、ブンブンと握手を振り回す。その勢いでユエの身体はがくがくと揺れるが、そんなことは気にせずもう一度噛み締めるように「いい……!」
「えと……それはカイトの恋人としておれのことを認めてくれたってこと?」
「認めるなんて……!そんなおこがましいですよ!でも、でも……!あの『カイト』の恋人が、男性で?人魚で?劇的な出会いに、数々の困難をともに乗り越えて……!!くぅ~……、推せますっ!!」
「おせ……?」
「つまり、応援したいですっ!応援させてくださいっ!」
至近距離に迫った瞳は少年のようにキラキラしていて、目の前にいるのが三十前後の女性だということをユエは一瞬忘れてしまう。
「っ……!」フローラは自分の暴走をすぐに反省したようで、また大げさな仕草で「あぁ……!ごめんなさいっ」とソファに土下座した。
「ほんっと、興奮してごめんなさいっ!私からすれば絶対に会えないと思っていた憧れの人が、まるで絵の中から出てきたような……夢心地なんですっ」
「でもフローラさんは、おれのこと応援してくれるの?」
「んん?!『でも』ってどういう?」
ユエはフローラのこの好意的な対応に、想定していたものと違うとかなり困惑気味だった。憧れの『カイト』の恋人という存在など、もっと否定されると思っていたのだ。
『ふさわしくない』──人魚がカイトに放ったようなひどい言葉で。
「信じられない……存在したのか……」
何回目かの同じやり取りを、カイトは口許を引きつらせながら聞く。
バルボア家の広間では人がぎゅうぎゅうに詰めになりながら、大事な大事な客人をもてなすための夕食会が開かれている。
カイトとユエがこの館に通されてからすぐに、仕事場からわざわざ戻ってまで客人を見物しにきたのは、現町長でもあるバルボア家の長男とその息子が二人。さらに午前中に長男の奥方に息子の嫁にまだ乳飲み子の子どももやってきた。
それから午後になって、隣町に住んでいるという親族が続々と増えた。
今ではもう、この家にいったい何人が大集合したのか数え切れないほどだ。
自分の存在がこれほど大々的に広まっていることにも頭が痛いが、それより何より苦言を呈したいのは、背後の壁にかかっている巨大な絵である。
「……頼むからこの絵をどこかへやってくれ」
カイトが背負っているのは、自分の肖像画だ。
バルボア一家は絵と本人を並べて見比べて「おお!そっくりだ」と楽しそうだが、カイトはそれを楽しめるほど自己陶酔的な性格ではない。
しかしその本気の懇願も、にぎやかなバルボア一家にかかれば「またまた~」と笑い飛ばされてしまう。
隣の席のユエがポンポンと腕を叩いてくれたことだけが、唯一の慰めだった。
そんな夕食会の場はとてもではないが会話にはならなかったため、その後ルイスひとりをともなって場所を移して、カイトとユエは耳を休ませることができた。
扉を隔てた向こうでは、『カイト』を見るだけ見て満足したのか、本来のこの家の住人以外はあっさりと帰っていく。
ただそれほど酒も入っていないはずなのに熱に浮かされたような興奮は冷めやらず、この調子で外を歩けばきっと、「町長の家でなにかお祝い事があったらしい」という噂が小さなこの町中に広がっていることだろう。
この無遠慮さに騒がしさに非常識さ──ガレノスとの血のつながりをそんなところで感じたカイトは、苦笑いながらもまとう空気は柔らかい。
それをそのままルイスに言えば、「いやぁ、うれしいね」と誉めたつもりはなかったのに照れられてしまう。
今日はこれまでまともに質問する隙はなかったけれど、大勢が好き勝手しゃべってくれたことでいくつかの疑問に答えは出ていた。
バルボア家だけでなく、近くに住む親類縁者から国も違う遠縁まで、アスクレア・ガレノスの血を引く『ガレノス一族』全体で『カイト』の情報を共有し、受け継いできたこと。
あの壁にかかっていた肖像画は、ガレノスの子どもに当たる二代目が描かせたもの。
いわれとして伝えられてきたのは、これは『カイト』という名のガレノス一族の恩人であること、そのためもしこの肖像画の面影を持った人物が訪ねてきたら、何を持ってしても力になるべし、と。
そしてそのいわれの中に隠された真実もまた、密かながら、脈々と伝えられてきたのだという。
初代アスクレア・ガレノスが残した研究資料の中にある、『ノクス』と呼ばれる不老の存在──それと同一人物であること。
「戦争で離散することもあったけど、今でもガレノス一族の結束が強いのは、カイト、あなたのおかげだよ。わたしだけでなく、先祖代々待ちわびていた。不老のあなたならいつかここへ帰ってくるかもしれない、とね」
だからこのくらいのお祭り騒ぎは許しておくれ、とバルボアは笑う。「一族にとっての悲願が叶った日なんだから」
「……まさか、」カイトはそう言ったきり言葉を詰まらせた。──まさか、待っていてくれたとは。
ガレノスの死後、スミュルナを離れる際にその子どもや孫たちに確かに「また来て」と言われた。しかしカイトは行けなかった。
彼らの死を直視することができなかったからだ。
あれから二百年以上──二百年越しの再会を悲願と言ってくれることが、なによりカイトの胸に迫る。
「……ずいぶん、待たせたな」
もっと早く……という後悔もあったが、やはり今でなければここへは来られなかったと思うから、謝ることをカイトはやめた。
バルボアも不義理を責めはしないで、「来てくれただけでいいんだ。それに……あなたがひとりじゃなかったことが、うれしいよ」とユエにも同じだけの愛情を向ける。
「墓地で言ったように、あなたに会ってみたいという想いと……二百年も経つと、あなたが生きていることを望んでもいいのかという葛藤もあった。不老という秘密を抱えて孤独に生きるよりも、こんな言い方は悪いが、ちゃんと死ぬことができた方が幸せなんじゃないか、って」
けれどもう、バルボアの中にその葛藤はない。ユエの存在のおかげで、カイトが生きていたことをただ喜ぶことができる。
「ありがとう、カイトと一緒に来てくれて」
「こちらこそ……っ、カイトを待っていてくれて、ありがとうございます……!」
バルボアがユエに取る態度はまるで、息子が連れて来た婚約者に対する父親のよう。
そしてそれはあながち間違ってはいないから、カイトも妙な気恥ずかしさを持ちながら二人を見ていた。
この時点ではカイトとユエのことを普通の友人関係だと思っていたバルボアだが、すぐにカイトの失言によって、本来の関係を知ることとなる。
夜の早い田舎の時間に従って本題は明日また改めることになり、休む部屋を用意してくれたという奥方に、ついいつものように「部屋はひとつでいい」と言ってしまったのだ。
『カイト』の出現だけでも人生最大の驚きだったのに、連れて来たのが男の恋人だったとは……!──その新事実にバルボア家の女性陣から「やだ……!鼻血出そう」とよくわからない興奮をされ、せっかく落ち着いていた館がもう一度騒ぎになってしまったのだった。
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翌日やっと、スミュルナを訪ねた理由を説明できた。
ガレノスが残した資料は戦火で一部が焼けてはいたが、おおむね無事に残っていて、そのほとんどがバルボアの館に保管されているというから、さっそく見せてほしいとカイトは頼む。
「それじゃあ、昨日はゆっくりできなかったし、どうせだから二人も一緒に取りに行こう」
バルボアはそう言って、なぜか二人を家の外へと連れ出した。
「『赤の大聖堂』内部の地図に『ノクス』の情報となると、うちに置いておくには危ないからね」
どうやら他人に見られてはまずい危険な資料は、別にしてあるらしい。
向かったのは最初に出会った墓地だ。
ガレノスの墓に参ってから、大楓をぐるりと裏側へと回る。積もった葉を手で払って地面を探ったバルボアは、「……久しぶりだから、ちゃんと開くかな」と心配顔になる。
二人もしゃがんで見てみると、地面に同化して両開きの扉があった。
三人で協力して重たいそれを持ち上げると、中には下へと続く階段があり、カイトがハッとなって「確か、貯蔵庫が……」とつぶやく。
「ああ!やっぱりここ、初代の家の貯蔵庫なんだね。三代目の時の戦争で家は焼けてしまったんだけど、ここと大楓だけは残ったんだね。それでちょうどいいからと、何代目かが資料の保管庫にしたらしい」
懐かしみながらカイトが降りると、ほとんど記憶と変わらないそれほど深くも広くもない空間に、瓶が三つ置いてある。
中には年季の入った紙の束が詰まっていた。
ユエにはひとつ持つので精一杯なその瓶を、カイトはひょいとひとつは肩にもうひとつは脇に抱えて、三つともバルボア家へと持ち帰る。
中身をすべて書斎に広げると、ガレノスと過ごした過去へカイトの心は一気に連れ戻された。
没頭するカイトの邪魔にならないようバルボアとユエがそっと部屋を出ると、待ち構えていた女性陣に捕まって、昨日のうちに聞き出せなかったあれやこれやを根掘り葉掘り聞き出される。
どこまで話していいかわからないユエが悩んでいると、バルボアが「話したくないことは話さなくていいからっ」と助け舟を出してくれる。
「話したくないんじゃなくて……話すことでみなさんを危険に巻き込んでしまうかもしれなくて」
カイトもそれを考慮して、バルボアになぜ資料が必要なのかという理由は話していないし、バルボアもくわしくは聞かなかった。
女性陣が知りたがっているのは二人のなれそめなのだが、それも世界の秘密抜きに話すことは、カイトにはできるだろうがユエには無理だ。
昨夜のうちに話し合って、どこまで話すかはバルボア家の人たち次第だと決めていたから、そうユエが忠告すると、バルボア一家は一瞬も迷わずに「ぜんぶ話して」と即答した。
「ほんとうにいいんですか?聞いてしまったら──」「だって事情を知らなければ、あなたたちを助けられないじゃない」
長女がきっぱりと、当たり前のように言うと、他も当たり前のようにうなずいてくれる。
「……ありがとう、ございます。みなさんもカイトの味方になってくれると、うれしいです」
にじんだ嬉し涙をごまかして、ユエは長い長い物語を語り始めた。
***
「……カイト?」
昼を過ぎても書斎から出てこないカイトに、ユエがサンドイッチを差し入れに行くと、「ああ」とうわの空の返事で顔を上げもしない。
集中しているカイトがこうなることは知っているから、ユエは気にせず皿をテーブルに置いて、床に直に座って片膝を立てている背中にふわっと抱きつく。
「カイト……」
「ああ」
やはり反応は鈍いが、これでも声は頭に届いているはずなので、そのまま話を続ける。
「ガレノスさんの子孫さんたち、みんないい人だね」
「……ん」
「ぜんぶ話したんだ、俺たちのことも世界のことも」
「うん」
「驚いてたけど、人魚のおれのこともすぐ受け入れてくれて」
「そうか」
「カイトを助けるために、できることならなんでもしてくれる、って」
「……ありがたいな」
ユエの腕をカイトの手がすり、となでていく。指を絡めてその手を握って、昨日からあふれてばかりのくすぐったいような感情を、二人の手のひらの間に閉じ込める。
「地図はあった?」
「ああ、見つけた」
「よかった……それでね、バルボアさんからちょっと気になる話を聞いたんだ」
そこでやっと、カイトの目が床に散らばった紙から離れる。
「おれだけじゃ判断つかないから、カイトも聞いてくれる?」
ついでに空腹を思い出したカイトが顔を上げると、開けっ放しの扉からそんな二人のやり取りを何人もが目撃していて、「ごちそうさまです」とにやにやされてしまった。
******
「メーディセイン?」
カイトがおうむ返しにしたのは初めて聞く地名だ。しかし口に出してみると、不思議と馴染みがある気がした。
その理由は間違いなく、自分に所縁ある場所だという先入観があるからだろう。
「そう。カイト、あなたの故郷は今ではそう呼ばれているらしい。『封印された地・メーディセイン』と」
バルボアは新しい地図を机に広げると、約二百年前にガレノスが作った地図と見比べるように二人にうながした。「ここだよ」
「……こんなに『赤の大聖堂』に近かったのか」
今の地図でいくと、カイトの故郷に当たる場所は聖会の権力圏内に完全に飲み込まれている。縮尺された地図上ではほんの目と鼻の先に見えるほど。
「大山脈の麓だね」
「それより、大山脈の合間、と言ったほうが正しいと思う」
「合間?」
首をかしげたユエに、バルボアは手で二つの山を作ってみせて「山と山の合間──谷間だね」とぶつかった指の先を示した。
「谷間……」カイトは繰り返した。
「谷間にあった村が山津波に呑まれて、埋まってしまった。土砂が堰堤のようになって谷には水が溜まって、今は湖のようになっているらしい。すべては水の底だ」
「……だから『封印された地』、か」
うなずいたバルボアはここからが本題だと気を引き締める。
「誰も足を踏み入れることのできない、『封印された地』……しかし近年、メーディセイン近郊でなにやら怪しい動きがある。なにをやっているかまではわからないけれど、『どこの誰か』ははっきりしている。──聖会の連中だ」
カイトの故郷で暗躍する聖会──バルボアからの情報提供に、カイトもユエも背筋が寒くなる。
田舎のいち町長に過ぎないバルボア家が、ベレン卿やヘイレンすら知らない情報を握っているのには、こんな訳がある。
ガレノス一族はバルボア曰く「出世が苦手」で、なにせバルボア家が一番の出世頭という有様なのだけれど、それぞれが広範囲に散らばっていて、さらに医の道に従事している者が多いことから、他にはない情報を得ることができるのだ。
そして強い結束力で、情報は本家であるバルボア家へと自然に集まってくる。
そのため権力や資金力に似合わず、この地域の情報収集という点では大貴族ベレン卿にも勝るとも劣らない。
「なかでも、ガレノス一族は『カイト』関連の情報には強いよ。一族郎党、あなたの信奉者だからね」
大げさだと笑い飛ばしたいところだが、昨日の夕食会を思うと決して誇張でも何でもない。
「特に当代に熱烈な信者がひとりいてね、彼女がこの情報をもらたしたんだ。カイト縁の地を巡る『聖地巡礼』、とか言って自分の目で見てきたらしいから、確実な情報だ」
「信者って……」
バルボアの口調が冗談交じりだったから、カイトも苦笑いで聞き流しておく。
「しかし、ということはほんのつい最近のことなんだな」
「彼女が訪ねたのは四、五年前のはずだ。だが近くの村の人の話では、どうやら二十年ほど前から聖会の人間が出入りするようになって、今では常駐しているとか」
「二十年……今さら『ノクス』の再調査を始めたとでもいうのか……?」
カイトのひとり言のような疑問に、バルボアは「どうだろうね。見た感じではなにかを調べているというより、見張っているという雰囲気だったらしいけど」と又聞きを伝える。
そしてカイトとユエの目的を知った上で、もっともな忠告を送る。
「だからね、故郷を訪ねるにしても今はやめたほうがいい。やつらの目的はわからないけれど、あの場所にいる聖会所属の人間が、まさか『ノクス』を知らないなんてことはないだろうし。行けば、危険なのは間違いない」
カイトとしてはただ故郷の場所を思い出せればよかっただけで、すぐさま訪ねてみようという気はなかったのに、むしろこの符合が引っかかって気持ちが揺らぐ。
──故郷へ帰れと、なにかに導かれているようで。
明日にでも出発しそうなカイトを、ユエの冷静な提案が押しとどめる。
「あの……メーディセイン?を訪ねた女性から、直接話を聞くことはできないですか?」
「彼女は……」バルボアはかなり悩んでから「ちょっと待ってて」と席を外すと、次女を連れて戻ってきた。
「フローラ、だったかな」
「そうよ、フローラ・ガレノス。あそこはうちの一族でもそこそこ安定した助産師の家系だったのに、なにを血迷ったのか『冒険家になる』とか言って家を飛び出した放蕩娘よ」
言葉だけ聞くと辛らつな評価に思えるが、口調や表情はいかにも愉しそうで、次女がその女性の生き方を肯定していることが伝わってくる。
「それで、フローラに連絡をつけたいのよね?あの娘は年中ふらふらしてるから、今どこにいるかは……あ、でも、お金がなくなるとどこか一族の家で食べさせてもらうらしいから、連絡回しておけばそのうち捕まるんじゃない?」
逃亡犯を捕まえるような物言いだったが、バルボアは「なるほど」と普通に納得している。
「っていうか、『カイト』がうちにいるって聞けば、あっちから勝手に来るんじゃないかしら」
「……なるほど」
親子はエサを見るような目でカイトを見つめた。
***
エサとなることをカイト自身が許可したため、フローラをおびき寄せるべく一族に広く連絡を回すことになった。
──『カイト』が今、バルボア家に滞在している、と。
「わたしたちが言うのはなんだけど、いいのかい?あなたの居場所を宣伝してしまって」
連絡を回す準備をしながら、バルボアは最後に確認をとる。
それにカイトは「構わない」と端的に答えた。
秘密主義だった以前を知る者なららしくない無警戒さだと驚くかもしれないが、これはカイトの生き方が変わったという証だった。
ひとりで生き延びることから、ユエとともに生きることへと。
そのため今のカイトは、使えるものなら何でも使うつもりだ。ヘイレンでもベレン卿でも、人魚の族長でも教会の代表者でも。
実際にその四者にはすでに、不老の『ノクス』としての素性を明かし、協力を取りつけてある。
カイト=『ノクス』だと感づいていたベレン卿でも、それをわざわざ明言したことは衝撃的だったらしく、珍しくうろたえていたのがカイトにはおかしかった。
それでいくと、ラフィール司教の方がよほど冷静で、くわしく語る前にカイトと亡きアディーン大司教の関係をすぐに悟って納得していた。
人魚には『ノクス』の情報が流れていなかったために、東の族長に信じてもらうにはかなりの時間を要することになった。
それどころか最初は、ユランの名を利用して人魚の信用を得ようとしている、とか、バカバカしいウソをついてユエを騙している、だとか非難の嵐だったくらいだ。
最終的にはユエの懸命な説明と、人魚でも一部しか知らないユランの逸話を披露することによって、何とか信じてもらうに至った。
以前、クウェイルに語ったことがあるように、カイトが考える秘密の守り方の最善策は、誰にも語らないこと、だ。
秘密を知る者を最小限にし、知られた相手を排除するくらいの覚悟を持て、とカイトも自分に言い聞かせてきた。
しかしそれを維持できない場合、中途半端に漏れることがもっとも危険だと、カイトは長年の経験で知っていた。
うわさが流れると、人はどうしても探りたくなるもの。
『知りたい』という欲求に火をつけては、もう消すことはできない。
ならばどうするか──カイトの持論はこうだ。──秘密を秘密でなくしてしまえばいい。
つまり、自ら公にしてしまえ、というのだ。
他人に探られて不正確な情報が流布するよりは、自分で言ってしまった方がいい。
敵が明確になる分だけ、味方も増えるはず。
例えばどこかの貴族に狙われても、ベレン卿の保護下にあることが伝われば、無茶をする輩は減る。
バケモノだと怖れられても、教会が認めていることが知れれば、あからさまな差別はできない。
もちろんやたらめったらと公言はしないが、必要ならばためらわず明かすつもりでいる。
そのため、バルボアの提案にこうもあっさり乗ったのだ。
***
ガレノス一族に連絡を回すついでに、カイトは『赤の大聖堂』に乗り込んだ仲間たちへ向けて手紙を届けてくれるよう頼んだ。
そこには、まだたった二日ながら、バルボア家で得た濃密な情報が記されている。
フローラを待つことが決まって、カイトは急く気持ちを鎮めるように目を閉じて寝台で横になった。
しかしゆっくりした呼吸を心がける胸の上に、それをかき乱す熱っぽい身体が乗り上がってくる。
「……どうした」
用意されたバルボア家の客室の寝台は、男がふたり並んでも十分な広さがある。それなのに横に潜り込むのではなく、わざわざ身体を重ねてきたユエは、『た』の形に開いた口に唇も重ねてきた。
ユエが仕掛けたのはただ熱を分け合いたいという親愛の口づけだったから、カイトも悦を昂らせることはしない。
表面を擦りつけて、優しく吸うだけの軽い口づけを堪能すると満足したのか、ユエは寝る時の定位置へと移動した。
カイトの左腕を枕にして、「フローラさんって、どんな人だろうね」と夢に入る前のふわふわした口調で言う。
「変人揃いのガレノス一族でも、特に変わっているんだろうな。女の身で、この地方でひとり旅をしているんだから、剣の腕もいいんだろう」
「……カイトの信奉者ってことは、フローラさんもカイトのこと、好きなんだね」
それは何か含みのある言い方で、カイトは嫉妬でもしてくれたのかと抱き寄せる腕にいつもより力が入ったが、ユエの心情はもう少し複雑だった。
******
フローラ・ガレノスが登場したのは、それからわずか三日後のことだ。
どのくらいの距離を走ってきたのか、バルボア家の玄関をくぐった瞬間に崩れ落ちたほど。ゴホゴホとせきを繰り返しながら息を整え、バルボアが差し出した水を一気に飲み干して、またせき込む。
「かっ、カイ……っカイっ……!」
「ちょっと落ち着きなさい」
バルボアがさすっている背中は、長旅の疲れを感じさせる色あせた外套の上からもわかるほど、女性にしてはかなりがっちりしている。
騒がしい訪問者に集まってきた家人の中に、見慣れぬ脚を二組見つけて、彼女の動きが止まる。
動きどころか呼吸も止めているのではないかという硬直に、心配になってのぞき込んだバルボア越しに『カイト』を見つけて──フローラの目から涙がぶわっと溢れた。
「う……ううっ……!」
土だらけの床も気にせずに、ガバッと伏せる。うずくまった背中は震え、嗚咽が漏れている。
「うう……、ほんっ、ホンモノ……本物の『カイト』……っ!」
フローラはしばらくその態勢から動かなかった。
やっと顔を確認できるようになると、そこには化粧っけのないさっぱりした女性がいた。
「失礼」声は小さいのに、鼻をかむ音は豪快だ。泣きはらした目を伏せて、未だにカイトの顔をまっすぐ見られないらしい。
そのため話を聞き出す役目はユエが担うことになった。
「メーディセインは『境界』なんですって」
フローラは地元の人間と仲良くなって雑談した内容を話してくれる。
「あの辺りではまだ大山脈信仰が根付いていて、足を踏み入れないどころか、木の実や山菜なんかも採らないくらい徹底しているらしいです。その中でメーディセインが大山脈──つまり神の世界と人間の世界の境界と考えられていて、だから地元の人たちは、土足で荒らすような真似をする聖会に怒っていましたよ」
「聖会の目的は、近くの人も知らないんですか?」
こちらの紹介もそこそこに話を急かしてしまったから、フローラはまだユエのことを単なる同行者だと思っているよう。
カイトの声には「ひえっ」と声が裏返っていたが、ユエの質問にはすっと声が出る。
「何にも説明はなかったみたいです。まあ、聖会はいつもそんなもんですけどね。偉ぶって、もったいぶって。……あ、でもいつもの横暴と少し違ったのは、コソコソしてるところですかね」
「コソコソ?」
「はい。注目されたくないって感じで。普通、聖会の人間って、一般の人を同じ人間だと思っていないから、平気で奴隷のように使ったりするんですけど、メーディセインでは雑用すら頼まないらしいです」
「……だから情報が漏れてこないというわけか」
「ひえっ……!」
カイトはフローラの対応にそろそろ慣れてきて、おかしな悲鳴を気にせず考察を続ける。
「二十年前から、というのが気になる。それほどの期間となると、なにかを探しているのか……?それとも『どこか』……いや、なにかを待っている……『誰か』か?……まさか俺が帰ってくるのを待っているとでも……」
ブツブツひとり言のように考えをまとめるカイトに、初めて見るバルボアやフローラは困惑しているが、慣れているユエは構わず「他になにか思い出せることは?」
「えっ?あ、はい!そうですね……あー、でもこれは、あんまり信用できる証言じゃないからな……」
言おうか迷うフローラを、「どんなささいなことでもいいから」とうながす。
「えー……これは耳の遠そうなお年寄りひとりの証言で、ちょっと信じがたい内容なので話半分に聞いてくださいね」
「うん、それで?」
「聖会の連中がひとりのおじいさんのことを、『法王様』って呼んだって云うんです」
「『法王様』?」
その敬称にピンとこないユエに代わって、カイトが「法王?」と声を大きくした。
「ひえっ!」
「つまりメーディセインに法王が来ていた、と?」
「ひ、ひゃいっ!」
「まさか……いくら『ノクス』の故郷だとて、聖会の最高権力者がわざわざ出向くなど……」
それだけ言うとカイトはしばらくひとり言もなく思考に沈み、それからおもむろにバルボア家の書庫を見せてくれと頼んだ。
そこにはガレノスの資料の一部と、その子孫たちが綿々と収集し続けてきた情報が、新旧合わせて蓄積されているという。
手伝いはバルボアだけで充分だとカイトに置いていかれたふたりは、その時になって初対面だったことを思い出したように、今さらな自己紹介を始めたのだった。
***
「えぇっ?!それじゃああなた、『カイト』の恋人なのっ、ですかっ?!」
フローラはユエよりも短い髪を振り乱して、大きな動作で驚きを表す。
「そう、です」
次に何を言われるか身構えたユエに、彼女はくりくりした見開いた目のまま、「……いい」とぼそりつぶやく。
「えっと、なんて?」
「……いい……っ、いいですっ!最高です!!」
「へ?」
フローラはガシッとユエの手を握ると、ブンブンと握手を振り回す。その勢いでユエの身体はがくがくと揺れるが、そんなことは気にせずもう一度噛み締めるように「いい……!」
「えと……それはカイトの恋人としておれのことを認めてくれたってこと?」
「認めるなんて……!そんなおこがましいですよ!でも、でも……!あの『カイト』の恋人が、男性で?人魚で?劇的な出会いに、数々の困難をともに乗り越えて……!!くぅ~……、推せますっ!!」
「おせ……?」
「つまり、応援したいですっ!応援させてくださいっ!」
至近距離に迫った瞳は少年のようにキラキラしていて、目の前にいるのが三十前後の女性だということをユエは一瞬忘れてしまう。
「っ……!」フローラは自分の暴走をすぐに反省したようで、また大げさな仕草で「あぁ……!ごめんなさいっ」とソファに土下座した。
「ほんっと、興奮してごめんなさいっ!私からすれば絶対に会えないと思っていた憧れの人が、まるで絵の中から出てきたような……夢心地なんですっ」
「でもフローラさんは、おれのこと応援してくれるの?」
「んん?!『でも』ってどういう?」
ユエはフローラのこの好意的な対応に、想定していたものと違うとかなり困惑気味だった。憧れの『カイト』の恋人という存在など、もっと否定されると思っていたのだ。
『ふさわしくない』──人魚がカイトに放ったようなひどい言葉で。
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